『半沢直樹』や『サンクチュアリ -聖域-』で知られる金沢知樹が脚本を手掛ける“ラジオドラマ×舞台×映像”プロジェクト『はがきの王様』が、2026年2月よりスタートする。

松岡昌宏、ピエール瀧
ジャンルに捉われず、コミカルで人情的な作風を得意とする金沢のエンターテインメントに目覚める原体験は“深夜ラジオ”だった。かつて『とんねるずのオールナイトニッポン』のはがき職人をしていた金沢。それをきっかけに芸人を目指し長崎から上京した彼の作家としてのキャリアスタートは、憧れだったラジオの裏方、ニッポン放送の長寿番組『ゴッドアフタヌーン アッコのいいかげんに1000回』のサブ作家からだった。その後自らの世界観を具現化するため劇団を立ち上げ、演劇にも傾倒。それから劇作家としての才能が映像業界にフックアップされてからの活躍はご存じの通り。本作は、まさに金沢が歩んできた人生そのもののようにラジオドラマから始まり、舞台化、そして映像化までを目指そうというプロジェクトだ。
このたび、そんな金沢と本作の主人公・田中伊千郎役の松岡昌宏、伝説のパーソナリティ・楢崎幸之助役のピエール瀧にインタビュー。かつてニッポン放送でパーソナリティを務めていた松岡と瀧から当時の貴重な思い出のほか、ラジオと関わりの深い3人だからこその“ラジオ愛”を語ってもらった。
――「ラジオドラマ&舞台」への出演という、なかなか珍しい依頼だったかと思います。オファーを受けてどう思いましたか?
松岡:僕は生粋のラジオっ子。ずっとラジオ、それこそ『オールナイトニッポン』を聴いて育ちました。僕の子供の頃の『オールナイトニッポン』といえば、やはりとんねるずは思い出深いですね。ビートたけしさん、伊集院光さん、古田新太さんがパーソナリティだった頃も欠かさず聴いていて、その数年後にまさか自分がニッポン放送に出演するようになるなんて! 今でもラジオの仕事をしていますから、ラジオへの愛は子供の頃から変わりません。そして“はがき”というツールについても、僕が子供の頃は週刊少年誌の一番後ろに読者投稿ページがあって、それを読むのが楽しみでした。今はラジオも雑誌もメールでお便りを受け付ける時代になりましたが、はがきの良さを見て感じて育っているので、令和の時代にそれを伝えられたらいいなと思っていました。今回のオファーは願ってもない機会でしたね。
瀧:ラジオ番組にとって「はがき職人」というのは、リスナーというより番組スタッフに近しいものだと僕は思っています。番組を作る上で欠かせないものですからね。そのはがき職人にスポットを当てるというのは非常に珍しいですし、興味深いと思ってお受けしました。また、金沢さんの体験を基にした脚本というのに惹かれた部分もあります。
――金沢さんにとっても、ラジオに影響を受けた自身の人生を脚本にするという、これまでにない依頼だったかと思います。作品にどのような想いを込められたのでしょうか?
金沢:この『はがきの王様』は、僕が中学生の時に『とんねるずのオールナイトニッポン』のはがき職人をしていた頃の体験を基にしています。はがきを読まれると番組オリジナルのグッズがもらえて、それを学校に持っていくとヒーローになれました。それがうれしくて、当時はお小遣いのすべてをはがき代と切手代にあてていたくらいです(笑)。はがきを送ることは義務でもないし、どれだけ読まれようともお金をもらえるわけでもない。ただ単に「好きだから」「読まれたい」という気持ちだけで送り続けていたんです。その当時の気持ちを思い出しながら書きました。

――ストーリーにもその経験が色濃く反映されているのでしょうか?
金沢:そうですね。瀧さんに出演してもらった『サンクチュアリ -聖域-』(Netflixドラマ)をはじめとする僕が脚本を手掛けたオリジナル作品は、フィクションであっても登場人物だけは僕の周りにいる人たちを誇張して作っているんです。今作の主人公・田中浩司に関しては、過去のラジオにまつわるエピソードは僕の経験を拾い、そのほかの設定は僕の友人たちの経験を勝手に使わせてもらいました。例えば「いい会社に勤めていたのに、仕事につまづいて退社した」とか。今51歳なのですが、同級生たちがめちゃめちゃリストラされているんですよね(笑)。もし僕がそういう経験をしたら、今までの人生を振り返って「一番楽しかった時期は……」なんて過去を羨むと思ったんです。そして、僕の一番楽しかった時期といえば、のめり込むようにラジオを聴いて、はがきを書いていた時だなって。そうやっていろいろ拾い集めながら作っていきました。
――松岡さんと瀧さんは、そのプロットを読んでどんな印象を持ちましたか?
