【大人のMusic Calendar】
ビートルズのオリジナル22枚のなかで、オリジナル・アルバム発売後にシングル・カットされたのは何か?
と、いきなりクイズじみた問いかけになるが、正解は、『アビイ・ロード』(69年9月26日発売)の1ヵ月後の10月31日に出た「サムシング」と「カム・トゥゲザー」である。もともとは「サムシング」がA面扱いでアメリカでは3位、「カム・トゥゲザー」は2位まで上昇したが、その後、両A曲扱いとなり、2曲合わせて1位を記録した。ジョージの曲がシングルA面になったのは、初めてのことだった。
思えば、『アビイ・ロード』に収録されたポールの曲でシングルになりそうなのは、不思議と1曲もない。強いて言えば「オー!ダーリン」になると思うが、67年と68年の状況からは考えにくい状況でもあった。なぜかと言うと、67年以降「ハロー・グッドバイ」「レディ・マドンナ」「ヘイ・ジュード」とシングルのA面には必ずポールの曲が収録され、「アイ・アム・ザ・ウォルラス」と「レボリューション」のようなジョンの代表曲と言ってもいい曲がB面に回されていたからだ。
しかし69年1月の“ゲット・バック・セッション”が棚上げになった状態で「レット・イット・ビー」や「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」のようなポールの傑作が後回しになった結果、69年5月に出たシングルには、上記のカップリンクと同じくジョンとジョージの曲――「ジョンとヨーコのバラード」と「オールド・ブラウン・シュー」が収録されることになった。
69年にシングルに対しての優先度が「ジョン(とヨーコ)優位」に変わったのは、ジョンに対して自分の方に目を向けていてほしいポールの譲歩ととらえることもできるだろう。それだけでなく、(『アビイ・ロード』で)アルバムの1曲目にジョンの曲が収められたのも、65年の『ヘルプ!』以来久しぶりのことだった。
さて今回は、69年10月31日にイギリスで発売された21枚目のオリジナル・シングル「サムシング」と「カム・トゥゲザー」についてまとめてみる。
まず「サムシング」は、「イエスタデイ」に次いでカヴァーの多いビートルズ・ナンバーであるということも含めて、ビートルズ並びにジョージの代表曲として、ファンならずとも名高い1曲となった。ジョージを偲び、ポールが近年のライヴでジョージが好きだったウクレレを手にして演奏する場面はやはり忘れがたい。パティへのラヴ・ソングじゃないという説もあるが、実際はどうなのだろうか。
一方、「カム・トゥゲザー」は、めでたくビートルズ・ナンバーになった背景からして面白い。もともとジョンが選挙のキャンペーン曲を依頼されたものの、選挙運動のスローガン“Come together, join the party”を盛り込んだ曲がうまく書けずにこうなった、というわけだ。ジョンにはそのキャッチ・コピーが魅力的ではなかったということだろう。
しかし代わりにできた曲の歌詞ときたら、「アイ・アム・ザ・ウォルラス」と双璧を成す“レノンセンス”に満ちた傑作なのだ。“ウォルラス”や“ヨーコ”も歌詞に紛れ込ませて聴き手をケムにまいた一種のドラッグ・ソングとみなすこともできそうだが、「カム・トゥゲザー」にはもうひとつ重要なフレーズがある。“One and one and one is three”だ。後に“ポール死亡説”のひとつの根拠として挙げられたが、この“スリー”をジョン以外の3人ととるか、ポール以外の3人ととるか――いずれにしても、思わせぶりな一節である。
冒頭でジョンが“Shoot me”(「俺を撃て」)と歌っていたり、チャック・ベリーの「ユー・キャント・キャッチ・ミー」の盗作だと著作権者のモーリス・レヴィに訴えられてジョンが『ロックン・ロール』でその曲などをカヴァーすることで和解したりと、この曲には他にも刺激的なエピソードがたくさんある。
個人的にはもうひとつ、“One and one and one is three”の箇所も含めてジョンと一緒にハモっているのは誰か、長年、気になって仕方がなかったが、ヴォーカルだけセパレートされたマルチトラック音源を聴き、「ハーモニーはポールに間違いない」と結論づけた。
このハーモニーのレコーディング作業時についても面白い話がある。スタジオでレコーディングをする際にジョンとポールは仲違いし、ポールがスタジオ近くにある自宅に帰ってしまい、ジョンがポールの家まで追いかけて、木に登って「ポール! 頼むから戻ってくれ」と泣きながら叫んだというのだ。
そういえば、10月上旬にイギリスに行った際、そのときのジョンの真似をしてポールの家の塀によじ登ろうとしたが、脚力が弱く、手をかけただけであえなく断念したのだった。
ザ・ビートルズ「サムシング/カム・トゥゲザー」ジャケット撮影協力:鈴木啓之
【著者】藤本国彦(ふじもと・くにひこ):『ビートルズ・ストーリー』編集長。主な編著は『ビートルズ213曲全ガイド 増補改訂新版』『GET BACK...NAKED』『ビートル・アローン』『ビートルズ語辞典』『ビートルズは何を歌っているのか?』『ビートルズはここで生まれた』など。映画『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』の字幕監修(ピーター・ホンマ氏と共同)をはじめ ビートルズ関連作品の監修・編集・執筆も多数。