進化を求めて

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フリーアナウンサーの節丸裕一が、スポーツ現場で取材したコラムを紹介。今回は、オリックスの吉田正尚を分析する。

進化を求めて

オリックス―日本ハム4  1回、先制2ランを放ち、一走西浦(左)とタッチするオリックス・吉田正=京セラドーム 提供共同通信

 

昨季はオリックスの主砲として活躍、今年3月の侍ジャパン強化試合では日本代表の4番も打った吉田正尚が、今シーズン開幕から絶不調に陥った。打てども打てども結果が出ない。いい当たりは一、二塁間を詰めた相手の守備シフトに阻まれた。最初の5試合で1安打。打率.050で本塁打、打点ともに0。10試合でも.154と低迷は続いた。「野球は難しいな」と感じることもあったと言う。 「下を向かないように」と自分に言い聞かせながら、トンネルからの出口を探した。

吉田は青山学院大時代、侍ジャパン大学代表の4番を務めていた。身長は高くなくても鍛え抜かれた肉体を活かした大きなスイングから生まれる長打力。そのずば抜けた飛距離が魅力のアーチストだ。入団2年目の17年3月、WBCを前にした侍ジャパン対オリックスの強化試合の試合前の打撃練習では、吉田正尚が京セラドームのスタンド上段に次々と打ち込むのを見た侍ジャパンの4番筒香が舌を巻いた。「えぐいですね」と笑いながら打球の行方を見つめていた。

最初の2年はケガで長期離脱を余儀なくされた吉田だが、それでも出場すれば結果を出せることは証明してきた。そして、3年目の昨季、ついに全試合に出場。打率はリーグ4位、本塁打も自己最多の26本。出塁率も兼ね備えた強打者としての総合的な成績を表すOPSは.956。柳田、山川に次いでリーグ3位。誰もが認める成績を残し、さらなる飛躍を目指して今年プロ4年目のシーズンを迎えた。

吉田はさらなる進化を求めて、全方向にホームランが打てるように、打球に角度をつけるべくバットの軌道を微修正した。より高い確率で打球を上げる、フライを打つという感覚だ。

オープン戦ではまずまず、初めて呼ばれた侍ジャパントップチームの強化試合メキシコ戦では、2試合で5打数4安打6打点と打ちまくった。とりわけ、4番に起用された第2戦第1打席の満塁ホームランは圧巻だった。注目度も上がり、順調そのもののように思えたが、本人の中では実はしっくりこない部分があった。

「ヒットになってもゴロが多かった。思うような打球の角度と違う。不振の予兆はあったんですよね。体の感覚的にも、技術的にも、良くなかった」

打てない。チームも勝てない。苦しい日々が続いたが、映像を何ども見直し、練習で行うロングティーでスイングの問題点に気がついた。

「打ち上げようというスイングの結果、煽るように、小手先で打っている感じになって、逆にいい角度がつけられていないし、ボールにしっかり力が伝えきれていなかった」

スイングの軌道で打ち上げようとするより、ボールの下にバットを入れて打球に角度をつけるように修正すると、質のいいフライ、ライナー性の打球が増えた。感覚は変化し、結果も伴い始めた。

開幕から11試合目。ZOZOマリンスタジアムでついに今季1号が出た。

「結果が出たという気持ちの面も大きかったですし、高めの真っ直ぐを引っ張れたホームラン。内容的にも良かったですね」

と振り返る。

14日の西武戦からは3試合で4発と完全復調。開幕からの絶不調は嘘のように打撃成績は回復した。ロメロが離脱、マレーロ、メネセスも期待どおりに機能しないが、吉田が打てばチームの得点力は断然高まる。まさにチームの勝ち負けを大きく背負う存在だ。

「勝つためには、やっぱりいいところで打って貢献していきたいですね」

と話す吉田。

「ケガなく、1年を通して結果が残せるように、去年よりもっと良い数字が残せるように。そうすればチームにも貢献できると思います」

気持ちにムラがなく、どっしり構えることができる人間性は、並外れたパワーと技術を支える吉田の持ち味だ。苦しんだ分、引き出しも増え、精神的にもより強くなった。メジャーリーグのスーパースター、ブライス・ハーパーに憧れる吉田正尚が、日本を代表する強打者へと進化していく。

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