【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第1045回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画・ドラマを発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
3月11日に東京・グランドプリンスホテル新高輪国際館パミールで授賞式が行われた「第45回日本アカデミー賞」。
有村架純が『花束みたいな恋をした』で、最優秀主演女優賞を獲得しました。『映画 ビリギャル』での優秀主演女優賞と新人俳優賞の受賞を経て、今回は自身初の最優秀賞受賞となりました。
そこで今回は、最優秀主演女優賞を受賞した有村架純をクローズアップ。受賞作『花束みたいな恋をした』とともに、彼女の魅力に迫ります。
ナチュラルで清楚 ~『花束みたいな恋をした』で当たり役に巡り会う
「最高の離婚」「カルテット」など、数々のヒットドラマを手がけて来た坂元裕二によるオリジナル脚本を映画化した『花束みたいな恋をした』。偶然の出会いから始まった男女の5年間にわたる恋の行方を描いたラブストーリーです。
本作は菅田将暉と有村架純が演じた等身大の恋人たちに共感の声が集まり、コロナ禍の影響をものともせず大ヒットを記録。
映画を観た男子高校生がトイレットペーパーを抱えて走り回る動画がTikTokにアップされたり、カフェでは女子高校生がイヤホンを片耳ずつかけながら音楽を聞いていたりと、劇中のシーンを“再現”する人の姿を目撃することも多々あり。近年の恋愛系日本映画を代表する1作となりました。
本作で、どこにでもいそうなごく普通の女の子・八谷絹を演じたのが有村架純。恋が芽生えたときのときめきや、付き合いが長くなるにつれてお互いの気持ちがすれ違って行く切なさをリアルに体現し、その“生っぽい”演技には驚かされた人も多いことでしょう。
有村架純の魅力と言えば、何と言ってもその“実在感”。ファミレスのドリンクバーでコーヒーを淹れていたり、ラーメン屋さんで美味しそうにラーメンをすすっていたり、彼女が扮するキャラクターには、まるでどこかの街角に存在していそうな親近感を覚えます。
しかし演技者にとっては、生活と地続きにある役柄を演じることほど難しいことはなく、こうした役柄で観客を魅了できるのは有村架純の底力とも言えるのではないでしょうか。
『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら』では、ベテランのおじ様俳優たちをメロメロにしてしまう本人役。『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』では、原作ファンからも人気の高い剣心のかつての妻・雪代巴役に抜擢された有村架純。
癒し系キャラから儚げな美女まで清純派女優の印象が強い彼女ですが、そのキャリアのなかで一際異彩を放っているのが『ナラタージュ』です。
『世界の中心で、愛をさけぶ』などで知られる恋愛映画の名手・行定勲監督がメガホンを取った大人のための恋愛映画。この映画で有村架純が演じたのは、高校時代の担任教師に思いを寄せる女性・泉。
一生に一度、すべてを捧げてもいいと思える恋に出会ってしまった女性が、少女から大人へと変貌する瞬間を繊細に演じきり、この映画いちばんの見どころとも言える熱演をみせました。
プレゼンターの長澤まさみから最優秀主演女優賞を告げられた瞬間、これまでの出演作が彼女の脳裏を駆け巡ったのでしょうか。時折、声を震わせながら「いつも思い浮かぶのは、これまで仕事をして来てくれた方の顔。その方たちがいたから、好きな芝居を続けることができたのかなと思います」と、感謝を述べる姿が印象的でした。
そして「一緒に戦ってくれる仲間を大切に、これからも精進したい」という言葉とともに見せた笑顔は、演じることと真摯に向き合い、多くの作品にその存在を刻んで来た彼女らしい、爽やかで清々しいものでした。
出会う作品ごとに、着実に進化して行く有村架純。これからの活躍がますます楽しみです。
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『花束みたいな恋をした』(2021年公開)
Blu-ray & DVDリリース デジタル配信中
脚本:坂元裕二(「カルテット」「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」「東京ラブストーリー」)
監督:土井裕泰(「カルテット」「いま、会いにゆきます」「罪の声」)
出演:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、韓英恵、中崎敏、小久保寿人、瀧内公美、森優作、古川琴音、篠原悠伸、八木アリサ、押井守、PORIN(Awesome City Club)、佐藤寛太、岡部たかし、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了、小林薫
配給:東京テアトル、リトルモア
(C)2021「花束みたいな恋をした」製作委員会
公式サイト https://hana-koi.jp/
『ナラタージュ』(2017年公開)
Blu-ray & DVDリリース デジタル配信中
出演:松本潤、有村架純、坂口健太郎、大西礼芳、古舘佑太郎、神岡実希、駒木根隆介、金子大地、市川実日子、瀬戸康史 ほか
監督:行定勲
原作:島本理生(「ナラタージュ」角川文庫刊)
配給:東宝 アスミック・エース
(C)2017「ナラタージュ」製作委員会
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/