東日本大震災から11年 映画を通じて3.11を振り返る

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【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第1041回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画・ドラマを発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

2022年3月11日、きょうで東日本大震災の発生から丸11年を迎えました。私は震災以前から仕事やプライベートでご縁をいただき、東北を訪れる機会が多くあります。

訪れる度にインフラ整備や産業再生などの復興事業が進み、街が活気付いて行くことを喜ばしく思う一方で、2022年の段階で行方不明者がいまだに2523人いらっしゃるという現実には胸が痛みます。

そして、この未曾有の出来事を「忘れない」そして「伝え続ける」ことの大切さを痛感し、また映画は人の心に寄り添いながら“あのとき”を振り返ることができるエンターテインメントのひとつだと思っています。

そこで今回は、東日本大震災を題材にした映画4作品をご紹介。映画を通じて、3.11を振り返ります。

※写真は『護られなかった者たちへ』より

画像を見る(全6枚) ※写真は『護られなかった者たちへ』より

『護られなかった者たちへ』 ~呵責に苛まれながらも、前を向いて生きて行く

宮城県で発生した連続殺人事件の容疑者となった青年と、彼を追う刑事。事件の真相を追ううちに、日本社会が抱える格差の実態が浮き彫りとなって行く『護られなかった者たちへ』。

第45回日本アカデミー賞12部門で優秀賞受賞をはじめ、数々の映画賞に輝くヒューマン・ミステリーです。

メガホンを取った瀬々敬久監督は、中山七里氏の原作を大胆にアレンジ。いまなお残る震災の傷跡や社会保障制度をめぐる矛盾をさらに色濃く描き出すことで、ミステリーのなかに社会的なメッセージを強く印象付ける骨太な作品として完成させました。

“護られなかった者”がいる一方で、“残された者”たちもいる。生きていることへの呵責に苛まれながら、それでも前を向いて生きて行く人々の姿に魂が呼応する意欲作です。

※写真は『弥生、三月 君を愛した30年』より

※写真は『弥生、三月 君を愛した30年』より

『弥生、三月 君を愛した30年』 ~物語が、人々の記憶と想いをつなげて行く

「家政婦のミタ」や現在放送中の「となりのチカラ」など、数多くの人気ドラマを手がける脚本家・遊川和彦が脚本・監督を務めた『弥生、三月 君を愛した30年』。

王道を行くラブストーリーでありながら、波瑠と成田凌が演じた男女の出会いからの30年間を、3月に起きた出来事だけで紡いで行く……という斬新なストーリー展開も、公開当時は話題となりました。

本作の舞台となったのは、宮城県。仙台市内をはじめ、東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻市や登米市、栗原市でロケが行われました。地元の方々の協力を得て製作された本作では、震災の混乱から復興へと歩んで行こうとする人々の姿が丹念に描かれており、観る人はきっと、東北の地とそこに暮らす人々に思いを馳せることでしょう。

3月が訪れるたびに、誰もが思い出さずにはいられない東日本大震災。この未曾有の災害を風化させないためにも、記憶と想いをつなげて行きたい。つくり手の切なる願いが伝わって来る感動作です。

※写真は『風の電話』より

※写真は『風の電話』より

『風の電話』 ~たとえ聞こえなくても、亡き人に届けたいものがある……

フランスをはじめヨーロッパで圧倒的な支持を得ている諏訪敦彦監督が、18年ぶりに日本で撮り上げた長編映画『風の電話』。岩手県大槌町に実在する電話ボックス<風の電話>をモチーフに、東日本大震災で家族を失った少女の再生の旅を描いた人間ドラマです。

セリフのない構成台本なるものを使用した即興演出を重んじていることで知られている、諏訪敦彦監督。本作もその手法で撮影され、モトーラ世理奈演じる主人公が<風の電話>で話すラストシーンも台本はなし。いまは亡き家族へと話しかける様子が美しく、そしてマジカルに切り取られ、日本映画史上屈指の名シーンとなっています。

