統合幕僚長の他に「統合司令部」と「統合司令官」を新設しなければならない「自衛隊の組織的な事情」

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国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙が10月31日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。陸海空の自衛隊を一元的に指揮するために新設される「統合司令部」について解説した。

統合幕僚長の他に「統合司令部」と「統合司令官」を新設しなければならない「自衛隊の組織的な事情」

視察に訪れ、海上自衛隊員に訓示する浜田靖一防衛相=2022年9月5日午後2時13分、神奈川県横須賀市の海上作戦センター 写真提供:産経新聞社

陸海空の自衛隊運用を一元的に担う「統合司令部」新設へ

政府は陸海空の3自衛隊の部隊運用を一元的に担う常設の「統合司令部」と、作戦を指揮する「統合司令官」を2024年にも新設する。米軍との一体性を強化するため、意思疎通と戦略のすり合わせを担う組織と位置付け、台湾有事を念頭に日米統合運用を進める。

最高責任者である統合幕僚長の他に、統合司令部や統合司令官を加えなければならないのか

飯田)以前から検討は進められていましたが、年末に改定する安全保障関連3文書のなかに、この方針を盛り込むということです。いままではどうしていたのですか?

神保)いままでは自衛隊も当然、現代の軍事作戦は陸海空の統合運用というのがデフォルトで、自衛隊の統合作戦も既に長年の積み上げがあるわけです。基本的には統合任務部隊のようなものをつくり、そのときに主要となるフォースプロバイダーが統合作戦の責任を担うということです。

飯田)フォースプロバイダーが。

神保)ただ、「指令を行うトップの組織」は統合幕僚監部なのです。フォースユーザー(事態対処責任者)の最高責任者が統合幕僚長です。いま実際に統合幕僚長はいるのですけれども、そこになぜ統合司令部や統合司令官を加えなければいけないのか、というのが今回の問題です。

有事における統合幕僚長が担う役割があまりに多すぎる ~総理官邸に詰めて政策決定を補佐し、その上で軍の指揮命令を執行しなければならない

神保)まさに統合作戦でしたが、東日本大震災の指揮を担った折木元統幕長が常に言っておられたのは、「有事における統合幕僚長が担う役割があまりに多すぎて、自衛隊の指揮命令をリアルタイムで行うために割く時間が少ない」ということです。

飯田)自衛隊の指揮命令をリアルタイムに下すための時間が少ない。

神保)どういうことかと言うと、一方で自衛隊の最高司令官は総理大臣なのです。ここから命令の執行を担う防衛大臣が統合幕僚長を通じて執行を行う構図になっているので、常に統合幕僚長はシビリアンの政策決定を補佐する役割です。つまり官邸に詰めないといけない。

飯田)シビリアンというのは文民、総理官邸ですよね。

神保)そうですね。詰めて説明し、判断を仰がなくてはいけないのですけれども、統合幕僚長のもう1つの役割は、軍の指揮命令を執行することです。

飯田)決まったことを指揮命令して実行するという。

神保)官邸に詰めて議論している間に、現場は動いているわけです。軍の指揮命令をリアルタイムで執行せずに、どうやって現場を統率するのだという問題を乗り越えるため、統合司令部、統合司令官を別途設けるべきではないかという議論なのですよね。

今後の統幕長は首相と防衛大臣を補佐し、統合司令官は部隊指揮に専念する

飯田)意思決定の流れとして、「大枠はこうやりましょう」というのは当然、官邸などから下りてくる。それを細かく「君はこれをやって、あれをやって」という作業があり、いままでは1人で指揮しなければならなかった。その部分で「現場に上手く伝えてくれ」という人を1人つけるようなイメージでいいのですか?

神保)そうですね。これまで統幕長はスーパーマンでなくてはできなかったのです。一方で官邸に集中し、一方では現場に集中する。両方できる役割なのですけれども、それでは組織としてうまくいかないだろうということです。

飯田)組織として。

神保)統幕長は首相と防衛大臣をしっかり補佐し、統合司令官は部隊指揮に専念するという形です。いまは統合幕僚監部に運用部門があるのですが、これが常設の統合司令部に格上げされるのではないかと思います。

統合幕僚長の他に「統合司令部」と「統合司令官」を新設しなければならない「自衛隊の組織的な事情」

2022年10月25日、記者の質問に答える岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202210/25bura.html)

日本の政策決定を補佐する重要な統幕長の役割

飯田)先ほどフォースプロバイダーとフォースユーザーという言葉がありましたが、フォースプロバイダーは力を供給する側だから、3つの自衛隊、現場ということですね。

神保)そこが錬成して「統合部隊のために仕上げてください」というのがフォースプロバイダーなのです。

飯田)フォースユーザーはそこに命令を下し、実際に運用する側というイメージですね。

神保)まさにそれが統幕の役割なのですけれども、日本の政策決定は非常に時間がかかるものですから、時間が動いていくなかで官邸の人間の意思決定という生々しい場所に身を置き、最適な決定を補佐しなくてはいけないということです。

飯田)決定するにも情報がなくてはできないわけですから。

神保)そうですね。

新設の統合司令官と統幕長との関係性をどのように規定するのか

飯田)それを入れていくのは大変な仕事ですよね。

神保)そう考えると、これだけ時間との戦いが重要な防衛の現場において、司令官の役割が重要だということは理解できます。他方、戦後のシビリアンコントロール(文民統制)との関係から言うと、「総理、防衛大臣、統合幕僚長と現場の指揮官が綺麗につながっていて欲しい」というのが、制服組だけではなく内局の背広組の観点からも重要なポイントになります。新設の統合司令官と統幕長との関係性をどう規定するのかは、細かく定める必要があるだろうなという気がします。

