【大人のMusic Calendar】
1992年9月28日はDREAMS COME TRUEの「決戦は金曜日/太陽が見てる」がオリコンチャートで1位を獲得した日である。前年1991年4月にリリースされた9枚目のシングル「Eyes to me」で初のチャート1位を記録したドリカムは、本作「決戦は金曜日/太陽が見てる」がミリオンセールを突破したことをきっかけにして、日本を代表するスーパー・バンドへの道を駆け上がっていくことになる。
本作は両A面シングルだが、この原稿ではドリカムの代表曲のひとつとして知られる「決戦は金曜日」について紹介したい。メンバーの吉田美和、中村正人が出演していたバラエティ番組「うれしいたのし大好き~Friday Night Live~」(フジテレビ系)のオープニングテーマに起用されていたこの曲は、70年代後半~80年代前半のディスコ・ミュージックをベースにしたダンサブルなナンバー。心地よく飛び跳ねるリズム、起伏の激しいメロディライン、そして、恋が始まるときの高揚感と“今夜、絶対に彼をモノにしてみせる”という想いをダイナミックに描き出すリリックがひとつになったこの曲は、吉田美和の“ソウルフルな歌姫”というパブリックイメージを決定づけた楽曲のひとつと言ってもいいだろう。
作曲を担当した中村正人は“けつきん”(←メンバーはこう呼んでいます)について「Earth, Wind & Fireの『Let's Groove』とシェリル・リンの『Got to be Real』っていう2曲の曲を合体させて作った」と公言しているが、それはパクリなどではなく、サンプリングに近い手法だったのだと思う。90年代前半、ヒップホップのトラックメイカーが60~70年代のソウルミュージック、ディスコのレコードを“ネタ”にしてビートを作ることは既に常識だったが、日本のポップフィールドでそのスタイルを取入れていたアーティストはほぼ皆無。ブラックミュージックをルーツに持つドリカムがサンプリング的な方法論を導入したことは当然であると同時に、日本のオーディエンスにとってはきわめて斬新な出来事だったのだ。「決戦は金曜日」「太陽が見てる」のほか、「晴れたらいいね」「あの夏の花火」などが収録された5thアルバム『The Swinging Star』(1992年11月)のセールスは累計で300万枚を突破。当時のCDアルバムセールス記録を更新した。
4年に1度開催される『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND』などのライヴでも何度も披露され、ファンを熱狂させてきた「決戦は金曜日」(吉田美和とコーラスの浦嶋りんこのボーカルの掛け合いは、ドリカムのライヴの見せ場のひとつ)は、若いアーティストによって受け継がれている。その代表的な例が、カバーアルバム「ドリウタ」に収録された三浦大知によるカバーバージョン。ドリカムと同様、ブラックミュージックから大きな影響を受けている三浦は、原曲のグルーヴに現代的なダンスミュージックの要素を加え、新たな魅力を引き出すことに成功している。ちなみにドリカムは三浦に「普通の今夜のことを ―let tonight be forever remembered-」(2017年9月/配信限定リリース)提供。この楽曲が「決戦は金曜日」同様、1980年代のファンク、ディスコのテイストを感じさせることも興味深い。そう、「決戦は金曜日」のDNAは、いまも新しい表現を生み出し続けているのだ。
【著者】森朋幸(もり・ともゆき):音楽ライター。2000年から音楽ライターとしての活動をスタートさせ、J-POPを中心にロックバンド、シンガーソングライターなど、幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『エンタメステーション』『bounce』『CDジャーナル』など。今年のフジロックの個人的ベストアクトはThe XXでした。