松岡:僕も昔はかじりつくようにラジオを聞いていましたから。ラジオはテレビと違って、想像力が必要となるコンテンツです。音声情報だけで構成されているので、パーソナリティの表情や情景などを自分の頭の中で膨らませなければなりません。「昔は勝手に頭の中に絵を作ってニヤニヤしていたな~」と思い出して、ちょっとこそばゆくなりました(笑)。
瀧:先ほど金沢さんのお話に「はがきを読まれると学校でヒーローになれた」とありましたが、本当にその通り。今はSNSがありますが、僕たちが学生時代に違うコミュニティの人たちと交流したり承認欲求を満たすコンテンツでいうと、やはり「ラジオや雑誌にはがきを送って採用されること」だったように思います。SNSは即時性がありますが、はがきは書いて読まれるまでにタイムラグがありますから。今か今かと待っている時間は、少し恋心にも似ているような(笑)。はがきは今はもう使われないメディアかもしれないですが、リスナーからパーソナリティに立場が変わって思うのは、電子メールよりもはがきの方が温かみがある感じがします。字の形や行間から、その人となりが伝わってくるんですよね。それを思い出させてくれる物語だという印象を持ちました。
――ということは、瀧さんも過去にはがき職人だった経験があるのですか?
瀧:「はがき職人」なんておこがましいです。はがき職人と名乗れるのは、ある一定のレベルを超えなければならないので(笑)。でも、小・中学生の頃に聴いていたラジオには、よくネタを書いて送っていましたね。全然読まれませんでしたけど……。面白いと送っているのに箸にも棒にも掛からなかったことで、「自分以上に面白いやつがたくさんいる」と世間を知った瞬間でもありました(笑)。
――松岡さんはいかがでしょうか?
松岡:もちろん送ったことはありますよ! でも、僕がこの世界に入ったのは12~13歳の時だったので、実体験は1つも書けませんでしたけどね(笑)。
――松岡さんも瀧さんもラジオ愛が強いことが伝わってきますが、金沢さんが2人にオファーしたのはそれが決め手だったりするのでしょうか?
金沢:いやいや! お2人にこんなにラジオにまつわるエピソードがあるなんて、まったく知りませんでした。瀧さんは『サンクチュアリ』でご一緒した時にも思ったのですが、とても人間味がある方。またぜひご一緒したいと思ってお声かけさせてもらいました。正直、僕は芝居の上手い・下手がよくわかっていなくて。僕が選ばせてもらう時は、その人の“味”みたいなものを基準にしています。松岡さんからは、それをすごく感じるんですよね。
松岡:それ、薄く悪口じゃないですか(笑)?
金沢:全然違います(笑)! いつかご一緒したいと思っていて、まさか引き受けてくれるなんて思っていませんでした。普段は悪口しか言わない知り合いの構成作家が、松岡さんのことだけべた褒めしていて。「絶対にいつか一緒にやった方がいい!」と20年ほどずっと言われ続けていて、ようやくその機会が巡ってきました。本当、はやく一緒に酒が飲みたい(笑)!
松岡:ぜひ! 肝臓を鍛えておきますね(笑)。
――意外なことに、松岡さんと瀧さんは今作で初共演となります。お互いの印象をうかがえますか?
松岡:もしかすると音楽番組ですれ違ったりしているかもしれないですが、ほぼ初対面なんですよ。つい先ほど初顔合わせだったのですが、おそらく初めて会話を交わしたと思います。もちろん瀧さんのことはずっと存じていましたし、俳優、パーソナリティ、音楽とたくさんの要素を持ち合わせている“本当のエンターテイナー”という印象でした。僕も昔からジャンルを絞らずに活動していきたいという思いがあって、よく「松岡さんは肩書として何と呼ばれたいですか?」と聞かれるのですが、「タレントでいいです」なんて答えていました(笑)。
瀧:“本当のエンターテイナー”なんてステキなことを言ってくれましたが、松岡くんの方が当てはまると思います。テレビをつければ必ずと言っていいほど出ていて、バラエティでの活躍はもちろん、『家政夫のミタゾノ』のような難役も演じられる俳優さん。「とりあえず跨れば何でも乗りこなせちゃう人」という印象がありますね。あと最近の松岡くんといえば、博多大吉さんと飲んでいる印象しかない(笑)。
松岡:もうね、最近は酒飲む仕事ばっかり(笑)。
瀧:酒が飲める人で良かったよ。金沢さんと飲みに行くときはぜひ僕もご一緒したいです。
金沢:それはもうぜひ!
