どうすれば、世の中がもう少しよくなるのか、そのヒントになるようなことを障がい者スポーツを通じて書きたい。【江橋よしのり(スポーツライター)インタビュー】

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【ニッポンチャレンジドアスリート】
毎回一人の障がい者アスリート、チャレンジドアスリート、および障がい者アスリートを支える方にスポットをあて、スポーツに対する取り組み、苦労、喜びなどを伺います。

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江橋よしのり(スポーツライター)
1972年、茨城県出身の44歳。1996年からフリーライターとして活動を始め、サッカー関連、特に女子サッカーの書籍を多く執筆。障がい者サッカーにも関わりが深く、今年10月ブラインドサッカーやアンプティサッカーなどの選手関係者に取材した本、『サッカーなら、どんな障がいも超えられる』を出版した。

―20年前、早稲田大学在学中からフリーライターの仕事を始めた江橋。サッカーを取材するようになったきっかけは?

江橋)1996年にフリーライターの活動を始めました。20代の頃はテレビ雑誌とか、児童向けの学習雑誌とか、トレンド情報誌なんかに出入りして、契約記者をやっていました。そういうところでサッカー、特にJリーグとか、男子の日本代表など、スポーツ関連の記事にすることが多くありました。

―江橋が最初に見た競技は、選手たちがアイマスクをして戦うブラインドサッカーだった。

江橋)2011年の春に一般の人のフットサル大会に行きました。そこでブラインドサッカーのチームの公開練習試合があり、それが全ての始まりでした。恥ずかしながら、「目の見えない人がサッカーをやるよ」と言葉で聞いた時は、スイカ割りみたいなものを僕は想像してしまいました。よちよち歩きながら、「もっと右だよ」なんて言われるものの連続なのかなと、正直あまり期待していませんでした。ところが、目の前で見た選手たちは、フィールドの中を全力で走っていて、ゴチンとかぶつかって尻もちをついたりする。自分が勝手にイメージに当てはめていたことをすごく恥ずかしくなって、これはきちんと知らなきくてはいけないと思いました。

―今年10月、選手関係者に取材した本『サッカーなら、どんな障がいも超えられる』を出版した。このタイトルは、今年発足した日本障がい者サッカー連盟が掲げるスローガンでもある。タイトルが、どんな障がいでも『乗り越えられる』ではなく、『超えられる』になっているのは、実は深い意味がある。

江橋)『超えられる』、『超える』も超越の『越』じゃなくて『超』の方を使っています。サッカーならどんな障がいも超えられる、『超える』の主語は誰なの?という二通り考えられます。1つは選手たち、もう1つは、世の中の方が主語になる言葉でもある。
つまり、障がいって何かと言うと、その人たちが普通の市民として生きていこうとする普通のニーズを叶えられない世の中の方が実は障がいなんじゃないかとも考えられるわけです。彼らがサポートして欲しいなと言っている内容って、よくよく聞いてみると、「電車に乗りたいんだけど、ここに段差があるからいけないんだよ。だからお願い」というニーズです。それは「段差なくせば、その障がいってないことになるじゃない?」って思える。だからサッカーがそのバリアフリーを気づくきっかけになってくれるのだと思います

―本の冒頭には、『前書きに代えて』というタイトルで、電動車椅子サッカーの永岡真理選手の話が掲載されている。彼女の言葉で始めた意図は?

江橋)永岡さんを冒頭に持ってきたかったのは、1つは女性の言葉からスタートしたかったからなんです。なぜかと言うと、やっぱりサッカー人口は男の人が多いのですが、男の人だけのものじゃないよということを常に思っていたので、必ず女性の選手を入れたいと思った。永岡さんにしたかったのは彼女が社会人として仕事もしながら、サッカーもやって、しかも電動車椅子サッカーというのは、男性・女性の区別のない競技なんです。その男性のチームの中でもレギュラーを取れるような、そういうすごくいいプレーヤーなので、彼女の言葉からスタートしたかったのです。
印象に残ったのは、電動車椅子でプレーしている選手たちというのは体の筋肉とかがどんどん動かなくなっていってしまう、そういう病気を持った人が多い。命懸けでスポーツをやっている、そのぐらいの覚悟が言葉から感じられたんです。彼女選手本人が言うのは、「そこでやるか、こわいからやめますと言うか、でもやらせて下さいと言うか、それは自分で決めたい」って言うんですよ。日本では、どうしても障がい者の人がグラウンドで「何かやりたい。体育館貸して下さい」って言うと、「危ないから駄目ですよ。貸せません」と断られちゃうことが今まで結構あったみたいなんですよね。
でも、スポーツをやったらケガをするかもしれないとか、本当に命に関わるような大きなケガをしちゃうかもしれないっていうのは、何も障がい者だけじゃなくて、健常者だって考えてみたらそうなんです。周りはハラハラしちゃうかもしれないけれども、自分で決めていいんだよっていう風に周りが言ってあげられることって、すごく大切なことだと彼女を取材して感じました。

―4年後の東京パラリンピックでは、開催国のため、ブラインドサッカー日本代表の初出場がすでに決まっている。スポーツライターの目から見て、メダル獲得のために必要なことは?

江橋)2020年の東京パラリンピックでブラインドサッカーの日本代表はメダル争いできる潜在的な力があると思います。ただし、これからの4年の間に、他の強い国がもっと強くなるのではないかという気もします。パラリンピックスポーツって、プロ化の波みたいなものが来てますから、より競技スポーツとして先鋭化されている感じがします。日本も、現場の選手たちや監督、スタッフは、ものすごく頑張ってると思うんですけれども、現場が頑張るだけじゃなくて、組織全体として職場の人たちの協力だったり、練習場所の確保とか、練習時間確保だったり、その現場以外の人たちとどんな風に協力し合っていけるかということがすごく大事になると思います。
あとはキーワードは海外遠征じゃないですかね。練習試合なんかで、大分積極的にやっているようなので、そういった活動をどんどん続けて、より国際的な戦う集団になっていく必要があると思います。

―今後江橋は、ライターとしてどんな活動を目指していくのか?

江橋)書き手として、特にジャンルにとらわれず、媒体にもとらわれず、いろいろなものに挑戦していきたいと思います。障がい者スポーツの取材に関わった人間としては、世の中の多くの人にヒントになるようなものをスポーツを通じて書いていきたいです。それぞれの人間関係の中で、もうちょっと変えられたら、もう少し気持ち良く生きていけるのになという悩みって少なからず皆持っていると思うんですよね。スポーツ界はそういうものをどんな風にして解決しているのかいうことを、一般の人にアレンジできるような原稿の書き方を続けていきたい。
高校生の頃、数学の図形の問題で、補助線を使うことあったじゃないですか。スポーツだけを書くとなかなか伝わりにくいんだけれども、そこに補助線を引くことによって、こういうことなのか、障がい者の人たちってこういうこと気にしてるのかって気づくきっかけになるような、そういう原稿を書いて行きたいですね。

(2016/11/21~11/25放送分より)

ニッポンチャレンジドアスリート
ニッポン放送 (月)~(金) 13:42~放送中
(月)~(木)は「土屋礼央 レオなるど」内、(金)は「金曜ブラボー。」内)
番組ホームページでは、今回のインタビューの模様を音声でお聴き頂けます。

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