カブスが挑む「あと1つの重み」
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フリーアナウンサーの節丸裕一が、スポーツ現場で取材したコラムを紹介。今回は、ダルビッシュ有と田澤純一が在籍するメジャーリーグのカブスを分析する。
現地3月4日、ダルビッシュ有と田澤純一がいるカブスのキャンプ地メサを訪ねた。一昨年3月、WBC決勝ラウンドに進んだ侍ジャパンが練習試合を行ったスローンパークだ。
カブスの昨季は表現しきれないほどの悔しい終わり方だった。2016年に108年ぶりの世界一に輝いたカブスは、3年連続でリーグ優勝決定シリーズまで進出、昨季も地区優勝の最有力候補とみられていた。 しかし球団関係者の1人は「世界一になったあと、チームのなかにおごりと言うか、ある程度は勝てるという気持ちの緩みみたいなものが生まれていたのかもしれない」と振り返る。
その結果、去年はあと1勝届かずに負けた。シーズン終盤戦にもたつき、結局162試合を終えて同率で並んだブルワーズとのタイブレイカーへ。ここで接戦に敗れたカブスは地区優勝を逃して一発勝負のワイルドカードゲームにまわり、今度はロッキーズに1点差で敗れたのだ。
振り返れば、あと1勝、あと1点で勝ち進むことができたはずだった。その悔しさを監督はじめ選手も関係者もみんな感じている。あと1つの進塁、アウト、ストライク……1球、ワンプレーを大切にして行こうという意識が監督以下、チーム全体でかなり強くなったと言う。
「細かいところで言えば、走塁なら、スタートの1歩。そういう部分を大切にして行こうとしている」と前出の関係者は言う。 球団史上初の4年連続ポストシーズン進出中のカブスは、今年も戦力的には1歩リードと見られている。しかし、これまでとは違い、同地区の他球団との差が縮まって来た。昨季は超強力ブルペン陣が奮闘したブルワーズに地区優勝を阻まれたが、このオフはカージナルスとレッズも補強。簡単に白星を計算することはできない。地元でも近年になく下馬評は低く、なかには勝率5割前後、地区3位予想と手厳しいメディアもあったが、これが選手のプライドに火をつけた部分もあるかもしれない。
全米での人気を誇るカブスがファンの期待に応えるには、昨季不振だった投打の主軸の活躍が鍵を握るだろう。 15年新人王、16年MVPで、昨季は肩の故障で不振にあえいだブライアントと、昨季大型契約でカブス入りしながら右ひじの故障もあって1勝に終わったダルビッシュだ。 このオフ、目立った補強もなかったカブスだが、この2人が本領を発揮できれば、勝率が大きく上がる可能性が十二分にある。そして幸いなことに、2人はいまのところ至って順調だ。
現地3月3日に行われたホワイトソックスとのオープン戦で先発したダルビッシュは、2回を無安打1四球3三振と好投。最速97マイルを記録し、降板後には地元メディアに「キャリアで最高」と振り返ったと報じられた。表情がとても明るいのは、手術を受けた右ひじの状態が良く、痛みや不安がないからだろう。
それでも、シーズンの数字の目標をたずねると「1試合1試合」と強調する。 あと1つ。そのわずかな差で悔し涙を飲んだカブスだが、全員がこうした意識を持ち続けることができれば。私は、秋には下馬評の低さをひっくり返す可能性は高いと見ている。
節丸裕一(せつまる・ゆういち)
プロ野球実況19年目、MLB実況18年目のフリーアナウンサー。キャンプから、オールスター、日本シリーズ、Wシリーズ、日米野球、WBC、プレミア12など、野球の主要な国際大会の実況、取材多数。