G7議長国・日本の岸田総理のウクライナ訪問を妨げる「これだけのハードル」

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ジャーナリストの佐々木俊尚、岩田明子が2月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。NATO本部で始まったウクライナへの軍事支援を協議する関係国会合について解説した。

G7議長国・日本の岸田総理のウクライナ訪問を妨げる「これだけのハードル」

2023年2月4日、記者の質問に答える岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202302/0204bura.html)

NATO、ウクライナへの軍事支援を協議

ウクライナへの軍事支援を欧米各国が協議する会合が2月14日、北大西洋条約機構(NATO)本部で始まった。ウクライナなどが2月に行われると警戒してきたロシアによる大規模な攻撃が既に始まったという見方もあるなか、各国がどのような支援を打ち出すかが焦点。

ウクライナが消費する砲弾の量がNATO全体の生産数よりも多い

飯田)会合に続いて、NATO国防相会議も2日間にわたって行われる予定です。戦車供与はある程度の形ができて、ウクライナ・ゼレンスキー大統領は、今度は「戦闘機が必要だ」と言っていますが、どういう議論になりますか?

佐々木)そもそも、弾が足りなくなってきています。ウクライナ軍は1日に約1万発の砲弾を撃っているそうです。すごい数ですよね。ウクライナで消費されている砲弾の量が、NATO全体で生産している量よりも多いのです。

冷戦後、軍縮に進んでいったヨーロッパ諸国

佐々木)冷戦が1990年ごろに終結したのですが、それまでは東側のワルシャワ条約機構軍とNATOが対峙していました。一触即発の状態が20年間くらい続いて、弾薬も戦車も増やし、核の抑止力も、という感じだったのです。

飯田)冷戦が終わるまでは。

佐々木)ところが冷戦が終わると、「リベラルな世界秩序の勝利である」ということで、徐々に軍縮に進んでいったのです。イギリスなどは戦車の生産をやめてしまった。ドイツは東ドイツなどと国境が接しているところで、大量に「レオパルト」という優秀な戦車を持っていたのですが、いらなくなったということで、NATO傘下の他国に売ってしまったのです。だからいまレオパルトがNATO全体にあるのですが、それをウクライナに渡すかどうかで議論になっていたわけです。

再び戦車や弾薬が大量に必要になる戦争が起こるとは誰も予想していなかった

佐々木)まさかこれほど戦車や弾薬が必要になる戦争がもう1回起こるとは、誰も思っていなかったのです。ロシアによるウクライナ侵攻が始まる前の戦争の議論は、「これからはドローンやサイバー空間など、いわゆる非対称戦になるだろう」ということでした。イスラム国との戦いなどがあったではないですか。

飯田)軍隊と軍隊が戦うのではなく、テロリストとどう対峙するかというような。

佐々木)今回のような正規戦が起きるとは誰も思っていなかったのです。NATOも「この先どうするのか」というような感じになっているわけです。

G7各国首脳のなかでゼレンスキー大統領と対面で会っていないのは日本だけ ~事前報道によって2月24日ごろの訪問は難しくなった

飯田)日本は今年(2023年)のG7議長国ですが、日本の関わりも含めてどうご覧になりますか?

岩田)日本はG7の議長国ですけれども、まだゼレンスキー大統領と対面で会っていないのは、G7のなかでは日本だけです。各国の結束を示すためにも「対面で会いたい」ということで、ウクライナ訪問も検討されていました。しかし、情報管理の話になりますが、事前報道が出たため「2月24日ごろの訪問」は難しくなってしまった。

佐々木)あんな情報が事前に出るのは本当に危険ですよね。

岩田)よくアメリカの方から「日本は政治家の秘密を守る権利がないのか」などと言われます。

飯田)秘密を守る権利。メディアとして、「政治家の情報は何でも暴いていいのだ」というような矜持は必要かも知れませんが、これは安全保障に関わるところです。

岩田)海外で要人が紛争地域を訪問するときは、情報管理を徹底した上で報道の解禁時間も設定し、記者団が同行して、安全が確認されたところで情報解禁するというスタイルです。

G7議長国・日本の岸田総理のウクライナ訪問を妨げる「これだけのハードル」

ウクライナのゼレンスキー大統領(ウクライナ・キーウ)=2022年11月26日 EPA=時事 写真提供:時事通信

岸田総理のウクライナ訪問における大きな課題は「安全確保」の難しさ

岩田)2009年に安倍元総理がバグダッドで、イラクの大統領と油田の交渉をした際、私もバグダッドに行きました。そのときはオーストラリアの民間警備会社についてもらい、防弾チョッキを着て取材しました。

