1969年の2月10日、いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」がオリコンチャートの1位を獲得した。
まだ10代の頃だったと思うが、当時買った「60-70年代ヒット歌謡曲集」みたいな歌本に1曲づつの簡単な解説がついていて、この曲に関して“エポックメイキング”という形容がなされていたと記憶する。その英単語についてはもちろん「画期的」とされる一般的な訳語のニュアンスについても馴染みはなかったのだが、その後の何十年にもわたって様々なヒット曲を聴いたり、それらについて文章を書くようになるにつけ「エポックメイキング」の持つ“新時代を切り開く”的な意味あいに大いに頷かざるを得ないという認識を新たにするのである。
いうまでもなく「ブルー・ライト・ヨコハマ」は女優兼歌手のいしだあゆみが1968年末に発売したレコード会社移籍後の第3弾シングル。作曲家・筒美京平にとっても初のチャートNo.1にしてミリオンセラーを記録した大ヒット曲であり、同氏に最初のレコード大賞作曲賞をもたらしている。楽曲の特徴を端的に挙げれば和風な情緒を湛えた哀愁メロディをGS風のロックビートとゴージャスなオーケストレーションに載せた、いわゆる“歌謡ポップス”の礎を気づいた作品ということになるだろう。
とりわけこの曲を魅力的なものにしているのが、やはり作詞家・橋本淳との絶妙のコンビネーションであることは疑いの余地もない。レコーディングの前日に橋本から1コーラス分の歌詞を電話送稿で受け取った筒美が、一晩でメロディとアレンジを仕上げたというエピソードが残されている。まずAメロの街の灯り~の部分だが、いわゆる7-7-7-5の「七五調」の韻律の中に“ヨコハマ、ブルーライト、ヨコハマ”の4-6-4のリズムが唐突に挟み込まれていることが分かる。作詞/作曲のどちらの側からのアイデアかは不明だが、これがキャッチーでインパクトのあるフックになっていることは間違いない。Bメロ(サビ)の部分でも“アルイテモ、アルイテモ”の5-5の韻律と“ワタシハ、ユレテ”の4-3の部分に同じモチーフを充てるという従来のセオリーに縛られない手法が垣間見える。
また歌いだしの8分休符のあとに8分音符が7つ続くパターンは典型的な“京平節”の特徴として数々の楽曲に登場するのだが、不思議なのは“街の灯りが”の歌メロと間奏のAメロが微妙に違ったモチーフになっている点である。これにはレコーディングの現場で歌いやすいように変更した、あるいはいしだあゆみが歌ってしまったのをそのまま採用したなど諸説ある。しかしながらエンディグで演奏されるメロディは歌い出しと同一となっており、ひとつの謎がまた更なる謎を呼ぶというミステリーになっている。
【執筆者】榊ひろと(さかき・ひろと):音楽解説者。1980年代より「よい子の歌謡曲」「リメンバー」等に執筆。歌謡曲関連CDの解説・監修・選曲も手掛ける。著書に『筒美京平ヒットストーリー』(白夜書房)。