台湾招待の「民主主義サミット」 一方、米が“重視”するベトナムを除外した意図は

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月25日放送)に二松学舎大学国際政治経済学部専任講師の合六強が出演。12月にアメリカで開催される「民主主義サミット」について解説した。

台湾招待の「民主主義サミット」 一方、米が“重視”するベトナムを除外した意図は

2日、英グラスゴーで記者会見するバイデン米大統領(ロイター=共同) =2021年11月2日 写真提供:共同通信社

アメリカ、12月の「民主主義サミット」開催で台湾を招待

アメリカ国務省は、12月9日から10日にかけてオンラインで開かれる「民主主義サミット」の招待リストを発表した。バイデン大統領が主催し、民主主義国のリーダーたちを招いて開かれるサミットで、日本や台湾など110ヵ国が招待されている。

飯田)強権的とされている国々、中国、ロシア、トルコ、ハンガリー、アジアではタイやベトナムなども招待されていないようです。中国は台湾が招待されたことに対して当然、反発していますが、台湾からはデジタル大臣であるオードリー・タンさんが出ることが発表されております。このサミットはどういうものになりそうですか?

合六)具体的に声明などを出すのかどうかはわかりませんが、バイデン政権が今年(2021年)1月に成立して以降、「民主主義と専制主義、あるいは権威主義の戦い」という構図で世界を捉えて、その念頭に中国やロシアを置き、イメージを定着化させようとして来ました。その1つの具体的なプロジェクトとして、民主主義サミットが開催されることになり、どのような国が選ばれるのかが注目されていました。

飯田)具体的なプロジェクトとして。

合六)台湾を選択したというのは、バイデン政権になり、トランプ政権時代からの台湾に対する関与がより強くなっているなかで、当然と言えば当然です。

タイ、ベトナム、シンガポールは招待せず

合六)他方、インド太平洋という地域を見たときに、ASEANの存在は重要になって来るわけですが、ASEAN諸国もヨーロッパ同様に多様な国があり、そのなかでタイやベトナム、シンガポールは招待されていません。

飯田)シンガポールも抜けているのですよね。

合六)一方でフィリピンのような、権威主義的な政権構造になっている国も招待されています。この辺りをどのように考えるかが難しいと思います。

飯田)なるほど。

合六)今年7月にバイデン政権のオースティン国防長官もベトナムを訪問していて、(ベトナムを)重視する姿勢を示していますけれども、やはり「民主主義と専制主義、権威主義」というフレームワークにすると、アメリカにとって重要な国でも外さざるを得ない。このような状況を今後、どうフォローアップして行くのかというところは注視して行きたいと思います。

注目される米仏関係の今後

飯田)結局、線引きしてしまったがために「自分たちは外されたのか」ということになると、中国にとっては「俺たちの方に来なよ」という状況になってしまう。

合六)その辺りは心配ですが、招待したけれどあちら側が拒否したのか、あるいは招待しなかったのか、そこはよくわかりません。とは言え、「民主主義と権威主義」という政治体制を全面に押し出す形で、国際政治、対外政策を進めて行く。もちろん民主主義を守り、人権問題や汚職問題をなくすことは重要なのですが、それが結果的にアメリカの優位、民主主義体制の優位につながるかというところは、これから見て行かなければいけないと思います。

飯田)日米豪印のクアッドという枠組みもそうですし、アメリカ・イギリス・オーストラリアでAUKUSの枠部みもつくりました。他にもRCEPや、TPPもある。いろいろな枠組みを駆使しながら、中国に対峙して行くような形になるのが理想ですか?