飯田)バグダッドで。

岩田)当時はまだ迫撃砲なども飛んでいて非常に危険な状況でしたから、「滞在時間は4時間」という約束を守ってくれと言われました。4時間以内に飛び立つと。

飯田)滞在時間は4時間。

岩田)それから、テロリストに我々が来ていることを悟られないよう、注意しながら同行しました。そのときも報道は事後、「飛び立ったあとに解禁」という形を取りました。

飯田)事後解禁と。

岩田)今回、岸田総理のウクライナ訪問が実現するかどうかは、国会日程の問題もありますが、いちばんのハードルは安全確保の難しさです。これが日本にとって最大の課題です。

飯田)安全確保の難しさ。

岩田)警護というのは主権の行使になりますので、原則として、受け入れ国であるウクライナの責任になるのです。通常ですと、事前に相手国の治安や社会情勢を調べに行くのですが、今回はそれが極めて難しいという実情もあります。

飯田)現状のウクライナでは。

岩田)ウクライナの警護当局が機能していることまでは確認できているのですが、ウクライナの警護当局がどのような能力を持ち、どのような体制が取られているかは把握しがたい状況です。

佐々木)アメリカなどは自前の警備部隊を連れていきますよね。あれは特殊なのですか?

岩田)そうですね。日本の場合は一応SPも同行しますけれど、拳銃は置いていく形で、相手国に任せるのです。日本が同行する場合は「見せる警備」ということで、訪問国と調整した上で、受け入れ国が前面に出て、日本は見せているだけというのが実態になります。

ポーランドから陸路で向かうためには事前にポーランドとの調整も必要

岩田)今回、岸田総理がもしウクライナへ訪問することになると、上空はドローンやミサイルが飛んでいますので、陸路しか考えられません。そうするとポーランドから入ることになります。

飯田)ポーランドから陸路で入る。

岩田)ドイツやフランス、イタリアの首脳たちは特別列車でポーランドからキーウに入っています。そうなると、今度はポーランドとの事前調整が必要になります。

飯田)ポーランドとの調整も必要になってくる。

岩田)今回、ウクライナへの訪問が実現するかは、ひとえに安全確保の調整ができるかどうかということです。官邸は「サミット前にどこかで実現すればよい」という考えだと思いますけれど、日本だけの問題ではありませんので、ハードルはかなり高いと思います。

海外に日本の首脳が行ったときに自衛隊が警護できるのか ~日本もグローバルスタンダードを考えなければならないときがきた

佐々木)他のG7各国の首脳も訪問していて、ポーランドやウクライナの警備に任せているのであれば、「日本も行けないはずがない」という話になりますよね。

岩田)そうですね。ですので、自衛隊法の問題になっていきます。首脳が海外に行ったとき、それを自衛隊が警護できるかどうかという論点になると思います。

飯田)アメリカは情報機関もウクライナに入れていると言われます。アメリカは自分たちでも情報を取れる環境がありますが、「同じことを日本ができるか」と考えると、なかなか難しいですよね。

佐々木)国家機密の問題や自衛隊の海外での活動の問題など、対応できていなかったことがたくさんあるので、「こういう事態になると狼狽えてしまう」という日本の現状は残念なところです。

岩田)そろそろ「グローバルスタンダード」を考えなければいけない時期なのかも知れません。

情報が抜けてしまう日本

飯田)イギリスのジョンソン元首相がウクライナを訪問したときは、散歩している映像が出て「行ったんだ」とみんなが思いましたが、あれこそがメディアも含めた国際的なスタンダードなのですよね。

佐々木)日本は2001年の同時多発テロのときに、当時の外務大臣だった田中真紀子さんが、よせばいいのにアメリカ副大統領の居場所的な情報を話してしまい、大問題になったことがありました。政治家側も、安全保障の機密という概念が乏しい国だなと思います。戦後70年以上の日米安全保障の下で、平和にぼんやりしていた状態なのかなと思います。

岩田)「日本は情報が抜けてしまう」と、アメリカからもよく怒られました。

飯田)国会にも秘密会の制度がありますけれど、絶対に開けないようなところがあります。誰かが絶対に漏らしてしまうから。

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