古舘伊知郎、“しゃべり手”の原点は「歯医者さん一家での食事会」

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報道ステーションの裏で、月一回放送しているラジオ番組『古舘伊知郎のオールナイトニッポンGOLD』。12月16日夜の生放送では、パーソナリティの古舘が“しゃべり手”としての人生のターニングポイントになった日の出来事を語った。

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テレビ朝日のアナウンサーだった古館が、まだ26歳でその名が世に知れ渡る前。高視聴率番組『3年B組金八先生』や『太陽にほえろ!』の裏で、TV番組『ワールドプロレスリング』を地道に実況中継していた。加えて週3日、朝の情報番組を受け持っていたが、現状に満足できず、外でさまざまな経験を重ねるために、会社には内緒でアルバイトを始めた。

アルバイトは、イベントのプロデュースやファッションショーの企画をしていた女性社長に仕事をふってもらい、安いギャラではあったが、経験値に勝るものはないと引き受けた。古館は、「ネットが普及している今だったらすぐに会社にバレるから大変だよね。今どきのアナウンサーはBSやCS放送もあるからこき使われて大変だ。アルバイトもできないから、アナウンサー同士で不倫に走ったりするんだろうな(笑)」と冗談も交え、「渋谷109の前で一日二回行われた水着のファッションショーの司会は、やわらかい仕事で楽しかった。テレ朝の社員が通らなければ会社にバレることはない。良い時代だよね。ネットがない時代だから、そんなことをして女性社長からお小遣いをもらっていた」と局アナ時代のアルバイト生活を振り返った。

そんなある日、仕事を振ってくれていた女性社長に「会ってほしい人がいる」と言われ、そのひとは杉並区荻窪の土地持ちで、綺麗な奥さんと中学生の子供がいて、上品な雰囲気の歯医者さんだという。朝の番組か、プロレスの中継の何がきっかけか分からなかったそうだが、家族揃ってまだ無名だった古館のファンだというのだ。

半年もの間、この人は出世する、とにかく呼んでほしい、一度お目にかかりたいと言われ『なんで知らないお宅に行かなくてはいけないのか』と思いながらも断りきれず、その歯医者さんのお宅の夕食会へ行くことになった。

その日のことはよく覚えているといい、綺麗にライトアップされた中庭、玄関の質感や色味。リビングも品がよくお金持ちだということがよく分かる雰囲気だったという。上品な歯医者さんと、その奥さん、そして当時中学生の可愛い顔をした息子さんの三人は「絶対に喋り手で出世する人だ」「私たちは歯医者だし素人だし全く専門知識はないけれどそれを感じる」「古館さんは素晴らしい」と口々に絶賛。アナウンサーとして全く売れず、アルバイトをして経験を積んでいた古館にとって“ファン”からの称賛は夢見心地で、その日は狐につままれたような良い気分で自宅へ帰った。

そして翌日、運命のターニングポイントとなる日がやってきた。

第99回直木賞受賞『遠い海から来たCOO 』(1992/3/24)の著者・景山民夫が、70年代~80年代のサブカルチャー文化をけん引した雑誌『月間宝島』に8ページもの古館の記事を特集したのだ。“古舘伊知郎は天才である”と。思いもよらない嬉しい出来事に、通勤で使う車のダッシュボードに特集記事をセロテープで貼りつけたという。その後、『タモリ倶楽部』にゲストとして呼ばれ、放送作家をしていた景山民夫さんからも出演のオファーがかかり、じわじわとプロレスブームも来て古舘伊知郎の名が広まった。

古館は、「30歳になり、フリーになっても、あの杉並の歯医者さんどうしているかな、あの時褒めてくれて本当にありがたく、あそこが俺の原点だったといつも感謝していた。でも、50歳にもなるとだんだん記憶が定かではなく自分の脳内にある映像記憶が自分で嘘を付いたものではないのかと。もしかしたら、改ざんされたものではないのかと。本当にあのお宅へは行ったのか、実在しない家へ夢で行っているだけではないのか、とあれこれ自分の記憶を疑い始めた。しかし、60歳の還暦を迎え、やはり行ったという事実は拭えなく、感謝の気持ちがあった」といつも頭の片隅に“あの家族に会いたい”と思いながらも、会う手立てがなくそのままになっていたと話した。

つい先日のこと、古館が東京の某ホテルに宿泊するため地下駐車場からホテルのロビーへ行こうとエレベータに乗ろうした時、すれ違いで出てきた小学生と中学生の二人の男の子を連れた50代手前の細身の男性とすれ違い「あ、古館さん」と小声で声をかけられた。品のいい人だなと思い、お辞儀を交わし、エレベータに乗ると、子供連れの男性は引き返してこちらへ来たので「写真ですか?」と聞いてみると「写真じゃありません。覚えていらっしゃいますか?36年前の杉並の歯医者です」と歯医者さんの当時中学生だった息子さんと再会したのだ。

古館は、あの時、皆さんが気持ちを盛り上げてくれたことがずっと頭の片隅にあったと感謝の気持ちを伝えた。エレベータがすぐに閉まり、それ以上の話はできなかったそうだが、「やっぱり気にしていると会えるんだな。会えるんだよ」と感慨深く36年もの時を経た運命の再会を思い返した。

この日の放送の模様は、radikoタイムフリーサービスで聴くことができる。

<期間限定!radikoタイムフリーで聴く>
番組名:ニッポン放送『古舘伊知郎のオールナイトニッポンGOLD』
放送日:2016年12月16日(金)22時~0時
パーソナリティ:古舘伊知郎
リンク:http://radiko.jp/share/?sid=LFR&t=20161216220000

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