新生ドラゴンズを担う、小笠原慎之介と根尾昂
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フリーアナウンサーの節丸裕一が、スポーツ現場で取材したコラムを紹介。今回は、スーパールーキー根尾人気で多くのファンがキャンプ地に集まる中日を分析する。
中日がキャンプを張る沖縄の北谷。那覇市の中心部からは約20km離れているが、詰めかけるファンは多く、活気にあふれている。松坂フィーバーに沸いた昨年に続き、今年はスーパールーキーの根尾が入団して来た。昨季の公式戦主催71試合の観客動員が8年ぶりに1試合平均3万人を超えたことを考えると、球団の地道な努力もあるに違いない。
人気は明らかな回復の兆しを見せる中日だが、戦力的には決して楽観できない。何人かの評論家に話を聞いても、景気のいい答えは返って来ない。私も正直なところ、同感だ。この状況を打破するためには、若手がブレイクするしかないだろう。期待は、4年目の小笠原慎之介とルーキーの根尾昴だ。
2人はともに高校3年の夏に甲子園を制して、ドラフト1位で中日入りした共通点がある。
まずは、小笠原。プロ1年目から期待を背負い、1軍で投げて来た。2勝、5勝ときて、3年目の昨季は球団史上最年少での開幕投手も務めたわけだが、その開幕に合わせたことが本人の状態を微妙に狂わせた。「開幕投手、狙えるかもしれない、と思って、オープン戦から飛ばしてしまったところはあるし…やっぱり開幕に合わせようという意識が強すぎましたね」と振り返る。8月までに5勝を挙げたが、9月に左肘の遊離軟骨除去などの手術を受けた。勝ち星が伸びなかった要因には、開幕投手を務めたことで、その後も対戦相手のエース級とぶつかることが多く、投球内容の割に勝ち星にも恵まれなかったことがある。
しかし、球界のエースを狙うためには、相手のエースに投げ勝っていかなければいけないし、小笠原も当然その意識は強いが、冷静になってみるとまだ4年目。我々も長い目で見てもいいように思う。
小笠原は、手術直後は今年もできれば狙いたいと話していた開幕投手を、いまは頭からは外している。「こっち(読谷)で順調にやれてますけど、あまり早く早くと意識するより、シーズンを通してどれだけやれるかだと思ってるので、焦らずにじっくり状態を上げていきたいです」と自分自信を抑えるように話す。本当に良い状態になるのは5月ぐらいかもしれないが、それでも初めての2桁勝利に向けて、今年は大きな一歩を記す心意気だ。
その小笠原が「ルームメイトですよ」と目を向けるのは根尾昂。新人合同自主トレ中に右ふくらはぎの肉離れを起こした影響でキャンプは2軍スタートとなり、宿舎では小笠原と同部屋になった。昨年までの3倍とも言われるファンが連日集まる読谷。ファンとメディアの視線を一身に集める根尾の気苦労は想像に難くないが、小笠原が近くにいることは根尾にとっても心強いだろう。囲みと呼ばれるメディア対応の前に「おい! ちゃんと答えろよ! わかったな、ちゃんと答えろよ!」とわざと大きな声をかけた小笠原の気遣いも、根尾の気持ちを和らげていたように思う。根尾はスーパールーキーだ。甲子園でそれを証明したし、学業でも成績優秀な頭脳明晰ぶり、高校生とは思えないような大人な人間性もここまで幾度となく報じられて来た。また、スキーで国内を代表する選手だったように身体能力はずば抜けて高いのも魅力で、将来性は高く評価されるわけだが、そこは見方を変えると、野球選手としては未完成であるとも言える。イベントでのトーク、メディア対応などを見ていると、新人離れした頭の回転は感じるが、根尾についてもじっくり見た方が良いだろう。
昨年、中日はわずか63勝に終わったわけだが、そこから先発投手の勝ち頭13勝を挙げていたガルシアが抜けた。次に勝ったのが、松坂と笠原の6勝だから、ガルシアの穴はとてつもなく大きい。今年も松坂、吉見、山井といったベテランは健康であればある程度やってくれるはずだが、昨季から大幅な上積みを期待するのは酷で、10勝が期待できるのは笠原だけか。ここは大野の復調とともに、柳、小笠原のブレイクに期待したい。
投手陣に比べると、野手はほぼ全てのポジションが決まっているので計算は立つが、昨季の得点力はリーグの平均以下。やはり根尾がレギュラー争いに加わることで、野手陣の競争も激しくしたい。
昨季は1ゲーム差で最下位を免れるのがやっとだった中日。コーチ陣も1軍だけで6人が新任と、がらっと入れ替わった。人気の回復に負けない昇竜復活へ。若手の成長に期待しつつ、温かく見守りたい。
節丸裕一(せつまる・ゆういち)
プロ野球実況19年目、MLB実況18年目のフリーアナウンサー。キャンプから、オールスター、日本シリーズ、Wシリーズ、日米野球、WBC、プレミア12など、野球の主要な国際大会の実況、取材多数。