合六)バイデン政権の狙いは、さまざまな枠組みをつくり、枠組みと枠組みの相乗効果を期待して、この地域が自由で開かれたものになるということを目指しているのだと思います。

飯田)枠組みの相乗効果を期待して。

合六)気がかりなのは、そのやり方です。アフガンからの撤退しかり、枠組みをつくることが他の同盟国に対して、どういう扱いなのかということが疑問視される部分もあり、そこに関しては心配なところがあります。AUKUSについては、フランスがオーストラリアとの潜水艦契約の破棄という憂き目に遭い、猛反発した問題がありました。

飯田)激怒していましたよね。

合六)この地域にヨーロッパが徐々に関与して行くなかで、2022年にEU理事会の議長国を務めるフランスは、キーになって来る国だと思います。そのフランスを怒らせてしまった。米仏関係自体は、この1~2ヵ月で徐々に前向きな方向に進んでいますが、来年どうなるかというところは見て行かなければいけません。

台湾招待の「民主主義サミット」 一方、米が“重視”するベトナムを除外した意図は

あいさつする中国の習近平国家副主席(当時、右)と、バイデン米副大統領(当時)=2011年8月19日、北京市内(共同) 写真提供:共同通信社

インド太平洋地域に注目するヨーロッパ諸国

飯田)ヨーロッパ諸国もインド太平洋には注目していて、米英蘭、それからドイツも艦艇を派遣して来ています。

合六)ヨーロッパ諸国のモチベーションを細かく見て行くと、微妙な違いがあると思います。しかし、共通して言えるのは、インド太平洋という地域が世界経済の中心的な場所になっているにも関わらず、安全保障面、あるいは戦略的な環境としては非常に不安定だということです。

飯田)不安定である。

合六)もちろん、1つの大きな要因として中国の台頭、中国のアグレッシブな姿勢があるので、ヨーロッパとしても、この地域に関与することで影響力を確保したい。彼らも自分たちだけで何かできるとは考えていないので、域内のパートナーである日本やオーストラリア、インド、あるいはASEAN諸国などとの関係強化を進めているというのが、いまの状況ではないでしょうか。

北京冬季五輪への外交的ボイコット ~アメリカが要請したときにヨーロッパはどうするのか

飯田)ヨーロッパ議員の代表団が台湾を公式訪問したというニュースもありましたが、他方、2022年には冬季五輪が北京で開かれます。その外交的ボイコットに関して、アメリカやイギリスは前向きな姿勢を示していますが、ヨーロッパはどうなのですか?

合六)ここ最近のニュースでバイデン大統領、またイギリス政府が検討しているという報道があり、日本はどうするのかという話が出ていると思います。しかしEU諸国については、まだ具体的な動きや声明に関するニュースが出ていないと、私は理解しています。

飯田)出ていない。

合六)ただ、アメリカが今後、要請をして来たときに、各国がどういう反応を示すのか。とりわけ人権問題はヨーロッパ、EUにとっては極めて重要なテーマですので、そこはきっちり見るべきです。日本もアメリカに言われたから、EUに言われたから、ヨーロッパに言われたからではなく、「自分たちは国際秩序のなかで何を理想としているのか」ということから考える。その上で「国際社会のなかでどのような立ち位置でいたいのか」というところから行動を起こして行く必要があると思います。

林芳正外相が打診を受けた中国への訪問 ~このタイミングで中国に行くことの意味

飯田)その辺りで、いま岸田政権の外相が林芳正さんになり、中国から訪問の打診を受けた。11月24日、自民党の外交部会は「慎重にやってください」と声明を出していますが、ここは「西側がどう見るか」ということも気にしなければいけませんよね。

合六)協議して足並みを揃えるということは重要だと思います。中国との対話を完全に排除しろと言っているのではなく、タイミングの問題なのです。

飯田)タイミングの問題。

合六)ヨーロッパでも、伝統的にソビエト、ロシアとは「対話と抑止」ということで、2本立てで関係を構築しているわけです。ですから、実務的な対話は偶発的な危機を避ける意味でも重要だと思うのですが、外相がこのタイミングでわざわざ中国に行くという意味を、「他の国がどのように受け止めるであろうか」ということは考えなければいけない。その意味では、アメリカを中心にきちんと協調して対応する必要性が出て来ると思います。

飯田)実務レベルで次官などが行くのとはレベルが違うと。

合六)レベルが違いますし、外交においては、会談が開かれる場所が重要になります。中国でやるのか、あるいは日本でやるのか、第3の地でやるのか。これはアメリカも慎重にやっているわけです。例えば6月の米露首脳会談もジュネーブでやっています。どちらが行くかということではなく、別の場所でやることによって中立的なイメージを出す。そういうところまで細かく配慮することが、外交には求められるのだと思います。

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