追悼・西田敏行さん――多彩に役を演じ分ける国民的俳優
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Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね【第1213回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
「あんなにお元気だったのに信じられない!」
10月17日、俳優・西田敏行さんが逝去されたというニュースが流れた時、誰もがそんな思いに駆られたことでしょう。ほんの数日前には、出演した映画の記者会見に出席。にこやかにお話しなさる姿が、テレビやweb動画に映し出されていたのですから。
そしていま、テレビやラジオでは追悼番組が次々と放送されています。西田さんの優しい笑顔を目にする度に、一抹の寂しさを感じている人も多いのではないでしょうか。
私も、先日ニッポン放送でオンエアされた「ありがとう、西田敏行さん~ラジオで伝えた故郷・福島~」(10月25日・21時~21時50分)で、軽妙なお喋りや情感豊かな朗読を拝聴し、もうお目にかかれない寂しさと共に、西田さんの偉大さを改めて実感しました。
※写真は『釣りバカ日誌』特集上映初日舞台挨拶より。“ハマサンタ”として登場した西田敏行さん。
そこで今回は、西田敏行さんを大特集。出演映画を通じて、俳優・西田敏行の魅力を掘り下げます。
常に躍進を続ける大御所俳優、そして稀代のエンターテイナー
「西遊記」の猪八戒、「池中玄太80キロ」の池中玄太など、数々の人気ドラマに出演。俳優としてのキャリアを着実に積み上げてきた西田敏行さん。その一方で、歌手としても活躍。大ヒットした「もしもピアノが弾けたなら」は言わずとしれた名曲で、今でも多くの人々に愛されています。
個人的には、「探偵!ナイトスクープ」で感動エピソードに涙する西田局長を見るのが楽しみでした。
日本映画界においては、山田洋次監督や北野武監督、三谷幸喜監督をはじめ、錚々たる映画監督の作品に繰り返し起用され、数々の名演をみせてきました。
そんな西田敏行さんにとっての代表的な出演映画と言えば、やはり『釣りバカ日誌』シリーズです。鈴木建設の万年ヒラ社員の浜崎伝助・通称“ハマちゃん”と、鈴木建設のトップにしてハマちゃんの釣りの弟子、“スーさん”こと鈴木一之助。2人が巻き起こす騒動を描いた人情コメディです。
西田さんは釣りと奥さんのみち子さんをこよなく愛するハマちゃんを、22年にわたり熱演。三國連太郎さん演じるスーさんとの丁々発止も軽快で、カラリとした笑いを届けてくれるハマちゃん役は、西田さんにとってハマり役となりました。
シリーズ最後の作品となった『釣りバカ日誌20 ファイナル』公開時の舞台挨拶では司会を務めさせていただいたのですが、巧みな話術でお客様を楽しませる一方で、大先輩の三國連太郎さんへの気遣いを忘れないジェントルマンなふるまいが、今でも脳裏に焼き付いています。
『釣りバカ日誌』シリーズのロケ地22ヶ所を巡った御礼行脚舞台挨拶では、イベント当日がお誕生日だった三國連太郎さんのために、ハッピーバースデーの歌を披露して下さったのも懐かしい思い出です。
振り返ってみると、西田さんはどんな時も、観客を喜ばせることを第一に考えてらっしゃったなぁと思います。ドラマや映画への出演は精力的に続けていたものの、近年は椅子に座ってお芝居をすることが多かったことは、視聴者の方もお気づきだったかもしれません。足腰を悪くなさっていることは周知の事実でした。
今だから言える話なのですが、映画『任俠学園』初日舞台挨拶でご一緒させていただいた時も、決して良い状態ではありませんでした。そのため、舞台周りは西田さんシフトに。舞台に上がるまでの導線は、お客様から見えないようにパーテーションで目隠し。トークパートは、西田さんはじめ登壇者の皆さんは椅子に座って進行。
それでも、会場に駆けつけて下さったファンに心配をかけたくないという思いからでしょうか。ステージへの入退場ではステッキを片手に溌剌と歩き、フォトセッション時はすっくと立ち、笑顔でフラッシュを浴びていた西田さん。
弱々しい姿をお客様には見せたくない。俳優としての矜持を貫く姿勢を目の当たりにさせていただき、いま思い出しても、ただただ敬服するばかりです。
今こそ観たい! 近年の西田敏行さん出演映画
■『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
人気作家・東野圭吾の同名小説を実写映画化した『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。現在と過去が手紙でつながる不思議な雑貨店を舞台に、養護施設育ちの若者と店主の時を超えた交流を描いた感動作です。
西田敏行さんが演じたのは、街の人々に愛されるナミヤ雑貨店の店主・浪屋雄治。悩み多き人々に寄り添い、導いていく。その情感豊かな演技は、まさに西田さんの真骨頂!
