独裁化する習近平氏に対して日本が行うべき「2つのこと」

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が10月24日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。10月23日に開かれた第20期中央委員会第1回総会(1中総会)について解説した。

独裁化する習近平氏に対して日本が行うべき「2つのこと」

中国・北京で開かれた、習近平指導部の10年間の成果を示す展覧会に掲げられた習近平国家主席の写真=2022年10月12日 写真提供:産経新聞社

中国共産党、習近平氏を総書記に選出 ~3期目の最高指導部が発足

1週間に渡って行われていた中国共産党大会が10月22日に閉幕した。中国共産党は23日、第20期中央委員会による第1回総会(1中全会)を開いた。習近平国家主席は総書記に選出され、異例となる3期目の最高指導部が発足した。

飯田)習氏は現在69歳ですが、いままでであれば68歳以上は引退という慣例がありました。

宮家)5年ごとの中国党大会では、内外メディアで必ず人事予測が事前にあって、希望的観測も含めていろいろな意見が流れます。今回の人事に関しては、いろいろな新聞が「衝撃だ」「独裁だ」などと書いています。実際そうなのかもしれませんが、大きな流れで見たら、実はその方向に動いていたわけです。そのなかで、いわゆる「団派」と言われる中国共産主義青年団系の人たちがほとんど一掃されていて、今や周りはイエスマンばかりです。よく「ヒラメ」と言うけれど、上しか見ていない人ばかりですね。

飯田)上司の顔色ばかり見る人を「ヒラメ社員」と言いますね。

独裁者が独裁を完成させると周りはイエスマンばかりになる

宮家)産経新聞にも書いてありましたが、これドラマを見ていると、プーチン大統領と同じです。要するに独裁者が独裁を完成させるとどうなるかと言えば、周りは側近という名のイエスマンばかりになる。ということは、岸田さんと違って「聞く力」ではなく、「聞く耳」すらもないのです。

飯田)なるほど。

宮家)本来なら、いろいろな難しい問題に対してあらゆる議論があり、賛成論・反対論が出るなかで決まっていくはずです。でも、こんな独裁体制では、いいときはいいけれど、悪いときはすごく脆いですよ。

飯田)脆い。

宮家)典型例がウクライナ戦争ではないですか。

中長期的に考えると心配な中国 ~最高指導部に経済の専門家がいない

宮家)そう考えると、独裁体制が続くことのコスト。近い将来はいいのですよ。3期目で自分のやりたいことをやるというならいいけれど、では習近平さんにとって本当に自分のやりたいこととは何なのか。中国の発展、安全保障、経済の自立、共同富裕など、いままで言ってきたことが演説では並べられていますが、経済の方はあまりやる気がないというと申し訳ないですが、経済のプロもいないですよね。

飯田)最高指導部のなかに。

宮家)衝撃ではなかったけれども、「こんなことをやっていて中長期的に中国は大丈夫なのか?」という心配がないわけではないです。

飯田)ここまで露骨にやるのかという。

宮家)独裁者とはそういうものですから。でも、日本で同じことをやったら大変ですよ。岸田さんが岸田派だけ集めて、他は誰も入れないどころか、みんな失脚させてしまう……そんなことをしたら大騒ぎになります。それが平気でできる中国という国を、おかしいと思わなければいけません。

胡錦濤氏の退席の理由は何なのか

飯田)メールもいただいています。「習近平さんの親衛隊のようなメンバーたちですよね。次の首相候補と新聞などで持ち上げられていましたが、副首相だった胡春華氏が首相・チャイナセブンどころか政治局員にすらなれず、突然降格。李克強首相も外され、前国家主席の胡錦濤さんがよろよろと議場から退席させられましたが、連行されるような姿でした」といただきました。

宮家)最後に胡錦濤さんが途中退場させられた時、習近平さんに一言話していたでしょう? 何を話したのか私は非常に興味津々なのです。中国でああいう式典は大事ですよね。

飯田)そうですね。

宮家)その式典でああいうことが起きた。「体調不良」と報道されているので、体調不良なのかも知れませんが、あの状況を見る限りは「なぜ俺が出ていかなければいけないのだ」「習さん、どうなっているのだ?」と言っているようにも見えました。それで李克強さんの肩をパンと叩いた。「体調不良」というより、式典の「調整不良」ですよね。

飯田)式典の調整不良。

宮家)あのようなことをメディアに撮られてしまった。報道はしていませんけれども。

飯田)国内では。

宮家)やはり「何かあったのだろうな」と普通の人は思うでしょうね。

独裁化する習近平氏に対して日本が行うべき「2つのこと」

中国の習近平国家主席(ウズベキスタン・サマルカンド)=2022年9月16日 AFP=時事 写真提供:時事通信

胡錦濤氏の退場直前にメディアが呼ばれた ~人事全体への抗議からか

飯田)これまで共産党大会の議論そのものは、基本的にはメディアに非公開のものが多かったのですか?

