43年前、1973年の本日、麻丘めぐみの「わたしの彼は左きき」がリリースされた。
今日もなお歌い継がれている彼女にとっての代表曲であることはもちろん、衣裳や振り付けといったヴィジュアル面も含めて1970年代アイドルの黄金時代を象徴するような楽曲と言えるだろう。タイトルと歌詞内容のユニークさのみならず、様々な点で尽きせぬ話題性と謎を提示してくる作品なのである。
まず、曲調がオールドタイミーな4ビートジャズのスタイルを採っている点である。作曲の筒美京平は同時代のライヴァルたちの多くと同様に大学のジャズ・サークル出身であるが、その影響をアイドルのシングルA面でダイレクトに表出させたケースは極めて稀である。当時アメリカでブレイクしつつあったベット・ミドラーやポインター・シスターズのトレンドをいち早く取り入れたという見方も出来なくはないが、彼女らのアダルトなムードはまだティーンエイジャーだった麻丘めぐみには縁遠い気がする。
やはり歌詞の韻律やイメージに沿って創作した結果、あるいは女性アイドルのトップに君臨していた天地真理の楽曲がシャッフル系のビートを多用していたのを意識したのであろうか? さらに興味深いのは1973年春の録音ならば起用するセッション・ミュージシャン(リズム・セクション)の中軸が、従来のジャズ系演奏家からGS世代のロック系メンバーへと完全に切り替わった時期にあたる点である。そう思って聴くとスウィング感がどこか硬質なものに聴こえるから面白い。
さて、この曲のテーマは当時まだまだ“抑圧されたマイノリティー”であったサウスポーの人々にスポットライトを充てたという点でも大きな話題となった。作詞の千家和也は同時期に山口百恵の「青い果実」をはじめとする一連のシリーズを手掛けていたことを合わせて考えると、歌詞に登場するシチュエーション以外での彼氏の“左きき”ぶりまでが妄想されてしまうのは否めないところ。その意味で“する時も~”の部分で女声コーラスが歌詞ではなくスキャットでハモリを付けているのも謎である。「歌詞が録音に間に合ってなかったのですか?」と訊いたところ、筒美の答えは「いや詞先だったはずだし、そんなに珍しいことでもないよ」とのこと。だが何といっても詞・曲・歌が三位一体となった曲中のハイライトは、彼女の泣き節を最大限に活かした“意地悪なの”の部分であろう。
千家和也作品としてはキャンディーズの「年下の男の子」、林寛子の「素敵なラブリーボーイ」へと続く“ボーイフレンド紹介シリーズ”の嚆矢ともされているが、筒美によれば当時すでに「年下の~」的な内容の構想は聞かされていたという。それが麻丘めぐみで実現されることはなかったが、穂口雄右が作・編曲を手掛けた「年下の男の子」もどこか「わたしの彼は左きき」に通じるノスタルジックな雰囲気を湛えているあたりが興味深い。
【執筆者】榊ひろと