きっと誰にでも、「会えなくなっても声を聞きたい」「話がしたい」と思い浮かべる相手がいるはず。そんな心の深淵に、そっと寄り添ってくれる感動作です。

※写真は『行き止まりのむこう側』より

※写真は『行き止まりのむこう側』より

『行き止まりのむこう側』

2011年の東日本大震災から10年の節目に、駐日イスラエル大使館が発足した震災の犠牲者を追悼するプロジェクト「東北イニシアティブ」。

東日本大震災発生時、駐日イスラエル大使館がいち早く南三陸を支援したという経緯から、大使館の全面的なサポートのもと製作された短編ドキュメンタリー映画『行き止まりのむこう側』が、2022年3月11日から映画の公式サイトにて無料公開されています。

本作は東日本大震災による大津波で最愛の妻を失い、現在も彼女を探し続けている、宮城県女川町に住む高松康雄さんを追ったドキュメンタリー。当時のことを振り返る高松さんの言葉は、聞けば聞くほど切なさに満ちていて、観る者の心に響きます。

そして妻を奪ったその海に潜り、真っ向から喪失と向き合い、思いがけない癒しを見つけて行く姿に胸を打たれる人も多いことでしょう。

先が見えない脆さのなかで生きる現代。人間の精神的回復力について触れた、スピリチュアルなドキュメンタリー映画です。

ニッポン放送「Tokyo cinema cloud X」

ニッポン放送「Tokyo cinema cloud X」

上記の写真は、JR石巻駅。ここは“ヒーローが守る駅”として、震災以前から人気を博しています。

石巻市は漫画家・石ノ森章太郎先生ゆかりの地として、その漫画やアニメのキャラクターのモニュメントが、街の中心部に点在。石巻駅の改札横では写真のように、仮面ライダーと「サイボーグ009」のキャラクターたちが、地域の人々や観光客をお出迎えしているんですよ。

私も石巻駅に降り立ち、彼らの姿を見るたびに、不思議と東北の地に親しみを覚え、再び訪れることができた喜びを感じます。

ヒーローたちはきょうも、私たちを静かに見守っています。すべての人が心穏やかに、少しでも前に進んで行くことができるのを願ってやみません。

※写真は『護られなかった者たちへ』より

画像を見る(全6枚) ※写真は『護られなかった者たちへ』より

■護られなかった者たちへ(2021年公開)

2022年4月22日(金)Blu-ray & DVD RELEASE
出演:佐藤健、阿部寛、清原果耶、林遣都、永山瑛太、緒形直人、吉岡秀隆、倍賞美津子
主題歌:桑田佳祐「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」(タイシタレーベル/ビクターエンタテインメント)
原作:中山七里「護られなかった者たちへ」(NHK出版)
監督:瀬々敬久
脚本:林民夫、瀬々敬久
音楽:村松崇継
配給:松竹
(C)2021映画『護られなかった者たちへ』製作委員会
公式サイト https://movies.shochiku.co.jp/mamorare/

※写真は『弥生、三月 君を愛した30年』より

※写真は『弥生、三月 君を愛した30年』より

■弥生、三月 君を愛した30年(2020年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
脚本・監督:遊川和彦
音楽:平井真美子
出演:波瑠、成田凌、杉咲花、岡田健史、小澤征悦、岡本玲、夙川アトム、矢島健一、奥貫薫、橋爪淳、黒木瞳
配給:東宝
(C)2020「弥生、三月」製作委員会

※写真は『風の電話』より

※写真は『風の電話』より

■風の電話(2020年公開)

Blu-ray&DVDリリース デジタル配信中
発売元:ブロードメディア
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
出演:モトーラ世理奈、西島秀俊、西田敏行(特別出演)、三浦友和、渡辺真起子、山本未來、占部房子、池津祥子、石橋けい、篠原篤、別府康子
監督:諏訪敦彦
脚本:狗飼恭子、諏訪敦彦
音楽:世武裕子
配給協力:イオンエンターテイメント
制作・配給:ブロードメディア・スタジオ
(C)2020 映画「風の電話」製作委員会
公式サイト http://www.kazenodenwa.com/

※写真は『行き止まりのむこう側』より

※写真は『行き止まりのむこう側』より

■行き止まりのむこう側(2021年製作)

2022年3月11日(金)から公式サイトで無料公開
出演:高松康雄、千葉修司、小野寺翔、佐藤裕、小林岬太郎
監督:津村将子、白井エリック
音楽:シャイ・マエストロ
プロデューサー:アリエ・ロゼン、津村 将子
英題:nowhere to go but everywhere
(c) Imakoko Media, Inc.
公式サイト https://www.nowheretogobuteverywhere.com

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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