宮家)内部で行われた本格的な議論は文章になっているはずですから、そういうものを読んだ人や、実際に手に入れた人もいると思うけれど、それが公開されるということは私が知る限りありません。

飯田)今回の胡錦濤さん退席のシーンも、直前に「メディア公開だ」と呼ばれて入っていったら、そのシーンだったということも言われています。

宮家)そうだとしたら、これも推測ですが、やはり人事全体をこころよく思っていない人がいて、あえてああいう状況を撮らせたのか。無言の抗議ではないけれども、やはり「一言言いたい」人がいるということではないでしょうか。それは健全なことだと思いますよ。約15億人がいて、みんな同じ意見になるわけがないではないですか。

中国に対して行わなければならない2つのこと

飯田)中国共産党大会をご覧になって、不安を覚えた方もたくさんいらっしゃったようです。千葉県鎌ケ谷市の59歳・会社員、“空飛ぶ幽霊船”さんからご意見をいただきました。「習カラー一色となりましたが、これで中国のロシア化がさらに加速したのではないかと思います。となると、この先ますます近隣諸国や日本への侵攻・圧力が強くなるかも知れません。何か対抗策はあるのでしょうか?」と。最初に焦点になるのは台湾ですが、その先はどうでしょうか?

宮家)習近平さんにしてみれば、「自分しかいない。そして自分には仕上げなければいけないことがある。父親の世代でできなかったことを、我々が何とかしなければならない。共産党はこのままいったらどうにかなってしまう。そうならないように、ある程度の強権を使ってでも共産党独裁のシステムを守るのだ」ということなのですけれどね。

飯田)習近平氏の考えは。

宮家)対外的には日本政府に対してもアメリカ政府でもみんな同じで、中国側の対外強硬策は続くだろうと思います。そうなると、中国側が強硬なまま話し合いをする気がないのだったら、話し合いは難しい。しかし、何もできないかと言うとそうではなく、2つやらなければならないことがあります。

習近平氏に誤算させないように信頼醸成措置を講じなければならない ~しかし譲歩する必要はない

宮家)1つは、やはり話し合いはしなければいけない。なぜかと言うと、誤算を防ぐ必要があるからです。先ほども申し上げた通り、独裁者が誤算したら大変なことになります。独裁者は絶対なので、(間違ったことをしても)変えられなくなってしまいますから。

飯田)プーチン大統領のように。

宮家)そのためには中国側に誤算をさせないよう、十分に信頼醸成措置を講じなければならない。そして「日米は中国の武力行使だけでなく、台湾独立も望んでいない」と改めて知らしめなければいけない。その意味では、対決姿勢である必要はなく、常に話し合いの糸口を考えなければなりません。ただ、決して譲歩する必要はないですよ。

飯田)譲歩する必要はない。

抑止をすること

宮家)もう1つの大切なことは、抑止をすることです。中国が誤算することもあるかも知れませんが、中国が「こんなことをしたら、こんな大変な目に遭うぞ。日米が本気で邪魔しに来れば台湾侵攻もできないぞ。それに、侵攻に失敗でもしたら中国国内で大変な目に遭うぞ」と知らしめる。相手には「だったらやめておくか」と思わせなければならない。これが抑止の基本ですよね。

飯田)抑止の基本。

宮家)いろいろな手はこれから打てると思いますし、そのためにも国家安全保障戦略などの3文書の内容を、文章だけではなく、予算を伴うものにしていかなければと思います。

抑止できる攻撃力を持たなくてはいけない時期にきている

飯田)防衛費を国内総生産(GDP)比1%から2%程度にしなければいけないなど、いろいろなことが言われています。宮家さんは端的に、いま必要なものは何だと思いますか?

宮家)もちろんたくさんあるのですが、「いま持っている正面装備は一体何ヵ月使えるのか?」ということです。下手をすると数週間、数日で弾がなくなってしまうのですから。

飯田)弾薬が足りないと言われていますね。

宮家)いまの基地の構造では、ミサイルを撃たれたらすぐに戦闘機が破壊されてしまいます。それではまずいでしょう。自分たちがいま持っているものを守るだけでも、相当なお金が必要です。そのためにどうやって財源を出すのか。来年(2023年)、再来年はまだいいのですが、最終的には5年~10年かけて何をするかを考えたときに、先送りしてはいけないことがたくさんあるのではないでしょうか。1~2年なら先送りできますが、5年後、10年後のことを考えて、どうやって財源を出すか。頭が痛い問題だと思いますね。

飯田)ただ、いま動いておかないと。

宮家)いま動かないとダメだと思います。最初は北大西洋条約機構(NATO)方式で計算方法を変えれば割合は少し上がりますから、うまく辻褄が合うと思いますけれど。しかし、数字の辻褄を合わせることが問題の本質ではありません。

飯田)やらなければいけないのは。

宮家)大事なことは、実際に力がついて、抵抗力がついて、あえて言いますが攻撃力がついて、そして抑止力がつく。これをやらないと、いくら国会を乗り切って予算が通っても意味がないと思います。

飯田)数字を合わせるものではないということですよね。

宮家)実力をつけなくてはいけない時期にきていると思います。

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