「モノづくり」から「コトづくり」「ココロづくり」、日産の活路
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「報道部畑中デスクの独り言」(第425回)
■荒れた株主総会、「新型リーフ」の発表……、慌ただしく過ぎた6月
経営再建中の日産自動車が6月24日、定時株主総会を開きました。日産によると、総会は非公開で出席した株主数は1,071名、所要時間は3時間6分の長きにわたりました。

イヴァン・エスピノーサ社長(日産公式YouTubeから)
冒頭でイヴァン・エスピノーサ社長は「ご心配をおかけしたことをおわび申し上げる」と陳謝、リストラ策への説明が注目されましたが、削減する7つの工場の詳細については明かされませんでした。
株主からは社長の業績回復に向けた決意や覚悟、パートナーや部品供給企業との協業、役員の退任時報酬などが質問にあがったと言います。特に高額な役員報酬に批判が相次いだほか、否決されたものの、議事進行のエスピノーサ社長への議長解任動議が出される一幕もあったということです。また、2025年4~6月期の連結営業損益が2000億円の赤字になるという見通しが示されました。
大荒れとなった株主総会ですが、エスピノーサ体制がこれで確定。今後の手腕が問われることになります。
総会に先立つ6月17日午後9時(日本時間)には、EV(電気自動車)のリーフが新型に三代目に衣替え、公式YouTubeによる世界同時発表になりました。新体制後初の本格的な新型車となります。

新型リーフ(日産公式YouTubeから)
配信画面で颯爽と走る青い車両は巷間言われていた通り、現行のハッチバックタイプからSUV(スポーツ多目的車)に変更。航続距離が600km以上で現行から約3割向上、充電速度は電池残量が10%から80%になるまで最短で35分と、約10分短縮されたということです。EVとして正常進化と言えます。
寸法を見ると、全長4360mm、全幅1810mm、全高1550mm(いずれも国内仕様)。全長は現行より80mm短く、全幅は20mm広く、全高はほぼ変わらずですが、日本の立体駐車場には入ります。ただ、タイヤサイズが16インチから18~19インチになったことで、より逞しくなった印象です。気になるのが車両重量。1794~1982kgとグレードによっては2tに迫ります。現行より約300kgの増加。電池の重さが影響していると思われますが、車両重量も“環境性能”の要素だと思います。いかがでしょうか。
販売はアメリカ市場で今年秋からを予定、そのほかの市場も順次展開するということです。EVの草分け的存在として、捲土重来を期す新型リーフですが、EVの普及が伸び悩む現状で、復活の起爆剤となるかは微妙なところ。「次の一手」が注目されるところです。
■「記憶に残るクルマづくり」、活力の源泉は蘇るか?
話は変わりますが、日本生産性本部の会長が11年ぶりに茂木茂三郎氏(キッコーマン名誉会長)から小林喜光氏(東京電力ホールディングス会長)へ交代することになり、6月11日に記者会見が開かれました。

小林喜光氏
「21世紀に入り、経済の舞台が“モノ”から“コト”へと移ってきた。今後、文化やコンテンツなど、GDPなど従来の指標には現れない心や感性が付加価値になる時代に入ると考えている」
小林新会長はかつて経済同友会代表幹事時代に、財界担当記者として半月に一度、顔を合わせてきました。中央省庁の独特な文章表現のことを「霞ヶ関文学」ということがありますが、小林氏の発言は時に難解な表現があり、私は「小林哲学」と名付けていました。そんな、小林氏から代表幹事時代によく口にしていた「“モノづくり”から“コトづくり”」というフレーズを久々に聞いて、懐かしく感じました。
「コトづくり」とは、高品質な製品をつくる「モノづくり」だけでなく、コンセプトやストーリーなどに付加価値がある製品、付加価値が体験できる製品などを指すと言われます。加えて、これからはGDP(国内総生産)などに現れない「ココロづくり」が重要な時代になるというのが、小林氏の持論です。
さて、日産ですが、思うに日産には、クルマそのものもさることながら、それらのクルマを「伝説やストーリー、ドラマに昇華させる技術」が卓越していると感じます。「技術の日産」の“技術”とはそれを指すのではないかとさえ思います。

日産自動車本社
「日本グランプリで無敵のポルシェを一周だけ抜いた二代目スカイライン」「サファリラリーで活躍した三代目ブルーバード」「米国市場を切り開いたダットサン」「シーマ現象を巻き起こした初代シーマ」「各世代にストーリーがある歴代スカイライン」……、ゴーン体制になっても、「復活の象徴、五代目フェアレディZ」「“ミスターGT-R”にすべてを任せた日産GT-R」など。
しかも、そのドラマの“主役”は経営陣ではなく現場であり、意図してできるものではないことも共通しています。桜井真一郎さん、片山豊さん、水野和敏さん、湯川伸次郎さん、難波靖治さん……、内面から湧き出るようなカリスマ的人材、モノづくりから「コトづくり」「ココロづくり」に昇華させる力は、さしものトヨタ自動車も追いつかない部分ではないかと思います。
そう考えると、クルマというのは典型的なイメージ商品で、広報戦略が大きな位置を占めているとも言えます。頑丈で素性の良い実用車という「モノづくり」がしっかりしていることが大前提ではありますが、そこから「コトづくり」「ココロづくり」へ、それは「記憶に残るクルマづくり」に通じます。日産復権に向けた一つの活路があると思います。
(了)