ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」（4月26日放送）に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。日米首脳会談を前に開かれた閣僚会談で焦点となった為替条項について解説した。

日米首脳会談を前に閣僚会談開催へ

麻生財務大臣は日本時間4月26日午前、ワシントンでアメリカのムニューシン財務長官と会談をした。現地26日に行われる日米首脳会談を前に、新たに貿易協定交渉などで意見を交わす見込みで、自国の輸出に有利な通貨安誘導を封じる為替条項の取り扱いが焦点になる。為替問題を協議して行くように、ムニューシン財務長官は麻生財務大臣に求めたと関係者が明らかにしたという情報も入って来ている。この辺りが焦点になって来るところだが、対日貿易赤字解消に向けて、アメリカはこの為替条項の導入を求める意向となっている。日本は慎重な構えを見せている。

アメリカが為替条項を入れる2つのポイント

宮家）2つポイントがあります。1つは、日本もそうだと言われるかもしれないけれども、世界で最も大きな為替操作国は中国ですからね。中国をアメリカは念頭に置いて、NAFTAを改正したときに為替条項を入れて、これから交渉するEUとの合意のなかにも絶対に入れるのですよ。その上で日米でも入れて、最終的に「中国さん、為替では勝手なことをしたらいけないよ」と圧力を掛ける。これが彼らの戦略だろうから、抵抗するのはかなり大変だろうけれど、日本も頑張って貰わなくてはいけない。原理原則がありますからね。
もう1つ面白いと思うのは、実はこうした報道を私はにやにやしながら聞いていたのです。悪い意味では無いですよ、誤解しないでくださいね。やはり世界中の通貨当局は、縄張り意識が強いのですよ。私も実は日米金融交渉を少し横で見ていたことがあるから、つくづく感じるのですけれど。要するに彼らは通貨マフィアですよね。

飯田）通貨マフィアと言いますね。

宮家）彼らは貿易みたいな汚らわしいものと一緒にして欲しくないのですよ。清く正しく美しい通貨の世界だから、そんなことを貿易交渉の一環としてやる、何々省が入って来て通貨のことをごたごた言うなど、冗談ではないと。これはどこの国の話だとは言わないけれども、アメリカに対しては専門の当局間だけでサシでやりましょうと。経産省、外務省などは入れないで、我々だけでやりましょうという基本的な傾向があるのです。しかし、それをやったらきちんと反論できるのかと言うと、やはりアメリカの財務省は強いから、結局はやられてしまうのですよね。だから日本政府全体が結束した方が良いような気もするけれど、そうはならない。縄張り意識が、いい意味でも悪い意味でも、今回見え隠れして面白いと見ていました。

飯田）例えば日本の話をすると、日本の外務省のなかにも経済局というものがありますよね。だから経済を専門にやる部署はあるのだけれど。

宮家）通貨は絶対にやらせないですよ。

飯田）通貨は絶対触らせない。

宮家）ええ。そして、この点はアメリカはあまりこだわらないのですけれど、日本はこだわる。あれれ、日本だと言ってしまった（笑）。いまだから言うけれど、私がWTOで金融交渉をやったときに最初は、アメリカの財務省の交渉官とサシでやっていたのですよ。色々面白い話が聞けました。そうしたら突然「宮家さん、やめてください」と言われました。その内に金融サービスについてはマルチではやらない、WTOではやらない、日米バイ、つまり大蔵省と米国財務省だけでやると言われたのです。このメンタリティはいまとまったく同じですね。しかも、それでも結局は米財務省に押し切られてしまったのですけれどね。そこは力関係がありますから。彼らは非常に面白い種族ですよ、我々外交官も変な種族だとは思うけれど、通貨マフィアもなかなか立派なものです。

縄張り意識だけで仕事ができる時代は終わった

飯田）かつてと違って、いまは官邸が主導で外交もハンドリングしていると言われていますが、やはり通貨は更に別の問題。

宮家）しかし今の官邸では全てを統括しています。日銀は独立していなくてはいけないから別ですよ。しかし、通貨マフィアの財務省の国際局というか、昔の国金局ですね。それはやはり官邸の指揮下にあるわけですから、いまは通貨マフィアだけが仕切るということは無いでしょう。昔のように役人主導でやっていた場合なら、役人側から相当抵抗があったと思いますけれど、いまそんな時代は終わってしまいましたね。

飯田）もう総合力でぶつかって行かないと、バラバラでは意味が無い。

宮家）そう。縄張り意識だけで仕事ができる時代はとっくに終わっているのですよね。今は政官一体の総力戦だから。

飯田浩司のOK! Cozy up！
FM93AM1242ニッポン放送　月-金　6:00-8:00