開幕投手の重圧

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フリーアナウンサーの節丸裕一が、スポーツ現場で取材したコラムを紹介。今回は、開幕投手に選ばれた選手の重圧について分析する。

開幕投手の重圧

【MLB開幕戦アスレチックス対マリナーズ】国歌斉唱するマリナーズ・イチローら=2019年3月21日 東京ドーム 写真提供:産経新聞社

20日、メジャーリーグが7年ぶりに日本で開幕戦を行い、一足先に公式戦がスタートした。メジャーリーグの米国開幕戦は現地28日(日本時間29日)、日本プロ野球の開幕戦も29日に行われる。

開幕が近づけば我々ファンはワクワクして来るものだが、選手の心境はどうなのか。オープン戦絶好調のロッテ角中に聞くと「打ってると言ってもオープン戦ですよ。開幕してみないと」と笑う。必ずしもオープン戦の状態のままシーズンも打てるとは限らないだけに、慎重さは崩さない。侍ジャパンのメキシコ戦で4番満塁弾で一躍全国区になった吉田正尚も「開幕前は打てないのも良くないですけど、あまり状態が良すぎてもどうかと思うし…開幕にしっかり合わせたいですね」と話す。昔から、打者はその年の最初のヒットが出るまで、ホームランバッターなら最初のホームランが出るまで、「今年は1本も打てないんじゃないか」というほどの不安を感じる選手もいると言うが、あながち大袈裟な表現とも言い切れないかもしれない。

投手はどうか。とりわけ各チームのエース、ナンバーワンピッチャーが先発を任される「開幕投手」の重圧は相当大きそうだ。今年、日本人メジャーリーガー最多の4度目の開幕投手を任されるヤンキース田中将大は「いつもの試合と全く違う。開幕というのは特別。いつもと同じように、というのは無理だけど、その中で自分自身をどう制御し、試合に入って自分のパフォーマンスを出せるかだと思う」と語る。「ただ、今季は絶対的な存在(エースのセベリーノ)がけがをしてなんで。今までの3回はおまえでいくから、といわれてやってきたので、それは違いますよね」と謙遜ともとれるような発言もあったのだが、過去3度の開幕投手では勝ち星がないだけに「やり返す機会をもらえたとポジティブに受け止めている」と意気込む。今年こそ、開幕戦初勝利なるか。開幕は特別。田中も言う通り、過去の名投手達もその重圧には苦しめられて来た。田中はメジャー移籍後は開幕戦3戦未勝利だが、日本球界では巨人で7年連続で開幕投手を務めた上原浩治も2勝3敗と負け越している。最近10年の開幕戦で3勝以上挙げている現役投手は、涌井と菅野しかいない。エースでもなかなか結果を残せないのだ。

現役時代は開幕投手を2度経験して、0勝1敗と勝てなかった野村弘樹さんは、開幕投手をした2年ともシーズン全体の調子が上がらなかったと明かす。「開幕ありき、になってしまう。とくに早いタイミングで開幕投手と言われると、そこに向けて状態を上げよう、上げようとなってしまって、シーズンに向けての良い調整ができなかった」と言う。実際、野村さんは開幕投手を務めた92年は5勝、95年は4勝にとどまった。その前後で15勝、17勝、と2桁勝利5度の野村さんだけに、この2シーズンの不調は開幕投手の悪影響があったと思わざるをえない。

その点、異次元の快投を見せて来たのが斎藤雅樹さん。6度務めた開幕投手で3年連続完封など、4勝1敗と圧巻の成績を残す斎藤さんは昨季まで巨人の投手コーチとして、いまや球界ナンバーワン投手となった菅野智之をじっと近くで見て来た。菅野はその実力通り、開幕戦でも3勝1敗と安定した投球を見せて来たが、斎藤さんが「ストップ・ザ・菅野」の可能性を感じるのが広島の大瀬良だという。昨季はともに15勝でセ・リーグ最多勝を分け合った2人が投げ合うことになりそうなマツダスタジアムの開幕戦で、2人はどんな投手戦を演じてくれるのだろうか。ほかの10チームも素晴らしい投手がマウンドに上がるが、開幕戦の特別な重圧をどう受け止め、どのように向き合うのか。結果だけではなく、各チームのエースの内面にも注目してみたい。

節丸裕一(せつまる・ゆういち)
プロ野球実況19年目、MLB実況18年目のフリーアナウンサー。キャンプから、オールスター、日本シリーズ、Wシリーズ、日米野球、WBC、プレミア12など、野球の主要な国際大会の実況、取材多数。

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