統合司令部は軍事的合理性で判断し、統幕長と総理大臣一派は政治的合理性で判断する ~これをどう戦わせるか

飯田)その司令官が3幕に対して指示を出すわけですよね。3つの幕僚監部のトップは、当然ながら昔で言うところの各軍の大将クラスが担っているから、そこに対して納得のいくクラスでなくてはいけない。

神保)まさに最も信頼される執行役の監部自衛官が、統合司令官になります。ポイントは先ほどの話で言うと、統合司令部は軍事的合理性で何を判断するかということだと思うのです。統幕長と総理大臣一派は政治的合理性なのです。これをどう戦わせるかというのが大きなポイントですね。

日本の場合、「法律的に行っていいのか、いけないのか」が複雑で権限が委譲されていても、運用できないということにもなる

飯田)我々が勤めている会社なども一緒で、上からすべてを事細かく指示することはなかなかできない。かといって現場の判断でいろいろと動くと、「そこまでやれとは言っていないだろう」というようなことが起こり得る。意思決定の仕組みをつくるのは、どこでもいろいろと悩むところなのですか?

神保)いまの軍の運用は自律分散型になっていて、それぞれの指揮官が高い権限を持っている方が軍は強くなるというセオリーがあるのです。今回のウクライナ侵攻だと、ロシア軍は地上戦でそれができず、「指示待ち」で自分で判断できずに攻撃を受けるところが大きかったのです。

飯田)指示待ちになってしまい。

神保)権限の分散は、信頼ある形でできていた方がいいのだと思います。日本は法律でがんじがらめになっているから、「あれはいいのですか? これはいいのですか? これは法律に沿っていますか?」というように、バラバラになってしまうリスクもあるわけです。

飯田)昔から言われていますが、ネガティブリストと呼ばれる「やってはいけないもののリスト」を各国の軍は持っていて、「それ以外であれば何でもやっていい」というのを目的に頑張る。ところが日本の場合は「これはやっていい、これはやってはいけない」というのが決まっているから、いちいち法律をひっくり返さなければいけません。

神保)慎重な部隊長は萎縮してしまうわけです。「本当にやっていいのだろうか? 責任問題にならないだろうか?」と考えていると、権限が委譲されていても運用できないこともあるのです。これはなかなか解けない大問題です。

統合幕僚長の他に「統合司令部」と「統合司令官」を新設しなければならない「自衛隊の組織的な事情」

※イメージ

まずは統合幕僚長と統合司令官の役割を規定して、自衛隊がきちんと運用できる体制を整えることが大事

飯田)突き詰めていけば、結局、憲法9条の戦力不保持のようなところにかかってくるわけですよね。

神保)まさに軍の組織カルチャーと法的基盤をどのように変えていくかということに行きつくのですが、それを議論し始めると戦後の話すべてに及んでしまいます。とりあえず、いまは統合幕僚長と統合司令官の役割をしっかりと規定して、自衛隊がきちんと運用できる体制を整えることが大事だと思います。

財務省の財政制度等審議会 ~防衛費をどのように拡大するのか、予算規模と財源をどうするのかを具体化しなければならない

飯田)神保さんは先日、財政審で講演されたということです。

神保)そうなのです。私はいろいろな審議会などに出ていますが、財務省の財政制度等審議会には初めて出ました。大変重い会議だということを、出て初めて理解しました。

飯田)重い会議であると。

神保)これは財務大臣の諮問機関で、国の予算の策定や見直しに提言を行う、政府に数多ある審議会のなかでも重い位置付けのものです。並んでいるのも重鎮の方々ばかりでした。10月28日には財政制度分科会で防衛問題に関する集中討議があり、有識者ヒアリングということで私も参加しました。

飯田)財政審というと「歳出は絞って、税金を上げることで歳入を上げようとする」という引き締め型なのかなと思ったのですが、いかがですか?

神保)私もそうだと思って行ったのです。これから議事録などが公開されると思うので、皆さんにも雰囲気がわかっていただけると思うのですが、委員の皆さまも「防衛力の抜本的な強化と防衛費の拡大」については、コンセンサスに近いほど国民の理解が広がっているということを強調されていました。

飯田)防衛力の抜本的な強化と防衛費の拡大というところは。

神保)もはや不可避なのだということをおっしゃる方が多かったのです。私にとっては新鮮な驚きだったのですが、厳しい目線が注がれているのが、防衛費をどのような戦略のもとで、どの程度拡大するのか。そして予算規模と財源をどうするのかということを具体化しなくてはいけないという、厳しい注文があったことは事実です。

飯田)どのように拡大するのか、予算規模と財源をどうするのか。

神保)財政を見ている側からすれば、健全な財政なくして安全保障はないだろうとか、裏付けのない国家予算が純増していくことに対する警戒があるでしょう。裏付けるとすれば、どこかで国民の負担増のような議論を真面目にやらざるを得ないと思います。

拡大する防衛費を何に使うのか、国民の理解を積み上げていかなければならない

飯田)先の大戦の反省等々も当然あるでしょう。ただ、「現状のままでは危ないのではないか」というのは、みんなの共通認識にはなっているのですね。

神保)そうですね。ただ、防衛費を増やすとしてもどう増やすのか。その理解と合意形成が国民に広がらないと、やはりサステイナブルではないということになってしまうのです。

飯田)持続しない。

神保)これは向こう5年間の中期防衛力整備計画のなかでの予算の考え方であり、基本的には継続するものだということです。2023年度の概算要求は、約5兆6000億円くらい出しているのですけれども、ここに100項目程度の「事項要求」があり、その金額が明示されていないのです。「国民の理解を積み上げていかなければならない」ということなので、具体的な中身を議論していく必要があると思います。

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