今から49年前の今日1967年6月1日にリリースされたザ・ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』。ポピュラー・ミュージックの歴史を塗り替えたとも言われるこの歴史的名盤が、当時の、そしてその後の音楽シーンに与えた影響は計り知れなく大きく、当然、海を渡り極東の島国にも及んでいる。『サージェント・ペパーズ』の日本盤がリリースされたのは御本家盤のひと月遅れの1967年7月5日。ちょうど前年から続々とデビューを飾り若者たちの人気を集めていたビートルズ影響下の新しいビート・グループたちを総称して芸能誌が「グループ・サウンズ(GS)」と紹介し始めた頃である。
そんなGSの中でも、奇しくも御本家盤発売日に「好きさ好きさ好きさ」でデビューしたザ・カーナビーツは、2カ月後の8月1日にリリースしたザ・ジャガーズとの競演アルバム『ジャガーズ対カーナビーツ』の中で、『サージェント・ペパーズ』のタイトル曲(正確にはタイトル曲とそのリプライズのメドレー)のカヴァーを披露している。これはカーナビーツの名付け親でもある『ミュージック・ライフ』編集長・星加ルミ子氏の助言によるものだったらしいが、御本家盤リリースから2週間も経たないうちにレコーディングというのは、数多のビートルズ・カヴァー盤の中でも世界最速なのではないだろうか? ちなみに、御本家盤発売の3日後6月4日にロンドン「サヴィル・シアター」のステージでこの曲を演奏したのがジミ・ヘンドリックス。当日の聴衆のひとりだったポール・マッカートニーは、その“早ワザ”に感嘆したという。
『サージェント・ペパーズ』の特徴のひとつとして、従来のアルバムのようにシングル曲をメインに据えた構成ではなく、ジャケット・アートを含めアルバム全体でメッセージを表現する「コンセプト・アルバム」のスタイルを確立したことが挙げられるが、いち早くこの手法を取り入れたGSアルバムとしては68年2月にリリースされた『ヨーロッパのブルー・コメッツ』が挙げられる。TV番組のロケのためヨーロッパ旅行に出かけたブルー・コメッツに同行した橋本淳が作詞と構成を手がけたこのアルバムは、ジェット旅客機の離陸SEで始まり、メンバーたちのナレーションで楽曲を繋いでいくスタイルで進行していく。68年12月には続編として『アメリカのブルー・コメッツ』もリリース。ナレーションは無いものの、前作と同じテーマ曲で始まり、68年3月~4月にかけての米国旅行をモチーフにした楽曲が収録されている。
ブルコメのライバルザ・スパイダースも負けていない。68年10月にリリースしたアルバム『明治百年すぱいだーす七年』は、ちょうど明治元年から数えて100年目とスパイダース結成7周年を記念して企画された作品で、彼らにとって初の(そして最後の)全曲メンバーによる作詞もしくは作曲のオリジナル作品(橋本淳も3曲の作詞を手がけているが)でまとめられたアルバム。メンバー7人それぞれがソロ・ヴォーカルを披露(これまた最初で最後となった大野克夫と加藤充の歌も聴ける!)した作品で構成されているA面の導入部が、オーケストラのチューニングから始まることや、浅草凌雲閣(通称「十二階」関東大震災時に倒壊)を描いた歌川国定作の錦絵をモチーフに、スパイダースやウォーカー・ブラザースの面々の写真をコラージュしたジャケットも、明らかに『サージェント・ペパーズ』を意識してのことだろう。
大先輩のブルー・コメッツとスパイダースに時系列では遅れをとりながらも、アートワークをも含むテーマ性の統一感においては彼らの一歩先を行き、その作品がアーティスト自身のターニング・ポイントとなったという意味では、まさに御本家盤と同等の意義を持っていたのが、68年11月にリリースされたザ・タイガースの『ヒューマン・ルネッサンス』。「ポンペイ最後の日」や旧約聖書のエピソードをモチーフに、人類の誕生から、愛、戦争、世界の崩壊、そして復活に至る壮大なテーマをクラシカルな趣の楽曲で構成したこのアルバムは、それまでの少女趣味的なタイガース作品とは一線を画したものだった。オープニングの「光ある世界」~「生命のカンタータ」~「730日目の朝」の流れが、御本家盤のタイトル曲~「With A Help From My Friends」~「Lucy In The Sky With Diamonds」の流れと似ているのも御本家盤からの影響だろう。
数あるGSの中でも、『ラバー・ソウル』以降の後期ビートルズの影響が顕著だったのが喜多嶋修率いるザ・ランチャーズ。当然のことながら『サージェント・ペパーズ』も徹底的に研究し尽くしており、その最初の成果発表とも言えるのが、68年12月にリリースされた1stアルバム『フリー・アソシエイション』のオープニング曲「ハロー!ベイビー・マイ・ラヴ」からも伺える。『リヴォルヴァー』のアートワークを意識したようなジャケットは、ビートルズにおける『リヴォルヴァー』が『サージェント・ペパーズ』の“予告編”だったのと同様に、架空の王国OASY(メンバー4人の名前の頭文字)をテーマとした本格的コンセプト・アルバムとなった次作アルバム『OASY王国』(69年9月発売)を暗示していたかのようにも思える。なんとも芸の細かいことだ…。
【執筆者】中村俊夫