33年前の今日、1983年5月2日、佐野元春のアルバム『No Damage』がオリコンのヒットチャート1位を獲得 【大人のMusic Calendar】

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その知らせを佐野が聞いたのは、滞在先のニューヨークでのことだった――“佐野元春伝説”では、必ず、このように語られる。
33年前の今日、1983年5月2日は佐野元春の初のコンピレーション・アルバム『No Damage(ノー・ダメージ)』(1983年4月発売)がオリコンのヒットチャート1位を獲得した日である。
かの『SOMEDAY(サムデイ)』ですら、最高位は4位。彼にとって、同作は初のオリコン・ヒットチャートのナンバーワンとなった。

1983年3月18日、東京・中野サンプラザでの『ロックンロールナイト・ツアー・スペシャル』の最終日、佐野は自らファンへ東京を離れ、ニューヨークに1年間、滞在することを伝えている。
人気絶頂の時に日本を離れてしまう。危険な賭けとも思えるが、ニューヨークでの経験は『VISITORS(ヴィジターズ)』(1984年5月発売)という、ヒップホップをいち早く取り入れ、アナログとデジタルを融合させ、日本の音楽シーンに衝撃を与える革新的な作品として結実した。
同作については、いずれ、語る機会もあると思うが、今は『No Damage』について言及しよう。

『No Damage』は、ただのコンピレーション・アルバムやベスト・アルバム(佐野自ら同作にはスマッシュ・ヒットもないことからベストやグレイテスト的な表記を拒否している)ではない。
佐野は“パーティ・アルバム”を意識したという。
曲間を再調整、再録音、再編集などもして、パーティの雰囲気をノンストップに楽しめる作りにしている。
デビュー・アルバム『Back To The Street(バック・トゥ・ザ・ストリート)』(1980年4月発売)、セカンド・アルバム『Heart Beat(ハートビート)』(1981年2月発売)、『SOMEDAY(サムデイ)』(1982年5月発売)の佐野元春の初期の“3部作”の代表曲(「アンジェリーナ」や「ガラスのジェネレーション」、「悲しきレディオ」、「サムデイ」など、いまもコンサートで演奏され、オーディエンスに支持されている楽曲)を中心に、大滝詠一、杉真理らとのコラボレーション・アルバム『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』(1982年3月発売)の「彼女はデリケート」、シングルのみで発表した「グッバイからはじめよう」など、全14曲を収録している。
アナログのA面は“Boy’s Life Side”、B面は“Girl’s Life Side”となっている。
CDではわかりにくいが、オリジナルの見開きジャケットにはイタリアンシャツ(想像!)にネクタイというスタイルで食卓に着く、バースデイ・ケーキの蝋燭の火を吹き消す、バスタブの中で、スイムキャップをかぶり、ゴーグルをつけ、シャワーヘッドを電話代わりにする……など、楽しげに、華やぎ、はしゃいだ佐野のポートレイトが飾られる。
パーティ気分を盛り上げるようなものとなっている。

しかし、佐野元春である。ただのパーティ・アルバムにはしていない。
フロント・カヴァーの佐野の頭上には大きな岩がいまにも落ちそうに配置され、アルバムのサブタイトルには「14のありふれたチャイム達」と警鐘めいた言葉が付記されている。
ある種、浮かれる時代の中、危険な予兆のようなものを嗅ぎ取り、それを黙示録的に予見していたのではないだろうか。

そんな深読みができるところも佐野元春の音楽の奥深さだが、勿論、ご機嫌なポップ・アルバムとしても存分に堪能できる。
前述通り、「アンジェリーナ」や「ガラスのジェネレーション」、「悲しきレディオ」、「サムデイ」、「彼女はデリケート」など、佐野元春クラシックスが並ぶ。
佐野は時代によってコンサート毎にアレンジを変えることもあるが、同作には、その原型のまま納まる。時を経ても瑞々しく、色褪せぬ、魅力が詰まっているのだ。

1992年12月には同作の続編として、『No Damage II(ノー・ダメージ II)』がリリースされている。
同作には「ヤングブラッズ」や「約束の橋」など、文字通りのスマッシュ・ヒットが収録されていることから「Greatest Hits 84-92」とサブタイトルがつけられた。

『No Damage』のリリースから30年を記念して、2013年12月には『NO DAMAGE:DELUXE EDITION』もリリースされている。
CD2枚+DVD1枚というボリュームで、Disc1は『No Damage』の最新リマスター音源、Disc2は『ロックンロール・ナイト・ツアー・スペシャル』の中野サンプラザ公演の未発表ライヴ音源、Disc3は『No Damage』リリース時に中野サンプラザ公演の模様を中心に編集したドキュメンタリー・フィルム『フィルム・ノーダメージ』(1983年7月にホール公開し、その後、幻のフィルムとなっていたが、フィルムが奇跡的に見つかり、2013年9月には全国劇場公開された)の完全デジタルリマスター映像がパッケージされている。
初期の佐野元春を知るには必見、必聴のアイテムだろう。
完全限定発売のため、既に売り切れ、市場に出回っていないが、オークションなどでは高値を呼んでいるようだ。

先日、2015年12月から2016年3月まで、全国11ヶ所12公演という35周年のアニバーサリー・ツアーで、(年齢)60歳、(デビュー)35周年、(演奏曲目)35曲、(演奏時間)3時間30分…という新たな伝説が生まれたが、最初の佐野元春伝説が形作られたのが『No Damage』の頃ではないだろうか――。

【執筆者】市川清師

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