「なぜ防衛費を増額しなければいけないのか」をまず議論するべき

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中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也が12月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理が検討を示した防衛費増額に伴う増税について解説した。

「なぜ防衛費を増額しなければいけないのか」をまず議論するべき

※画像はイメージです

岸田総理大臣、防衛費増額に伴う増税の検討を示す

岸田総理大臣は12月10日、臨時国会の閉会を受けた記者会見で、防衛費増額の財源として増税を行う考えを改めて示すとともに、国債を発行する可能性を「未来への責任」として取り得ないと否定した。防衛費をめぐる増税の検討には、自民党内でも反対意見が出ている。

飯田)まずは会見の内容から引いてきましたが、一方では、年末までに改定される「安保3文書」作成の全容が判明してきています。こちらの方は「反撃能力の保有」については明記されるようです。ただ、「必要最小限度の自衛の措置」と定義し、専守防衛の考え方に変わりはないという話が出ています。

「なぜ防衛費を増額しなければいけないのか」をまず議論するべき

野村)いままさに飯田さんがおっしゃったことが最も大事で、何となくニュースでは増税の話ばかりになってしまっていますが、そもそも「なぜ防衛費を増額しなければいけないのか」を議論する必要があります。

飯田)そうですね。

野村)それを踏まえた上で、国民が納得し、それをどう評価していくかが大事だと思います。防衛3文書の方が本当は大事ですが、これはまだ確定していないので、ニュースでは時間的に逆になってしまっているという感じです。

飯田)物事の筋道としては、まず必要があって、そのためにお金をどう用意するかという話になるはずですよね。

野村)筋道としては必要性から来るわけではないですか。結局、防衛3文書のなかで議論されているのは、「いまの日本の防衛力は本当に大丈夫なのか」という話なのです。

いつ日本のインフラがサイバー攻撃で麻痺してしまうかわからない ~サイバー攻撃や電磁波を使った攻撃に対する防衛力が不十分

野村)1つ目は「宇サ電」ですよね。

飯田)宇サ電。

野村)宇サ電とは宇宙・サイバー・電磁波なのですが、いまは戦争の仕方が変わっています。まさに宇宙からいろいろなものを監視しているし、サイバー攻撃や電磁波を使った攻撃に対する対応力や防衛力が、日本では不十分なのです。

飯田)サイバー攻撃や電磁波を使った攻撃に対する防衛力が。

野村)それは政府も認めていて、早急に手を加えないと、いつ日本のインフラがサイバー攻撃で麻痺してしまうかわからない。国民が生活できない状況になってしまう可能性をどのように防ぐのか。国民の命を守るためには自衛力を高めなければいけません。

飯田)国民の命を守るために自衛力を高める。

攻撃を受けたあとに、次の攻撃を防ぐこともできない日本の現状 ~スタンド・オフ・ミサイルと無人アセットの開発・保有が必要

野村)もう1つが反撃能力です。反撃能力という話は基本的に、これまでの憲法解釈上では「相手方がミサイル発射に着手することがわかった段階で、1発、国内に来てから初めて動いたのでは間に合わないので、早めに反撃する」。

飯田)憲法解釈上は。

野村)それだけではありません。1発攻撃を受けたあとでも、日本には反撃する能力がないのです。着手の話に焦点がいってしまっていますが、実は攻撃を受けたあと、次の攻撃を防ぐこともできないという状況です。

飯田)現状では。

野村)できると言っているのに、その部分の能力を保持せずにきたので、早く保持した方がいいという話になっています。具体的には「スタンド・オフ・ミサイル」があります。「スタンド・オフ」というのは「離れている」という意味です。相手方の艦船の射程距離には届かないところに置いてあるのですが、こちらは長距離を飛ぶので反撃できるという、スタンド・オフ・ミサイルのようなものをつくらなければいけない。

飯田)スタンド・オフ・ミサイルをつくる。

野村)また、既に大きな問題になっていますが、ドローンのような無人アセットに対して、日本の場合は防衛も難しいし、攻撃も難しい。

防衛問題の話が増税反対の問題になってしまって、防衛力強化を反対する方向に向かってはならない

野村)急がなければいけません。その辺りの議論をまずしっかり行い、国民に対して「増税するのか」という議論にいかなければならない。飯田さんは増税についてはどうお考えですか?

