SLIMの「生命力」、宇宙飛行士の「精神力」
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「報道部畑中デスクの独り言」(第362回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は月着陸実証機「SLIM」の近況と、JAXA宇宙飛行士・古川聡氏の地球帰還について---
今年(2024年)1月に日本初、世界で5ヵ国目の月面着陸に成功したJAXA=宇宙航空研究開発機構の月着陸実証機「SLIM」。一時、太陽の方向を向いていなかった太陽電池が発電を始め、月面のさまざまな画像を撮影しました。月は約2週間で昼と夜が入れ替わるため、その後、SLIMは一時「休眠状態」に入りました。
先の小欄でもお伝えした通り、月面の温度は110度からマイナス170度まで、気温差が280度もあると言われます。SLIMの機器、特に半導体は熱に弱く、数日間の運用を想定した設計になっています。
「月の一夜」を明かしたあと、さらに復活するか注目されていました。私は今回はさすがに厳しいかなと思っていましたが、何と! 2月25日にSLIMとの通信が再開されました。驚くべき“生命力”です。JAXAによると、一部機器の温度は100度を超えていたことから、短時間の運用で通信が終了しましたが、機体に搭載された航法カメラで撮影した新たな月面の写真も公開されました。今後、温度が十分に下がれば、観測再開を試みるということです。
1月25日、ピンポイント着陸の成功が確認されたとき、宇宙科学研究所の国中均所長の“自己採点”は63点でした。あれから1ヵ月、相次ぐ成果に、点数はもう少し上乗せされるかも知れません。
さて、宇宙開発と言えばもう1つ、この人が帰ってきます。昨年(2023年)8月から国際宇宙ステーションに長期滞在していたJAXA宇宙飛行士の古川聡さんが、3月8日に地球に帰還することが発表されました。これに先立ち、2月20日にはJAXA東京事務所と結んで記者会見が開かれました。
「将来の国際宇宙探査に向けた実験・実証をしっかり行っていくことを、常に心において仕事をしてきた。地球への帰還までのラストスパート、しっかり着実に仕事をしていきたい」
古川さんはこのように心境を語りました。宇宙滞在を“出張”と呼ぶ古川さん。「すっかり宇宙で生活・仕事することに適応している。もし許されるならば、もっと滞在して仕事を続けていきたいぐらい」と、宇宙が名残惜しそうでもありました。
また、今回の“出発便”はアメリカ・スペースXの宇宙船「クルードラゴン」でしたが、帰還も同様になるもよう。「着水による帰還は初めてなので楽しみ」とも話していました。
この日の会見は、通信トラブルの影響で時間が短くなり、私の質問が時間切れに。結局、書面での回答になりました。「Int-Ball2(イントボール ツー)」と呼ばれる撮影ロボットを使って、ステーションのなかを撮影するシステムの実感について、古川さんはこのように回答を寄せてくれました。
「空中を飛行するスピード、空気の流れがある船内空間でも完全に静止する技術が格段に向上し、加えて、充電ポートに戻って自ら充電する技術も加わった。Int-Ball2は安定して飛行しており、頼もしく思えました」
現在は、実用に向けた最終調整の段階ですが、実用化されれば、宇宙飛行士は仕事の一部を任せ、自分は別の仕事をすることでより効率的な運用につながることが期待されます。例えば、これまで宇宙飛行士が「手動」で行っていた写真・動画撮影を、地上から遠隔操作することもできるということです。地上で叫ばれている「働き方改革」が、宇宙ステーションでも進みつつあるのでしょうか。
昨年はデータ不正の不祥事に見舞われた古川さんですが、あれから吹っ切れたようにも見えます。帰還後、お話をきけることを楽しみにしています。
2023年は件のデータ不正の不祥事、H3ロケット打ち上げ失敗、民間機の月面着陸未遂など、日本の宇宙開発にとっては不遇の1年でしたが、今年はそれを乗り越える年となるのか……挑戦は続きます。(了)
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