吐き出す煙に見え隠れする人生の機微【雑学と音楽 ザツオン Vol.6】

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音楽にまつわる雑学を楽しむコラム【ザツオン】
今日はその第6回目

この時期になりますと恒例行事がありますね。
その年その年の流行やエンタメヒットのまとめです!
2016年のヒット商品のひとつは「加熱タバコ」だそうで、累計200万本超の売り上げで品切れ状態だとか。
そう言えば!ヘビースモーカーだった仕事関係者の方が、この“魔法のタバコ”に方針転換したのを見かけました。時代の移り変わりを実感いたします。
でも。煙や灰が出ずニオイも少ない「加熱タバコ」は、非喫煙者の自分にはトテモ有り難いのですが、楽しむ姿は“絵にはならない感”ありますよねぇ。

吐き出す煙に見え隠れする人生の機微。
そんなタバコ模様が音楽に織り込まれました。
♪春色の汽車に寄り添っているのが…煙草の匂いのシャツ。
♪あなたの嘘がわかっちゃうのが…折れた煙草の吸い殻。
♪あなたがどんな顔か隠れて見えないのが…煙草の煙の中。
♪あん娘がカラダに悪くても止められないのが…プカプカ。
♪学生服のポケットに隠しているのが…ショートピース。
♪煙草屋のオバァちゃんからもらったのが…ハイライト。
♪ジャン・ギャバンが吸っているのが…ゴロワーズ。
あげてみるとキリがありませんね!

そんなタバコ歌詞の中で歌謡史上最高傑作がコチラです!
ちあきなおみさん名唱なシングル「劇場」(1973年)

劇場,ちあきなおみ

吉田旺作詞/中村泰士作曲のドラマチック歌謡三連作、昭和歌謡の金字塔「喝采」「劇場」「夜間飛行」です!
その「劇場」のB面!「くせ」でございます!!
ソファの上で煙草を吹かすのが“ワタシ”ではなく、ソファの上で煙草を吹かすのが“想い出”なのです!
すごい!想い出は喫煙者だったとは知りませんでした。
こんなシュールな煙草歌詞は他で聴いたことありません!
お聴きになりたい方は「くせ」のリクエストメールを、ニッポン放送『オールナイトニッポンMUSIC10』へ是非!
アナログ盤シングル、レコード室にあるのかなぁ?

さて。もちろん、洋楽にもタバコ関連銘柄が沢山あります。
私が好きなアルバムジャケットの名作はコレでしょうか!
アメリカ/オクラホマシティ生まれのシンガーソングライター、J・J・ケールのアルバム『Shades』(1981年)です。
蒼い煙の中に見えるシルエット。もう、まんまフランスタバコ「ジタン」のパッケージ!
タバコは女性ダンサー絵柄ですが、コチラは男性ギタリスト。
並べるとジプシー舞踏の酒場情景になっちゃうわけです!

Shades,J.J.-Cale

A-DAY-IN-THE-LIFE,WES-MONTGOMERY

ウェス・モンゴメリー『A DAY IN THE LIFE』(1969年)。
タバコのパッケージがジャケット絵になるなら、吸い殻がアートになったってエエじゃないか!
CTIレーベル第1作目のジャケット写真の素晴らしさ!
カメラマンのピート・ターナー氏の美学に感動です。
ウェスの超絶ギターなオクターブ奏法でもって、ビートルズ「A DAY IN THE LIFE」「Eleanor Rigby」や、パーシー・スレッジ「When A Man Loves A Woman」が!

日本一売れたタバコジャケはコチラですね?!
寺尾聰さん160万枚セールス『Reflections』(1981年)。
タバコ火で書いた「LOVE」の文字、渋いですねぇ!
シングルカット「Shadow City」「出航 SASURAI」でも、くわえタバコしてました完全愛煙家な寺尾さんでした。

Reflections,寺尾聰

Closing-Time,TOM-WAITS

そして!タバコ男をもうひとり、トム・ウェイツ。
デビュー作『CLOSING TIME』(1973年)。
2作目『The Heart of Saturday Night』(1974年)。
そして、スタジオ3作目『Small Change』(1976年)。
どのアルバムジャケにもタバコが寄り添ってます。
シワガレ声な酔いどれ詩人の酒と涙と男と女の切ない物語。
それらは煙草ナシでは生まれなかったことでしょう。

そして!タバコ系美女と言えば…彼女、ジョニ・ミッチェル!
天才ベース男ジャコ・パストリアスと創り上げた、超絶ジャズ的な名作『逃避行/Hejira』(1975年)。
右手に持つタバコ煙と白い雲が同化してます。
“逃避行”の行き先は雲の先…と深読みしました。

逃避行,Hejira,ジョニ・ミッチェル,Joni-Mitchell

Both-Sides-Now,ある愛の考察~青春の光と影,ジョニ・ミッチェル,Joni-Mitchell

こちらは『Both Sides Now』(2000年)。
1920~70年代のポップスやジャズの名曲をオーケストラアレンジしたカバーアルバムです。
オリジナル通算19作目の喫煙姿は自画像!
1967年に書いて69年に自らリリースした「青春の光と影/Both Sides Now」を、その31年後の57歳で再び歌い上げてます。
2015年3月に自宅で脳動脈瘤に倒れて、意識不明の状態で発見されたジョニでしたが!
治療とリハビリの日々を続けて、11月7日73歳の誕生日に外出写真をツイート!
いや~、よかった!よかった!
好きなタバコはもう吸えないのでしょうけど、また名曲を創り出して欲しいものですね!

時代と共に嗜好品の需要変化はあるもの。
それに伴って音楽産業内でも、タバコ系の歌詞やアルバムジャケットは少なくなっていくのでしょうね。ちょっと哀しい。
そんなわけで!今年のヒット「加熱タバコ」から妄想発展した『雑学と音楽 ザツオン』第6弾いかがでしたか?
音楽のもうひとつの楽しみ方、次回もお楽しみに♪

神部恒彦(a.k.a 北大路おさんどん)
1960年北海道生まれ。
1981年「オールナイトニッポン」のADとして放送業界で活動開始。
音楽やドキュメンタリーを中心としたテレビ・ラジオの構成/選曲を担当する。
1992年いったん全ての仕事を終了してシベリア鉄道で渡欧。
1年間に渡りフランス/スペインを拠点に欧州各国の景勝地や美術館を見て回る。
さらに渡米、自動車でアメリカ大陸を横断しながら様々な音楽聖地を巡って帰国。
幅広い音楽/雑学知識と好奇心でジャンルを問わない番組/イベント構成を手がける。
趣味:大相撲/F-1観戦、全国各地の居酒屋訪問と見知らぬ人々との会話。

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