■『アウトレイジ 最終章』
北野武監督が手がけた『アウトレイジ』シリーズ。裏社会に生きる男たちの血で血を洗う闘争を壮絶に描いたバイオレンス・アクション映画に、西田さんは第2弾『アウトレイジ ビヨンド』、完結作『アウトレイジ 最終章』に出演。花菱会若頭・西野一雄役に扮しました。
前出の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』と『アウトレイジ 最終章』は、どちらも2017年秋に劇場公開されました。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の店主が絵に描いたような善人キャラなら、本作で演じた西野は超がつく極悪人。
迫力ある顔面と関西弁でまくし立てるようなセリフ回しで、観客を一気に『アウトレイジ』ワールドへと誘う熱演をみせており、2 作品でみせる役柄のギャップが凄すぎて驚いたものでした。
この振り幅の広い演技力こそ、西田さんが国民的俳優と呼ばれる所以と言っても過言ではないでしょう。
『劇場版ドクターX FINAL』(2024年12月6日から全国ロードショー)
孤高のフリーランス外科医・大門未知子の活躍を描いた人気ドラマシリーズがついに映画化されました。本作で初めて明かされるのが、大門未知子誕生の秘密。“失敗しないハケンの外科医”大門未知子のダークでミステリアスな半生に迫ります。
東帝大学病院長・蛭間重勝役をドラマシリーズから演じてきた西田敏行さん。蛭間という役と向き合うことについて、西田さんは生前「キャリアの中でもベスト5に入る幸せな時間だった」と語ってらっしゃったとのこと。
蛭間重勝を完璧に演じ切った西田敏行さんの勇姿を是非、スクリーンで。
末筆ではございますが、西田敏行さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
<作品情報>
釣りバカ日誌20 ファイナル(2009年公開)
DVDリリース デジタル配信中
出演:西田敏行 三國連太郎 浅田美代子 吹石一恵 塚本隆史 松坂慶子
原作:作・やまさき十三 画・北見けんいち
監督:朝原雄三
脚本:山田洋次 朝原雄三
撮影:近森眞史
音楽:信田かずお
配給:松竹
(C)2009 松竹株式会社
<作品情報>
任俠学園(2019年公開)
Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
出演:西島秀俊 西田敏行 伊藤淳史 葵わかな 葉山奨之 池田鉄洋 佐野和真 前田航基 戸田昌宏 猪野学 加治将樹 川島潤哉 福山翔大 高木ブー 佐藤蛾次郎 桜井日奈子 白竜 光石研 中尾彬(特別出演) 生瀬勝久
監督:木村ひさし
原作:今野敏 「任俠学園」(中公文庫)
脚本:酒井雅秋
音楽:末廣健一郎
主題歌:「ツギハギカラフル」東京スカパラダイスオーケストラ
製作:エイベックス・ピクチャーズ バンダイナムコアーツ ROBOT 清栄コーポレーション 博報堂 中央公論社 読売新聞社 KICCORIT
企画・制作プロダクション:ROBOT
製作幹事・配給:エイベックス・ピクチャーズ
(C)今野 敏/(C)2019 映画「任俠学園」製作委員会
公式サイト https://ninkyo-gakuen.jp/
<作品情報>
ナミヤ雑貨店の奇蹟(2017年公開)
Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
出演:山田涼介 村上虹郎 寛一郎 成海璃子 門脇麦 林遣都 鈴木梨央 山下リオ 手塚とおる PANTA 萩原聖人 小林薫 吉行和子 尾野真千子 西田敏行 ほか
原作:東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』角川文庫刊
監督:廣木隆一
主題歌:山下達郎「REBORN」(ワーナーミュージック・ジャパン)
配給:KADOKAWA 松竹
(C)2017「ナミヤ雑貨店の奇蹟」製作委員会
<作品情報>
アウトレイジ 最終章(2017年公開)
Blu-ray&DVDリリース
監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一
出演:ビートたけし 西田敏行 大森南朋 ピエール瀧 松重豊 大杉漣 塩見三省 白竜 名高達男 光石研 原田泰造 池内博之 津田寛治 金田時男 中村育二 岸部一徳 ほか
製作:バンダイビジュアル、テレビ東京、ワーナー・ブラザース映画、東北新社、オフィス北野
配給:ワーナー・ブラザース映画 オフィス北野
(C)2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会
公式サイト https://outrage-movie.jp/
<作品情報>
劇場版ドクターX FINAL
2024年12月6日(金)から全国東宝系にてロードショー
出演:米倉涼子 田中圭 内田有紀 今田美桜 勝村政信 鈴木浩介 岸部一徳 染谷将太 西畑大吾 綾野剛 遠藤憲一 西田敏行
脚本:中園ミホ
監督:田村直己
音楽:沢田完
主題歌:Ado「Episode X」(作詞・作曲:Ayase)
制作プロダクション:ザ・ワークス
製作幹事:テレビ朝日
配給:東宝
(C)2024「劇場版ドクターX」製作委員会
公式サイト https://doctor-x-movie.jp/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/