DeNA・筒香、“小さい頃からの夢”メジャーに向かって 

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フリーアナウンサーの節丸裕一が、スポーツ現場で取材したコラムを紹介。今回は、今オフにポスティングシステムを利用してメジャー移籍を目指すDeNA・筒香嘉智を取り上げる。

DeNA・筒香、“小さい頃からの夢”メジャーに向かって 

【プロ野球CS1DeNA対阪神】阪神に敗れ、汗を拭うDeNA・筒香嘉智=2019年10月7日 横浜スタジアム 写真提供:産経新聞社

筒香嘉智がベイスターズを去る。もちろん、まだ決まったわけではないが、ポスティングシステムの利用を球団が容認するということは、メジャーリーグへの移籍を実現するための第1歩だ。

クライマックスシリーズ・ファーストステージ第3戦。阪神に敗れ、DeNAが今季の全日程を終了した直後、三原球団代表が「彼の小さい頃からの夢であるメジャーリーグに挑戦したいという気持ちをかなえてあげたい」と明言した。

筒香を長く取材して来て、今年(2019年)の言動を見て、最近の言葉を聞いて、彼の表情を見て、多分そうなるだろうとは感じていた。主将として「優勝しかない」と言い続けてチームを牽引して来ただけに、優勝を逃した悔しさは人一倍だったはずだ。だが、2位で初めてCSを本拠地で戦うことについてたずねると、「ここで、ファンの大声援を受けて、特別な雰囲気のなかでプレーできる。素晴らしいことなので、その一瞬一瞬をしっかり感じながらプレーしたい」と口にしていた。

第1戦では先制3ランと適時打で4打点。第2戦でも3回にソロホームランを放った。そして、第3戦で1点を追う9回。先頭打者として打席に入った筒香は、フルカウントからの内角の速球をフルスイングした。バットは空を斬ったが、当たれば場外まで飛ぶんじゃないかと思うほどのスイングで、彼の思いが込められているスイングに見えた。これが彼の日本での最後のスイングだった。

筒香と初めて話したのは何年前だっただろうか。メジャーリーグが好きで、よく観ているという。長くメジャーリーグの中継に携わって来た僕とは、取材というより、メジャーリーグの話で盛り上がった。ただ、彼はメジャーに憧れるだけでなく、15年のオフにはドミニカ共和国に渡って、海外の野球を感じて来た。松井秀喜氏にアドバイスをもらい、自身が目指す技術面での取り組みが間違っていないことを確認したこともあった。並々ならぬ強い向上心を持って、夢に向かって進んで行った。

その後、プレミア12で侍ジャパンの中心選手になり、一昨年(2017年)はWBCで4番打者として活躍した。本人に強いメジャー志向があるだけに周囲もナーバスになって来る。僕もそうした話題は避けるようになったが、それでも彼の気持ちを想像することは難しくなかった。

ドラフト1位で入団し、大砲として期待されながらも伸び悩んだ最初の4年。結果がでるようになった矢先、ナゴヤドームでの守備で病院に搬送される怪我もあった5年目。その後も、ときに怪我を隠し、痛みを抱えながらも強打でチームを引っ張ったここ数年。筒香はベイスターズでの10年を「感謝しかない」と振り返る。今年、筒香は集大成としての優勝と日本一にこだわっていたことは間違いない。が、同時に、チームと横浜とファンが大好きだからこそ、ここでの最後になるかもしれない一瞬一瞬を強く感じたかったのではないだろうか。

「一生残る、一瞬のために」このスローガンは、シーズン終盤に、選手会長の石田健大と主将の筒香が中心となって選手みんなで考えた言葉だ。最後の敗戦後、雨が降る横浜スタジアムで悔しそうな表情を浮かべつつ、前を見つめ、周囲を見渡す筒香は、この一瞬を胸に刻もうとしているように見えた。

「まだ決まったわけではないし、ゆっくり考えたい。まずは今シーズンのことをしっかり整理します」と言う筒香。

今後は、ポスティングシステムの申請のタイミングなど、ベイスターズ球団の後押しを受けながら、長年の夢の実現へと進んで行くことになる。ハマの4番、侍ジャパンの4番だった筒香嘉智。来年(2020年)はどの街の空に向かってホームランをかっ飛ばすのだろうか。

節丸裕一(せつまる・ゆういち)

プロ野球実況19年目、MLB実況18年目のフリーアナウンサー。キャンプから、オールスター、日本シリーズ、Wシリーズ、日米野球、WBC、プレミア12など、野球の主要な国際大会の実況、取材多数。

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