瀧:そんな方と舞台でご一緒できるなんて、本当に光栄です。
松岡:それはこっちのセリフです! オファーをいただいて、プロットに心掴まれたのが3割。ずっとやりたかった本多劇場が会場というのが6割。そしてピエール瀧さんの出演が決まるかもしれないと聞いて10割掴まれ、出演を決めました。お世辞ではなく心の底から「いつか芝居で掛け合ってみたい」と本当に思っていましたからね。

ピエール瀧、松岡昌宏
――本作の題材となるラジオのパーソナリティを務めた経験もあるお2人。ニッポン放送との歴史も深いので、ぜひその時の思い出などを聞きたいです。
松岡:特に印象に残っているのは、誕生日の日に、腰を痛めた伊集院さんのピンチヒッターとして『伊集院光のOh!デカナイト』に出演して、ひとりで3時間まわしました。TOKIOとしてデビューしてからは『TOKIOナイトCLUB』で20年近くお世話になりましたし、ニッポン放送には思い出がたくさん詰まっています。あと一番覚えているのは、15歳の時に『石川よしひろのオールナイトニッポン』が終わると聞いて、いてもたってもいられなくて飛び入り参加したこと。最初は外で出待ちしていたのですが、ファンの方に「松岡くん行っちゃいなよ!」と背中を押されて、花束を持って突入しました。で、翌日のドラマ撮影に遅刻するっていう。いい時代だったなぁ(笑)。
瀧:僕ら(電気グルーヴ)もデビューしてすぐ、まだ無名だったにも関わらず『オールナイトニッポン』をやらせてもらいましたね。ほぼ野良犬出身の2人がリミッターもかけずにトークしていて、ニッポン放送さんは非常に危ない挑戦をしていたなと思います(笑)。当時はSNSどころかインターネットもない時代で、仕事柄あまり人に相談もできないですし、今思うとそのモヤモヤを吐き出す場所であってくれたような気がします。ラジオって本当に不思議で、電波を通して全国にお届けしているはずなのに、すごくパーソナルでクローズなものに感じられて。今はかなり間口も広がりましたが、僕らがやっていた時代は、マイノリティな方々に“自分だけの特別な場所”を提供する役目を担っていたように思います。
松岡:ラジオって昔はもっと危なっかしい場所でしたよね。大人になる入口はラジオにあったというか……エッチなことは全部ラジオで覚えたような気がします(笑)。
瀧:「大人ってこんなにエロイんだ!」と驚きましたよね(笑)。あとは、知らない音楽に出会える場所でもありました。リスナーやゲストのリクエストで流れた曲が気に入って、今まで聞いてこなかったジャンルやアーティストに触れたり。
松岡:昔『篠原美也子のオールナイトニッポン』にゲスト出演させてもらったことがあるのですが、面白かったもんなぁ。「こんな音楽性を持っている人がいるんだ!」と知るきっかけになりました。
――パーソナリティになり、寄せられたはがきを読む立場にもなりました。2人はどんな基準で読むはがきを選んでいたのですか?
瀧:『オールナイトニッポン』時代は、送ってくれたはがきにはすべて目を通していました。毎週30センチほどの束になったものが3つくらい。本当にいろんなネタや意見、物語があって、どれも「読んでほしい!」という熱量を感じるものばかりでしたが、やはり決め手は「面白さ」でしたね。
松岡:僕の場合は、面白くなくても「僕と同じようなことを考えているな」と思ったら読んでいましたね。それに僕の考えやエピソードを加えることで、しっかりトークの素材となるので。
――貴重なお話をありがとうございます。最後に、ラジオファンは絶対に注目するであろう本作の上演を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。
金沢:完全オリジナルで舞台の脚本を書くのは、実に7年ぶりとなります。僕にとっては映像の脚本を書くより難しく、ワンシチュエーションで展開していくシーンが多いので、とても緊張感を感じています。ですが、一緒にやりたかったお2人が参加してくれるということで、僕自身も上演がすごく楽しみなんですよね。観に来てくださる皆さんにも楽しんでもらえる作品にしたいと思います。
瀧:大人になっていろいろな経験をする中で、ふとしたきっかけから「自分らしさ」を取り戻す瞬間があると思うんです。例えば草野球だったり、釣りだったり。「そういえば子供の頃、こんなことをしていたな」と思い出すきっかけとなる出来事が、今作では「ラジオ」に焦点を当てて描かれます。公演を観に来てくださる方には、この物語を通して「自分を取り戻すきっかけ」を見つけてもらえたらうれしいです。
松岡:芸歴が30年を超えると、仕事で「初めて」に触れる機会が少なくなってくるんですよね。でも今作は初の試みが多くて、さらに瀧さんとも初共演です。そんな「初めて」を素直に楽しみたいと思います。あと、男の役を演じるのがすごく久しぶりなんですよね。おそらく2018年の『江戸は燃えているか』以来。それ以降は『新・6週間のダンスレッスン』『東京ゴッドファーザーズ』『家政夫のミタゾノ THE STAGE 〜お寺座の怪人〜』『家政夫のミタゾノ THE STAGE 〜レ・ミゼラ風呂〜』と女装が続いたので、8年ぶりの男役も頑張ります(笑)!
https://w.pia.jp/t/hagaki-osama/
*2月17日(火)23:59まで受付。





