圧倒的な戦力でアメリカの「台湾侵攻への抑止」を諦めさせようとする中国の狙い

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が3月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。米・国家情報長官室が公表した世界の脅威を分析した年次報告書について解説した。

圧倒的な戦力でアメリカの「台湾侵攻への抑止」を諦めさせようとする中国の狙い

中国の習近平国家主席(ロシア・モスクワ)=2022年12月30日 EPA=時事 写真提供:時事通信

アメリカの報告書が台湾有事に向けた中国の動きを指摘

アメリカの情報機関を統括する国家情報長官室は3月8日、世界の脅威を分析した年次報告書を公表した。報告書によると、中国は習近平指導部が3期目に入るなか、「台湾に統一を迫るとともに台湾へのアメリカの影響力を弱らせようとする」と指摘。さらに中国は台湾有事の際にアメリカの介入を抑止できるだけの軍の体制を2027年までに整えるだろうと予測、分析している。

飯田)米中対立と言われていますが、インド太平洋では……。

宮家)中国の全人代では、本格的にアメリカとのガチンコを目指すような動きが出てきたところです。この報告書は毎年出しているものなのですが、ウクライナ戦争が行われているにも関わらず、ロシアではなく、やはり中国が最大の問題だと捉えているという前提で申し上げます。

米中がお互いに「抑止させよう、諦めさせよう」と思っている

宮家)中国側も最後は戦わなければいけないのだけれど、アメリカと戦うためというよりは、もし台湾を獲ろうとする場合、最善はアメリカに介入を諦めさせることです。ですから上陸用舟艇やミサイル、サイバーの戦力を強める。そして、アメリカに「もう台湾は諦めるしかない」、「やっても仕方がない」と思わせる。「戦わずして勝つ」という孫子の兵法を見事に進めているわけです。

飯田)中国は。

宮家)それに対してアメリカはどうかと言うと、こちらも必ずしも中国と戦いたいわけではない。あんな国と戦ったら終わりがないですからね。

飯田)中国と戦ったら。

宮家)問題は、中国に関して「抑止させる、諦めさせる」ということ、この二つは同じことなのだけれど、要するに米中がお互いに抑止しようとしていることです。お互いに諦めさせようとしているので、このままいくとガチンコになってしまう。非常に嫌な感じがします。

圧倒的な量の戦力を持てば「台湾侵攻をアメリカは抑止できない」と考える中国

宮家)しかも、アメリカの情報収集能力は相当なものですから、ずっとあの地域を見ているわけです。台湾海峡は、最も広いところだと180キロくらいあります。ウクライナと陸続きの国境があるロシアが、あれだけ攻めあぐねているわけですが、中国は水の上を180キロも、上陸用舟艇に重火器を積んで渡らなければならない。相当難しいことなのだけれど、船の数が増えればそれも可能になるわけです。

飯田)数が増えると。

宮家)1隻や2隻来たのなら追い払えばいいけれど、一度に500隻来たらどうするのか。そうなると台湾も抑止できなくなります。そういう考え方から、中国は戦力を増やしているのだと思います。それをアメリカはずっと見ていて、「危ないぞ」と考えているのでしょう。

台湾有事の際、アメリカは同盟国とともに戦う

飯田)そうなると、アメリカも自分たちで備える、あるいは同盟で備えるということになりますか?

宮家)アメリカが「どこまで備えているのか」は実際、よくわかりません。

飯田)表向きに言えるものではないですからね。

宮家)いわゆる抑止なのだけれども、いままでは「曖昧戦略」と言われていました。台湾で何か有事があったときに、アメリカがどうするかは言わない。最近バイデンさんは「守るのだ」と明言したり、言わないでいたりします。これも曖昧戦略の一部なのかも知れませんけれど。

飯田)バイデン大統領は。

宮家)「台湾関係法」という国内法があるわけですから、アメリカは何らかの支援をするはずです。ただ、アメリカが前面に立って「やるぞ!」と戦うかと言うと、どうでしょうか、いまのウクライナでもやっていませんよね。

飯田)そうですね。

宮家)同じような戦い方になる可能性が十分あります。攻められたら基本的に台湾が戦う。その場合、アメリカは前面に立つかも知れませんけれど、オーストラリアやフィリピンなど、日本も含めて同盟国と一緒に戦うことを考えているのだろうと思います。

台湾有事の際、キーとなるのは日本とフィリピン ~ウクライナ侵攻におけるポーランド

飯田)ウクライナを例にすると、ウクライナに対する西側の支援は、隣国のポーランドがキーになっています。となると、東アジア情勢のなかで台湾に何か起こったとき、ポーランドにあたるところがどこかと言えば、やはり日本になりますか?

宮家)日本とフィリピンでしょうね。

飯田)台湾を挟んで北と南。

個別の同盟を重ね合わせることで、アジアにおいてもNATOと同様の抑止力の効果を出すことができる

宮家)ヨーロッパの場合にはNATOがあるけれど、ウクライナはNATOに入っていません。ウクライナに対する攻撃があっても、NATO全体に対する攻撃ではないのですから、介入しないわけです。

飯田)ウクライナが攻撃を受けても。

宮家)しかし、もしポーランドに飛び火したら、NATOへの攻撃になりますから、NATO全加盟国に防衛義務が生じます。そういう枠組みは、いまの東アジア・インド太平洋地域にはありませんから、別のメカニズムをつくらなければならない。もしくは、そこに向かって動き出さなければいけないと思います。

飯田)いまは個別の条約、例えば日本なら日米安全保障条約があります。

宮家)それを重層的に重ね合わせる。NATOのような1つの枠組みではないけれど、濃淡のある枠組みを重ねることによって、同じような抑止効果を出そうしているのは事実だと思います。

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