桑田コーチが戸郷に課した“エースへの課題”
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、春季キャンプで指導を開始した巨人・桑田真澄投手チーフコーチ補佐にまつわる話題を取り上げる。
プロ野球の春季キャンプも、いよいよ折り返し点。巨人は1軍が2月14日まで宮崎市でキャンプを行い、16日からは沖縄・那覇市に移動します。今季(2021年)、巨人のキャンプで選手以上に注目を浴びているのが、投手チーフコーチ補佐として新たに加わった桑田真澄コーチです。
昨季(2020年)は独走でリーグ優勝を果たしたものの、エース・菅野智之以外は2ケタ勝利に届かず、ソフトバンクとの日本シリーズでも、先発陣の薄さが響いて惨敗。今季は投手陣の整備が課題で、そこで招かれたのが独自のピッチング理論を持つ桑田コーチでした。
15年ぶりの古巣復帰となった桑田コーチ。1日のキャンプイン後、最初に顔を出したのが、東京ドームで独自に調整を行う「S(スペシャル)班キャンプ」でした。桑田コーチは、S班で調整中の菅野とまず意見交換。チーム全体の情報を共有しました。
桑田コーチによると、菅野には、
「『お前がシーズンで20勝して日本シリーズで2勝すれば、巨人は日本一になれるのか? なれないよな。底上げが必要だし、もう2人くらい、エース級をつくらないと。そのためにどうしたらいいか一緒に考えていこうよ』とね」
~『サンケイスポーツ』2021年2月7日配信記事 より
……と、新たな柱づくりへの協力を依頼したそうです。自分のことだけでなく、投手陣のリーダーという役割を担わせることで、より人間的にも大きくなって欲しい、という意図が窺えます。
「ほぼ完璧な投手だけど、さらに上を目指すには、こうしたらいいというものが2つある。本人にまだ話していないので、言えないけど(笑)」
~『サンケイスポーツ』2021年2月7日配信記事 より
……と言う桑田コーチ。今季は断念したメジャーで活躍するためには、プラスαで何を身に付けたらいいのかも話したいそうです。菅野らS班は6日からひと足先に那覇入りして調整を行っており、宮崎組との合流は後半からですが、キャンプ後半、桑田コーチが菅野にどんなアドバイスを行うのか興味深いところです。
6日から桑田コーチは宮崎キャンプに合流。1・2軍の投手陣に対し、
「ただ闇雲に投げるのではなく、先発、中継ぎ、クローザーといったような形で、それぞれにあった球数を投げて欲しい」
~『ショウアップナイター Powered by BASEBALL KING』2021年2月6日配信記事 より
……と伝えました。「闇雲に投げるな」と言いながら「役割に見合った球数を投げて欲しい」というのがポイントで、ある程度の投げ込みは必要、という考え方のようです。
具体的に指示した球数は、
「キャンプで先発は1000球以上、リリーフは750球以上、クローザーは600球以上投げてほしい」
~『サンケイスポーツ』2021年2月7日配信記事 より
……とのこと。それなりの球数ですが、これは桑田コーチが、
「『ピッチスマート』(米大リーグ機構が故障防止のために出したガイドライン)や自分の経験、いろんな研究結果から出した数字」
~『サンケイスポーツ』2021年2月7日配信記事 より
……だそうです。若手たちにただ「投げ込め」と指示しても反発を買うだけで、いまは具体的な数字を示し「なぜこの球数が必要なのか」を説明することが、指導する上では重要なのです。
「故障を軽減できて、肩や肘の負担や疲労を減らすことができる投げ方がある。それを伝えたい」
~『サンケイスポーツ』2021年2月7日配信記事 より
体のケアに関心を持つ選手が増えたいまは、これも大事なポイント。桑田コーチ自身も現役時代、何度も故障と戦って来ましたから説得力は抜群です。
また、ドラフト1位ルーキー・平内龍太ら若手には、
「投げ終わった後、マウンドの上に残された足跡とか、いろいろと答えが残っているよと、投げた後の歩幅などを覚えておいた方がいい」
~『ショウアップナイター Powered by BASEBALL KING』2021年2月6日配信記事 より
……とアドバイス。選手からも「指導が具体的でわかりやすい」と好評で、あいまいな感覚で伝えるのではなく、ちゃんと言語化して指導できるのが桑田コーチの強みです。
その桑田コーチが「彼にはいちばん厳しくしたい」と明言しているのが、3年目の戸郷翔征です。昨季は菅野に次ぐ9勝を挙げましたが、シーズン終盤は尻すぼみに終わってしまった戸郷。菅野と並ぶ「柱」になるには、さらなるレベルアップが必要です。
戸郷は、桑田コーチが合流した6日、予定になかったブルペン入りを志願。このとき、桑田コーチは「俺に時間をくれ」と、戸郷にユニークな指示を出しました。この日、戸郷は60球近くを投げましたが、前半30球は「捕手からの返球をキャッチしたら、すぐに次の球を投げる」練習を、途中休憩を挟んで10球×3セット実施。桑田コーチからは「10球中、何球いい球が投げられるか、そういう意識を持って投げなさい」と指示されたそうです。
この練習の意図を聞かれた桑田コーチは、ポイントとしてまず「心拍数」を挙げました。たとえばセーフティバントを仕掛けられたあとや、ベースカバー、打席に立ったあとなどに呼吸が乱れても、普段どおりに投げられるようにして欲しい……超ハイテンポな投げ込みは、そのための体力を養う狙いで、桑田コーチが現役時代に実践していた調整法でもありました。
もう1つのポイントは「制球力」。桑田コーチによると、コントロールを磨くには「短い時間で球数を投げて、体に覚え込ませるのが大事」。理想は10球中8球ですが、この日の戸郷は3セットとも「1球しかいい球が行っていない」とのこと。「10球中、8~9球いい球が投げられる能力はあるんだから。これからも挑戦してもらいたい」と、戸郷に課題を与えました。次代のエースとして期待すればこそ、です。
「お前が次のエースなんだから、しっかり頼む」と叱咤激励するのは誰にでもできますが、選手のウィークポイントを挙げ、克服のための効果的な練習法を指示し、なぜそれが必要なのかを説ける指導者はそんなにいません。
桑田コーチは戸郷について、こうコメントしています。
「彼は去年と同じような気持ちでやっていたら僕はやられると思うんですね。相手は研究してきますので、その上を行かなきゃいけないので。自分のことをもっともっとレベルアップしてもらいたい」
~『デイリースポーツ』2021年2月8日配信記事 より
原監督が望む「投手陣全体の底上げ」に、さっそく手をつけている桑田コーチ。意識面も含め、ジャイアンツ投手陣が“桑田効果”でどう変わって行くのか? 那覇では桑田コーチ自ら打撃投手を務めるそうで、キャンプ後半が楽しみです。