話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、1月12日に自主トレを公開したソフトバンク・柳田悠岐選手と“弟子入り志願”をした他球団の若手選手にまつわるエピソードを紹介する。
『柳田キャプテン有難う!! 見てもわかるようにかなり絞れてるの皆さんわかりますか!? うちの清宮くん!! 柳田君より成績が良くなったりして!!』
~新庄剛志監督のインスタグラム(2022年1月11日更新) より
「ビッグボス」こと日本ハム・新庄剛志監督が、自身のインスタグラムで大いに感謝の意を表しているのが、今季(2022年)からソフトバンクの新主将を務める柳田悠岐です。
「うちの清宮くん」とは、今季プロ5年目を迎える日本ハム・清宮幸太郎のこと。同学年のヤクルト・村上宗隆がチームを日本一に導き、セ・リーグMVPを獲得したのと対照的に、清宮は昨季(2021年)プロ入り後初めて1軍出場がゼロに終わりました。
新庄監督は就任直後の昨年11月、沖縄で行われた秋季キャンプを視察。清宮と直接話し、お腹をつまんで「ちょっとデブじゃね?」と減量を勧めました。「飛距離が出なくなるのが怖い」と不安を口にした清宮に、新庄監督は「痩せたほうが動きにキレが出るし、そのほうがモテるよ」とアドバイス。清宮はさっそく減量に取り組み、昨年末の時点ですでに約6キロの減量に成功していました。
今回、自主トレでさらに3~4キロ体を絞り、100キロを超えていた体重は、本人の申告によるといまや94キロ前後に。新庄監督がインスタに掲載した現在の清宮の写真を見ると、秋季キャンプ時のぽっちゃりした姿より、格段にスリムになっています。
その清宮の“弟子入り志願”を受け入れ、佐賀・嬉野市内で自主トレをともにするのが柳田です。柳田は昨年も、ロッテの若き主砲・安田尚憲、西武・戸川大輔の自主トレ参加を認めました。今年はそこに清宮が加わり、ソフトバンクの後輩2人(谷川原健太・真砂勇介)を含め総勢6人に。この人数でパ4球団の選手が練習をともにしているのは、ちょっと異例かも知れません。
それだけではありません。12日、自主トレの模様を公開した柳田は、報道陣を前にこんなプランを口にしました。今季5年目の安田と清宮に対し、シーズン中の活躍に応じて“ギータ賞”を用意すると宣言したのです。
『3割1分か、30本のどっちかで。(ご褒美の内容は)いろいろ考えながらという感じになりますけど、そこがラインかなと思います』
~『サンケイスポーツ』2022年1月12日配信記事 より
同じパ・リーグの彼らが活躍することは、ソフトバンクにとって「不利」になります。ましてや柳田はチームの主将という立場。「何で他球団の選手にそこまでしてあげるの?」という疑問も湧いて来ます。
思うにこれは「パ・リーグをもっと盛り上げよう」という発想でしょう。昨季、2年連続最下位のオリックスが25年ぶりに優勝したように、1チームの独走を許さないよう他球団もレベルアップを図ることが、リーグ全体、ひいては球界全体の活性化につながる、という考え方です。
「でも実際に安田・清宮が覚醒したら、『何で敵を手助けするんだ?』ってことにならないか?」という疑問に対し、柳田はこう答えています。
『打たれても自分が打てばいいと思っている。自分が打つために(刺激に変える)。大丈夫です』
~『東スポWeb』2022年1月13日配信記事 より
安田・清宮が仮に3割1分、30本打っても、自分が3割3分、40発打てばいい。チームに迷惑は掛けないし、彼らが打つことが自分への刺激にもなる……短い一言のなかに、柳田の考えが集約されています。こういう言葉をサラッと口にできるところに、主砲としての自覚と人間的成長を感じます。
ちなみに福岡移転後、ホークスの主将を務めるのは柳田が4人目。初代キャプテンは秋山幸二元監督でした。2代目が小久保裕紀2軍監督で、3代目が内川聖一(現ヤクルト)です。2019年以降、その座は3年間空席になっていました。
藤本博史新監督は入団以来、柳田にバッティングを指導して来た恩師でもあります。柳田をチームリーダーに指名したのは、野球人としてもっと大きく成長して欲しいという意図もあるはず。“ギータ塾”の成果が楽しみでなりません。