飯田)高市経済安保担当大臣や、西村経産大臣なども指摘されていますが、いまではないと思います。とりあえずの形でもいいから、まず国債などで出しておかないと、経済が落ち込んでしまったら結局何にもならないというのは、確かに聞いていてそうだよなと思いました。

野村)そうですよね。

飯田)必要な部分は何となくわかるのですが、もっと具体的に言ってもらわないことには。

野村)そうだと思います。国民が最も心配するのは、「増税」という言葉によって「生活がこれだけ苦しい状況のなかで、また圧迫されてしまうのか」と懸念してしまう。また、防衛費の必要性を強く主張している人にとってみると、防衛問題の話がいつの間にか増税反対の問題になってしまって、防衛力強化を反対する方向に向かわないか懸念されているのです。

飯田)増税問題になってしまって。

野村)これはあってはいけない議論なので、やはり議論が逆になってしまっている問題がまずあります。

外為特会の含み益を財源として使う

野村)また、「まだ出せるお金はあるでしょう」ということです。よく言われていますが、外為特会のなかで含み益が発生している。ドル建てで概算を持っているので、これを円に変える段階で帳簿上の価格よりも高い値段で売れているとなれば、そこで運用益が出ているし、売っていない段階だとすると含み益が出ている。ある程度の含みを出して、財源として使うということは、2006年ごろからずっと言われています。

飯田)外為特会の含み益を財源として使う。

野村)小泉内閣の時代の骨太のなかにも書かれていました。外貨の準備高が諸外国に比べて多いのです。多く持ちすぎているので、逆に為替操作をしているのではないかと言われるから、動けなくなってしまっている。

飯田)多く持ちすぎているから。

野村)スリム化するので、その部分はドル建てのものをある程度売ることを了解してもらい、財源をつくる方法を財務省としても試みて欲しいなと思います。

飯田)「為替操作だ」と文句をつけてくるとしたら、アメリカですね。アメリカに対し、「このお金を使って防衛して、皆さんに協力するのです」と言えば納得するかも知れない。

野村)ものも買いますしね。

国内の生産にもお金が回る

飯田)当然、我々だけですべてを開発するわけには、時間的にもいかないですしね。

野村)ただ、「アメリカに貢ぐのではないか」と言う人もいますが、防衛費のうち9割ぐらいは国内にお金が流れるのです。それははっきりしています。国内のいろいろなものを使うので、機密がありますから、国内の生産にかなりお金が回る面もあるのです。海外だけにお金が回るわけではありません。

飯田)アメリカに貢ぐわけではない。

防衛は安全で平和な日本を享受するための準備 ~将来の子どもたちにとっても自益がある

野村)もう1つロジックとして気になるのは、「国債を出すことは将来の世代に対して無責任だ」というような議論です。

飯田)そういう議論はありますね。

野村)防衛というのは、基本的に将来の人々も防衛するわけです。自分たちは年金をもらい、「あとのものは子どもたち自身で払いなさい」というのは、自分たちがもらうものを子どもたちにツケさせているような形になります。しかし防衛は国の、ある意味での安全保障なので、将来の子どもたちにとっても自益があるのです。

飯田)平和で安全な国でなかったら、「将来世代を産もう」という意識にはなりませんよね。

野村)なりませんし、自分たちの国がいまの安全で平和な日本を享受するための準備なので、ある程度、一緒に負担してもらうことはおかしいことではないと思います。ですので、国債でいいのではないでしょうか。

飯田)安全で平和な日本にするための準備であると。

野村)そして、先ほど出てきた時間軸の問題があり、時間がある程度経つと経済が回復してきて、税率を上げなくても法人税が回復する可能性があります。「自然増」という部分もある。そうすると税率を上げる必要がなくなる可能性もあると思います。

飯田)ある意味、安全を無形のインフラとして考えると、インフラ投資では、建設国債は60年の年限でじっくり償還できます。

野村)まさにインフラですよ。私たちの暮らしのインフラが安全だとして、安全はタダではないと考えると、将来の子どもたちにもある程度負担してもらうという点で、国債を発行するのは自然な気もします。

飯田)我々は、「水と安全はタダだ」というような感覚でいましたが、いま周りを見ると「そうはいかない」ということなのですね。

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