「オレたちひょうきん族」から生まれた愛しき歌の数々
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【大人のMusic Calendar】
スペースシャトルが初飛行に成功し、ローマ法王が初来日した1981年、千代の富士が横綱になり、なめ猫がブームになったこの年に『オレたちひょうきん族』は始まった。ザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』という揺るぎない牙城が聳えていた土曜8時という時間帯へ闘いを挑んだ結果、漫才ブームと相俟って大人気を博す。やがてはTBS対フジテレビの熾烈な争いを展開するまでに至った。80年代を代表するバラエティ番組のひとつは音楽面でも大きな功績を残している。殊にEPOの「DOWN TOWN」をはじめとする数々の名歌が使われた洒落たエンディングも、音楽に対するスタッフの強い拘りが感じられる見せ場であった。そして番組内で生まれたレギュラー出演者たちによる歌の数々が続々とレコード化されたのである。或る程度ヒットしたものから全くヒットしなかったものまで玉石混淆の愛しい歌たち。第1回の放映日1981年5月16日から37年が経った今、そんなひょうきんソングスの魅力を改めて探ってみたい。
番組の第1回は『決定!土曜特集 オレたちひょうきん族』のタイトルで放映され、8月まではセミレギュラーの形で8回に亘り放送。10月から『オレたちひょうきん族』となり、正式にレギュラー番組としてスタートしている。まずはやはり番組の核となっていた人気コーナー「タケちゃんマン」の関連ソングから。主題歌「THE TAKECHANマン(タケちゃんマンの歌)」は佐藤エポ子名義によるEPOの作曲である。シングル盤のカップリングには「DOWN TOWN」が収録され、途中からEPOの写真があしらわれた新デザインのダブルジャケット仕様のものも作られた。EPOはエンディングテーマのほか、CM前のアイキャッチ「チャンネル~はそのまま」も歌うなど、初期のひょうきん族における功労者といえる。「タケちゃんマン音頭」はあまり知られていないであろう企画盤。前年に「イエロー・サブマリン音頭」で新境地を拓いた金沢明子が歌い、ビートたけしもセリフで参加している。後に登場するタケちゃんマンロボのテーマ「愛より強く」はアニメ・特撮系主題歌のパロディ。『ゆうひが丘の総理大臣』の音楽などテレビ関連の仕事も多い小六禮次郎によるメリハリの効いたメロディを町田義人が勇壮に歌い上げ、大平透のナレーションが盛り上げる。
敵キャラの歌では、明石家さんまが演じたブラックデビルの歌「好きさブラックデビル」のシングルが最初の一枚となる。ブラックデビルは当初、高田純次が演じていたが、おたふく風邪のために交代してさんまに引き継がれたのは有名な話。そのおかげでたけしVSさんまの構図が定着したわけで、もしも高田がおたふく風邪にかからずに役を降板していなかったら、歴史はだいぶ変わっていただろう。「好きさブラックデビル」を歌った“オレたち昔・アイドル族”は、かつての青春歌謡シンガー、山田太郎と美樹克彦によるユニットだった。B面の「回転禁止の新聞少年」は、美樹の「回転禁止の青春さ」と、山田の「新聞少年」、それぞれのレパートリーのタイトルを繋げたタイトルである。ふたりは番組内の名物コーナー「ひょうきんベストテン」にも何度か出演して歌っていた。続いて登場した敵キャラの歌は「アミダばばあの唄」。今度はアミダばばあ&タケちゃんマン名義で明石家さんまとビートたけしが歌い、桑田佳祐が作詞・作曲とプロデュースを手がけた贅沢なノヴェルティソングとして知られる。桑田自身も後にセルフカヴァーした傑作は結構売れたはず。松山千春が作詞・作曲し、ナンデスカマン&タケちゃんマンが歌った「びっくり箱のうた」も哀愁漂う名ナンバーで、カップリング曲は前述の「愛より強く」だった。
その他のタケちゃんマン関連盤としては、初期シーズンの出演者、伊丹幸雄が歌った「ロンリータコくん」がある。山田&美樹といい、どうも番組スタッフは往年の男性スター歌手が好きだった様だ。B面の「ほ・ら・が・い」にも意味があり、当初は伊丹がほら貝を吹いてタケちゃんマンを呼ぶという設定だった。その「ほら貝」を「ほたて貝」と言い間違えたことから偶然生まれたキャラクターが、安岡力也が演じたホタテマンである。コワモテの安岡が役になりきって吹き込んだ「ホタテのロックン・ロール」もひょうきんソング指折りの人気曲だが、これには原曲があり、日本テレビで71~75年に放映された『まんがジョッキー』の挿入歌「マンジョキロックンロール」の詞が変えられたもの。元歌を歌っていたのは内田裕也で作曲はザ・ワイルドワンズの加瀬邦彦。その内田がプロデュースした「ホタテのロックン・ロール」は、元シャープ・ホークスの安岡も含め、グループサウンズの匂いがプンプンするレコードなのだ。
島田紳助と明石家さんまによる「い・け・な・いお化粧マジック」は、もちろん忌野清志郎+坂本龍一「い・け・な・いルージュマジック」のパロディだが、真似たのはタイトルとジャケット写真だけで、曲そのものは本家とまったく異なる雰囲気。さらに忘れてはならない1枚が、大瀧詠一ワークスの「うなずきマーチ」だ。ビートきよし、島田洋八、松本竜介によるユニット“うなずきトリオ”が歌ってスマッシュヒットに。B面の「B面でうなずいて」はナイアガラー(=大瀧マニアのこと)ならずとも出典はお解りだろう。その大瀧がリスペクトし、「イエロー・サブマリン音頭」を共に手がけた作曲家・萩原哲晶のアレンジによる「ひょうきん絵描き歌」は山田邦子が絵描き歌を披露していた人気コーナーのレコード化で、まるで大瀧ワークスかの様に思わせられてしまう。ちなみに山田がこれ以前に出していた「邦子のアンアン小唄」は大瀧のプロデュース作品。
もっと深いところに入ると、メインスタッフ5人によるユニット、ひょうきんディレクターズ(佐藤ゲーハー義和、三宅デタガリ恵介、荻野ビビンバ繁、山縣ベースケ慎司、永峰アンノン明)による「ひょうきんパラダイス」にも触れないわけにはいかない。こういう悪ふざけは当時のフジテレビならではのお家芸といえる。正しく“楽しくなければテレビじゃない”の精神に則った代物は、EPOの「土曜の夜はパラダイス」より半年前に出されている。意外とイケてるテクノ歌謡でそのうちプレミア盤として取引されるようになるかも。さらに番組後期では、西川のりお率いるフラワーダンシングチームの「フラワールームより愛をこめて」、Mr.オクレや村上ショージがフィーチャーされた「ラブユー貧乏」も本家「ラブユー東京」のロス・プリモスが自ら歌ってシングル発売された。この辺りになると一体何枚売れたのか見当がつかない。これらの歌は以前CDアルバム化される予定もあったが、諸般の事情で発売寸前にオクラ入りになってしまった経緯がある。番組開始から40年を迎える2021年までには、ひょうきんソングのコンプリートコレクションが実現しますように。
EPO「THE TAKECHANマン(タケちゃんマンの歌)」オレたち・昔アイドル族「好きさブラックデビル」アミダばばあ&タケちゃんマン「アミダばばあの唄」安岡力也「ホタテのロックン・ロール」うなずきトリオ「うなずきマーチ」ひょうきんディレクターズ「ひょうきんパラダイス」ジャケット撮影協力:鈴木啓之
【著者】鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。