「RCサクセション「COVERS」8月6日発売予定/「ラヴ・ミー・テンダー」6月25日発売予定 上記の作品は素晴らしすぎて発売できません。 東芝EMI株式会社」と新聞広告が打たれたのは1988年6月22日。
ロックの名曲に忌野清志郎が独自の日本語詩をつけたものを収録したアルバム『COVERS』は、反原発を歌ったことで親会社が原発を作っているレコード会社によって発売中止にされた。'86年のチェルノブイリ原発事故以後、日本でも原発への危機意識が高まっていたこともあり、この件はマスコミが大いに取り上げ話題になった。そして約2ヶ月後の8月15日、別のレコード会社(キティ・レコード)からリリースされ、RCサクセション唯一のヒットチャート1位を獲得したのだった。
この作品が再び注目を集めたのは2011年。東日本大震災で起きた福島第一原発事故だ。”放射能はいらねえ 牛乳を飲みてえ”と歌う「ラヴ・ミー・テンダー」、いつか来ると言われている東海地震と原発を歌い込んだ「サマータイム・ブルース」はラジオのリクエストが急増したと言われている。'09年に亡くなった清志郎が蘇ったかのように過去の彼の発言が引用されたり、反原発の象徴めいた存在にするような動きもあった。
もちろん彼は原発に反対していたし、だからこそこの作品を作り、世に出そうと戦ったのだから、それが今も聴き継がれていることを天国の彼は喜んでいることだろう。けれども反原発だけに終始しては十分とは言えまい。よきリスナーであり優れた音楽家である忌野清志郎が、彼の原点とも言えるロック観をストレートに表しRCサクセションとともに作った名作なのだ。だからこそ広く共感を呼び、何度でも話題になる。
ここでカヴァーしているのは、清志郎が10代の頃によく聴いていたと思われる曲だ。マニアックなものではなく、60~70年代にロックを聴き漁っていたら知らないはずはない曲から、反戦歌や反骨精神を歌うものを選んでいる。「ロックってそういうものだろう?」と彼が言っていたことを思い出す。甘い甘いラヴソングもあるけれど、メッセージもあるのがロック。そのスピリッツを受け継ぐのが『COVERS』だ。
1曲目の「明日なき世界」はベトナム戦争を批判するP.F.スローンの曲。’65年にバリー・マクガイアが歌ってヒットしたが、歌詞が過激すぎると物議を醸した。日本では高石ともやが69年にカヴァーしており、その歌詞を元に清志郎は歌っている。ジョニー・サンダーズがコーラスと朗読で参加している貴重なテイクだ。2曲目「風に吹かれて」は言うまでもなくボブ・ディランの代表的なプロテスト・ソング。最後に入っている「イマジン」は、ご存知の通り平和を願うジョン・レノンの曲だ。どちらも清志郎らしい言い回しの日本語詞になっている。
一方「ラヴ・ミー・テンダー」や「サマータイム・ブルース」は、原曲の歌詞から離れて日本語詞をつけている。痛烈な原発批判になっている2曲だが、だからといって原曲へのリスペクトがないわけではなく、思わず「替え歌」にしてしまうほど親しんだ曲だったのではなかろうか。そして、大好きなローリング・ストーンズやビートルズの曲を自分の書いた歌詞で歌ってみたいというミュージシャンなら当然思うことをそのまま実行した「黒くぬれ!」や「マネー」からは、生涯”ロック小僧”の清志郎と相棒の仲井戸”チャボ”麗市が飛び出してくる。10代の頃から二人はこんなことをしていたのではないかと想像し、そういう意味でも原点回帰的な作品かとも思う。いわゆる初期衝動を喚起して、少々停滞していたバンドの空気を活性化しようとしたのかもしれない。だが、この作品へのメンバーとの温度差がバンドの足並みを乱す一因にもなって、RCサクセションは活動休止へと向かっていく。
【執筆者】今井智子