将来につながる実験、宇宙食、そして今後――古川聡宇宙飛行士単独インタビュー

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「報道部畑中デスクの独り言」(第373回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は「宇宙食」について---

ニッポン放送のインタビューに応じる古川さん

ニッポン放送のインタビューに応じる古川さん

昨年(2023年)8月から半年あまり、国際宇宙ステーションに長期滞在したJAXA宇宙飛行士の古川聡さん、今年(2024年)3月に無事地球に帰還、ひと月半のリハビリを経て、日本に一時帰国しました。

「近い将来の国際宇宙探査につながっていることを強く感じた。引き続き、宇宙探査に向けて技術実証を進めるべく、その後に続く宇宙飛行士にしっかりバトンをつないでいきたい」

古川さんは帰国後の記者会見で、今回の宇宙滞在をこのように振り返りました。

帰国中は記者会見のほか、岸田文雄首相ら政府要人への表敬、一般の方への帰国報告会などに臨みました。友人や家族とも話をされたそうです。古川さん、実はお孫さんもいらっしゃるそうです。そうした多忙なスケジュールの合間を縫って、古川さんに話を聴くことができました。今回はそのもようをお伝えします。

宇宙ドローン(同等機)

宇宙ドローン(同等機)

■「宇宙ドローン」の使い心地は?

古川さんの今回の滞在期間は199日、半年あまり。今回も様々な実験に取り組みました。中でも目をひいたのは「Int-Ball2(イントボール ツー)」と呼ばれるサッカーボールぐらいの大きさの「宇宙ドローン」、インタビューの場にもありました。実用に向けた最終段階ということですが、これによって宇宙飛行士のかなりの負担軽減になっていたようです。

(畑中)目の前にInt-Ballがあるが、いかがだった?

(古川)安定して飛んでいてとても頼もしく思えた。ナビゲーションカメラを使って自分の周りの風景を見て、自らどの位置にいるのかを推定し、ドッキングステーションまで自分で戻ってドッキングするということも実証できた。地上からの交信ができない区間もピタッと止まって安定していた

(畑中)ある意味、宇宙飛行士の負担を減らすためのツールでもある…

(古川)それを目指している。現状はわれわれが作業をしたりする時の肩越しのビデオカメラとか、手元をアップにしたりする時も、われわれ自身が作業しているが、それを小型ドローンが飛んで、代わりに撮影をしてくれる。作業負荷を減らしてほかの仕事に宇宙飛行士が集中できるようにすることを目指している

(畑中)地上では働き方改革が言われているが、Int-Ballは寄与したと?

(古川)寄与しつつある。これから本格的に…実際に機能確認をしたところだが、今後きっと寄与してくれると思う。宇宙ステーションの場合は原則、朝7時半ごろから仕事を始め、夜7時過ぎまで(が就業時間)だが、原則残業はしない。どうしても必要な時、安全にかかわる場合とか、どうしてもサイエンスのために必要な時は残業するが、それ以外はしないという原則がしっかりある。そういった意味では働き方改革はしっかり進んでいる

地上ではなかなか進まないと言われる働き方改革ですが、ぜひ、宇宙の世界では最先端であってほしいと思います。

静電浮遊炉の試料カートリッジ内の試料ホルダ交換作業を行う古川さん(JAXA・NASA提供)

静電浮遊炉の試料カートリッジ内の試料ホルダ交換作業を行う古川さん(JAXA・NASA提供)

■最も古川さんらしい実験、それは意外にも……

・細胞がどのように重力を感じるのか、その仕組みを解明する実験(寝たきりの人の筋萎縮の予防につながると期待される)
・iPS細胞から肝芽(かんが)=肝臓のもとを培養する実験
・静電浮遊炉=無重力の炉の中でレーザーの光で試料を1500度もの高温にして溶かし、物性を調べる実験(新材料の開発に役立つとされる)
・今後の月面探査につながる水再生システムの技術実証
・船外プラットフォームで全固体電池の充電・放電実験…
古川さんが滞在中に行った実験は実に様々です。そんな中で古川さんにこんな質問をしてみました。

(畑中)様々な実験をされたが、古川さんのキャラクターを生かしたというか、古川さんらしいと思えるようなミッションを挙げるとしたら?

(古川)私らしくというのは難しいが、静電浮遊炉、1500度とか2000度に熱するので、観察するところの窓が炭のようなもので汚れたりする。試料交換する時になるべくきれいに掃除をする。そこは人の手作業になる。センサーに触らないように丁寧に丁寧に作業をする。そこで粘り強く作業できたのはお役に立てたのではないかと思っている。結構大変だ

(畑中)煤のようなものか?

(古川)はい、テープをベトベトの粘着性のある方を外側になるように細い道具の先につけて、そーっと傷つけないようにちょっとずつとっていく。結構粘り強く作業をしなければいけない

(畑中)それは医者の手術みたいなものか?

