ペロシ下院議長の台湾訪問は中国が「強硬姿勢に出るチャンス」を与えてしまっただけ

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経済アナリストのジョセフ・クラフトが8月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。8月8日も行われた中国軍による台湾周辺での軍事演習について解説した。

ペロシ下院議長の台湾訪問は中国が「強硬姿勢に出るチャンス」を与えてしまっただけ

記者会見するペロシ米下院議長=2022年8月4日午前、東京・赤坂の在日米国大使館 写真提供:産経新聞社

中国軍が台湾周辺での軍事演習の継続を発表

中国軍で東シナ海を所管する東部戦区は、8月8日も台湾周辺の海域と空域で軍事演習を実施したと発表した。アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問に反発した中国が、台湾を取り巻く形で8月4日から軍事演習を始め、当初は7日までの予定であった。

飯田)7日までの軍事演習のなかでは、日本の排他的経済水域(EEZ)にも5発の弾道ミサイルが撃ち込まれています。ペロシさんの訪問も含めて、ジョセフさんはどうご覧になりますか?

クラフト)「中国は本当は台湾を侵攻しないのではないか」という見方も一部あるのですが、週末に行われた軍事演習は極めて本格的です。しかも、数年前から計画していなければ急にはできないような内容です。中国はそういう想定のもとで動いているということを、まず認識しなければいけない。現実的に考えて台湾侵攻はあり得るということです。

いろいろな国の高官が台湾を訪れることが常態化するのを恐れる中国 ~それを阻止するためにも大きな軍事演習を行う

クラフト)もう1つ、中国がいちばん恐れているのは、ペロシ議長が来る、来ないということではありません。それよりも他の国々の政府高官、あるいは議会高官が次々に台湾を訪れて、それが常態化して台湾が事実上、独立のイメージをつくられることです。

飯田)中国が怖いのは。

クラフト)今回は大ごとにすることによって、「他に来る人がいたら、こんなに大変なことになりますよ」というハードルを上げ、他の国々が台湾を訪問するのを抑制するという意図があったのではないかと思います。

飯田)今年(2022年)に入ってからも、ヨーロッパの議会人や要人、あるいはアメリカからも元政府高官や議会の議員が訪問団を連ねて行くことがありました。

クラフト)それが続くと常態化して、台湾が1つの国に見られかねないので、それを危惧したのだと思います。

中国が強硬姿勢に出るチャンスを与えてしまった ~ペロシ議長の訪台で台湾情勢は変わったのか

クラフト)問題はアメリカのペロシ議長が、中国に強硬姿勢に打って出るチャンスを与えてしまったことです。

飯田)ペロシさんが行ったことによって。

クラフト)ペロシ議長本人が行くことによって、台湾情勢の何が変わったのか。何も変わりません。では、何が得られたのかという問題ですが、よく言えばペロシ議長が議長である間に台湾へのサポートを示した。悪く言えば、自分のレガシーのために台湾を訪問したという事実をつくっただけです。

飯田)何が変わったのかと言えば。

クラフト)これだけのためにアメリカは空母を向こうに送ったり護衛機を出したり、どれだけの税金が使われたか。いちばん可哀想なのは台湾です。中国から経済制裁をされ、軍事演習によってミサイルは上に飛ばされる。アメリカは何も被害を受けていませんが、台湾にとってはいい迷惑です。これは問題ではないでしょうか。

バイデン政権の求心力が失われている ~ペロシ氏の訪台を止められなかった

飯田)報道もされていますが、ホワイトハウスは国務長官も国防長官も含めていろいろな人が止めにかかった。新型コロナに罹っていなかったら、バイデンさんが直接会って止めるつもりだったというような話もあります。

クラフト)直接会わなくても電話くらいはできるのでしょうけれど、4週間以上かけて説得しようとしたのですが、止められなかった。バイデン政権の求心力が失われているということが大きな問題です。

飯田)バイデン政権の求心力が失われている。

クラフト)今回は下院のペロシ議長ですが、上院が新たに「台湾政策法2022」という法案を審議しようとしているのです。この法案のなかには、4年間で45億ドルの軍事支援の提供、あるいは台湾をNATO非加盟の主要な同盟地域に指定するというような、中国が到底許せない条項が盛り込まれています。

飯田)上院が。

クラフト)これもバイデン政権は何とか止めようとしているのですが、いまのところ止められていない。アメリカ議会と中国の正面衝突のなかにバイデン政権が挟まれているという、情けない状況になっているのです。

飯田)もともとバイデン氏は議会にも顔がきくということが言われていましたが、いまはそんな状態ではないわけですか?

クラフト)まったく効果はないですね。

台湾有事の場合、与那国島から沖縄まですべて攻撃対象に入る

クラフト)一方では今回の教訓として、日本の排他的経済水域にミサイルが撃ち込まれたということは、台湾有事が日本を巻き込む有事であると認識しなければいけません。

飯田)中国は、台湾が言うには11発、日本が確認しただけでも9発のミサイルを撃ってきた。そのうちの5発が日本の排他的経済水域に入っています。この5発は、当然コントロールして入れてきているわけですよね。そこには「日本も狙うぞ」というメッセージが込められているのでしょうか?

クラフト)台湾有事の場合には、台湾を支援できる地域を中国が同時に攻撃するのは当たり前のことです。そうすると、与那国島から沖縄まで全部が対象に入るわけですから、当然、日本が中国からの攻撃対象になることは間違いありません。

日米はどこかで断固たる態度を見せる必要がある

飯田)台湾有事は日本有事だと。そのときにどういうものが発動できるのか。

クラフト)今回は、本来であれば中国の軍事演習に対して、日米も軍事演習を行って力を見せつけ、抑止しなければいけないところです。ただ、おそらく現状それをやると双方の対立が高まるだけなので、バイデン政権としても、沈静化を狙って大人しく出ているのだと思います。しかし、ずっと黙っていると中国はいい気になりますから、どこかで断固たる姿勢を見せる必要があると思います。

飯田)「環太平洋合同演習(リムパック)」を行っている最中ですものね。

クラフト)こういう状況に至った以上、中国は力しか重んじませんから、力には力で対抗する必要があると思います。

飯田)日本としては、アメリカと連携を深めることで抑止していく。

中国軍の手の内が見えた今回の軍事演習

クラフト)アメリカ軍の関係者から聞いた話なのですが、今回のことで1ついいところがあるとすれば、軍事的に言うと、中国の手の内が見えたということです。どれだけ中国軍が連携できて、どういう作戦を取り、どういう軍事体制があるのかを実践で見ることができたのです。

飯田)今回の軍事演習で。

クラフト)もちろん中国側も、手の内を見せていることは当然、理解しています。そういった意味でアメリカ軍としては、これを参考にどう対処していくべきか。これから軍事体制を見直していくことになると思います。

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