(古川)はい(笑)粘り強くという点では似ていると思う

医師出身の古川さんですので、医学関係の実験と思いきや、意外な回答でしたが、そのココロはどんなに自動化、省力化が進んでも、このようなメンテナンス、オペレーター的な作業に人の力は欠かせないということでしょうか?そういえば、手術のことも「オペ」といいます。

帰国報告会で宇宙食を紹介する古川さん

帰国報告会で宇宙食を紹介する古川さん

■宇宙食はどんどん進化する、●●●に〇〇〇も…

「ウナギです!」

帰国報告会で子どもたちから「いままで食べてきた宇宙食で一番おいしかったのは?」と問われ、古川さんはきっぱり。今回のミッションで初めて宇宙でウナギを食べることができたそうです。「とてもおいしくて感動した。宇宙日本食はしばしば仲間の宇宙飛行士と分けて食べるが、とてもおいしかったので自分一人で食べてしまった」とも話し、会場の爆笑を誘っていました。この話は記者会見でも話していました。

ウナギのかば焼きが宇宙で食べられる時代になったというのはなかなか感慨深いものがあります。何せ地球でもなかなか高価な食材になったウナギです。宇宙での味ははさぞ格別でしょう。ただ、宇宙飛行士の中には「生と死と隣り合わせ」という人もいます。それほどの緊張感を強いられる宇宙飛行士の食生活の充実は重要なことと思います。
一方で、宇宙ではこんなものも食べられると小耳にはさみ、その感想を聞いてみました。

(畑中)宇宙ではアイスクリームも食べられると?

(古川)アイスクリームは基本的にはないが、貨物船が来る時にごくごく少量だけ打ち上げてもらえることがまれにある。いつもではない。宇宙滞在してから5カ月ぐらい経った時に、ごく少量を食べた。忘れていたアイスクリームの味を思い出した。あ、こんな味だったなあと

(畑中)普通の味?

(古川)普通の味だが、しばらく食べていないと、何かアイスクリームってすごくおいしかったもののように感じて、期待値がすごく上がっていた。おいしかったが、アイスってもうちょっとおいしかったかなとか、変なことを感じた(笑)

(畑中)宇宙で食べる味は格別だろうと思いつつ、でも逆に言えば、いかに宇宙の環境が地上と同じ環境に近づいていることでもあると?

(古川)おっしゃる通りだと思う。今後、職業宇宙飛行士ではなく、旅行で宇宙に行かれる方が増えていく中、そういった方々に宇宙でアイスクリームを食べていただくのはきっと大切なことだと思う

最後に、やはり気になるのは2回の貴重な宇宙滞在の経験を終えた古川さんの今後です。

(畑中)今後だが、リハビリ中に、全然そうは見えないのだが、還暦を迎えたと?

(古川)自分でも実感はないが、ありがとうございます。イメージしていたのと違うが、気持ちとしては30代でいたい

(畑中)どんなイメージを持っていたのか?

(古川)本当に学生のころは50代60代の方は教授で、すごく上の方という感じだった。自分がその年齢になっているというのは信じられない

(畑中)還暦を迎えるとなると、いやが上にも違うステージにいつかはなる…

(古川)まずは、今後続くJAXA宇宙飛行士、日本人宇宙飛行士にしっかりバトンをつないで貴重な経験を伝え、彼ら彼女らの飛行がスムーズにいくように支援したい。その先はまだ決まっていない

(畑中)悪乗りついでに聞くが、若田(光一)さんが民間企業に移られた。「私もそこに続きたい!」なんて思いは?

(古川)いやいや(笑)特にそういうのは考えていない、もしそういう機会があれはそれはそれでありがたいと思うが、具体的な話はないし、現状決まっていない

(畑中)若田さんは航空エンジニアの出身、古川さんは医師出身。どういう道に進むにせよ、古川さんの医師のキャラクターをいずれは活かした方向にという想いは?

(古川)まさに医師を背景にして貴重な経験をさせていただいた。何らかの形でそれが生かせるような道だとありがたいと思っている

(畑中)スキルを磨いていくという感じになる?

(古川)そういう意味では専門性の部分なのでスキルを磨いていくことになると思う

(畑中)まずはバトンを渡してということになるが、今後、宇宙にどう関わっていくのか?

(古川)まず近いところではバトンを渡すことに加えて、今後宇宙で何らかの装置を働かせたり、実験をする場合、微小重力環境特有の注意点があるので、経験をもとにお伝えしたいと思う。研究者が私の経験を基にイマジネーションを膨らませて、新たな研究のアイデアを思いつかれたりということがあり得ると思う。そういう意味で貴重な経験をお伝えしていきたい

(畑中)宇宙開発は民間企業もどんどん参入してきている。役割は民間が宇宙低軌道、これからは月というものも視野に入ってくる。月面探査に向けて関わっていきたいという想いは?いろんな関わり方があると思うが…

(古川)基本的なニュアンスとして、もし「月に行きたいか?」と聞かれたら、答えは「行きたい」。私は医師なので、帰ってくるのに最低3日間はかかる少し離れた月というところで、健康な方が体調が悪くなった時に、現場で所見をとって診察をしたり、その上で地球上にいる宇宙航空専門医と相談をしながら処置をしながら処置をするのが強み。だが、強みは日本人でいうと金井(宣茂)さんや米田(あゆ)さんも同じ。同じ強みがあって同等であるならば、私がマネージャなら若い方を選ぶと思う。という意味で私としては仲間を支援していきたい。月面でも使う装置とか、貴重な経験をしているので支援できると思う。いろんな形で支援していきたいと思う。

かなり不躾なやり取りをしましたが、還暦を迎えた古川さん、今後おとずれるであろう新たな挑戦は、同じ世代の方々にも大きな力になることと思います。月への意欲を決してなくしてはいない古川さん、国や民間の宇宙開発はどこまで進歩を見せているのか、それもにらみながら、今後を模索していくことになるのでしょう。今後も注目です。

(了)

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