工場閉鎖に人員削減……、日産再生、あの頃との違い
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第417回)
厳しい数字が並んだ日産自動車の決算会見
「日産を存続させるためには対策が必要。残念ではあるが必須だ。非常に悲しく痛みを伴う決定だった」
5月13日午後5時、横浜の日産自動車本社。イヴァン・エスピノーサ社長は就任後初めての決算会見に臨み、会場は重苦しい空気に包まれました。2024年度通期の決算は最終赤字が6709億円。ゴーン体制の再建策「日産リバイバルプラン」(以下NRP)で膿を出した1999年度の6844億円、ゴーン体制後の2019年度の6712億円に次ぐ巨額の赤字となりました。

日産のイヴァン・エスピノーサ社長
「24年度通期の実績は警鐘を鳴らす内容、25年度は過渡期になる。販売に頼らず、業績改善をより緊急かつ迅速に進め、販売に頼らず収益を確保できる体質にならなければならない」
エスピノーサ社長は会見で「RE:NISSAN」と名付けた再建策を公表。2026年度までに5000億円のコスト削減、2027年度までに車両工場を17から10に、そして2万人の人員削減……、予想されていたこととはいえ、大変に厳しい数字です。人員削減は日本国内も含まれます。また、閉鎖する具体的な工場は明かしませんでしたが、日本国内も含まれるとしています。国内には追浜、栃木、九州、日産車体湘南、日産車体九州の計5つの車両組立工場がありますが、どうなるのか、地元では動揺が広がっているといいます。
四半世紀前の日産リバイバルプランとは何が違う?
これらの再建策を見ると、ほぼ四半世紀前のデジャヴを感じます。そこには多くの類似点があります。歴史をひも解きます。
日産初の外国人社長となったカルロス・ゴーン氏が、COO当時の1999年10月に発表した再建計画がNRP。村山工場、日産車体京都工場、愛知機械港工場、久里浜分工場、九州エンジン工場の計5か所の閉鎖、2万1,000人の人員削減、下請企業半減、系列企業の保有株売却など、ゴーン氏は「多くの痛みを伴う」ことを日本語で訴え、理解を求めました。
今回、閉鎖される工場数、人員削減の規模はNRPに匹敵、エスピノーサ社長も「痛みを伴う決定だった」と話します。やはり外国人社長という「黒船」がないと、日産は変わらないという印象さえ抱かせます。なお、ゴーン氏が日本語で心を揺さぶったのに対し、エスピノーサ氏は英語で淡々としていました。
再建のために組織横断の「迅速対応チーム」を発足させたことは、NRPのクロスファンクショナルチームに重なります。また、巨額の赤字。今回は販売不振の影響もありますが、本来500万台の生産を前提とした資産算定を350万台前提にしてやり直したことも影響しています。このあたりも四半世紀前を彷彿とさせます。

厳しい数字が並んだ決算会見
今回の再建策では開発期間を30カ月に短縮し、そのプロセスに最初に投入される車種として「新型スカイライン」の名を挙げました。当時のゴーン氏は生産を中断していた「フェアレディZ」の復活を明言、2002年に新型として復活しました。日産のシンボルとなる車種を挙げるところに、これまた類似性を感じます。
「体制が変わりましたから、名前もRE:NISSANになりましたから」(関係者)
内田社長時代、昨年3月には「THE Arc」と名付けられた経営計画が策定されましたが、今回の再建策により、なきものとされました。ほぼ四半世紀前、日産は有利子負債2兆円を抱え、「グローバル事業革新」という計画がありましたが、ゴーン体制のNRPにより、これも雲散霧消しました。再建の時代は様々な計画の名称が出るのも世の常です。
「売るものがない?」直面する厳しい現実
一方、NRP当時と決定的に違う要素もあります。まずは「売るものがあるのか」ということ。日本国内では「買いたい車がない」「売りたい車がない」という声がユーザーや販売店から聞こえてきます。NRP当時は経営再建中ながら、シーマ(四代目)やプリメーラ(三代目)などの新型を投入していました。特にシーマには将来の自動運転につながるレーンキープサポートシステムが導入され、技術面でも気を吐いていました。そして、フェアレディZの復活につながるわけです。
これに対し、先に発表された商品計画では日本市場に限って言えば、2025年度に新型「リーフ」、新型軽自動車、2026年度には新型大型ミニバンを投入するということですが、これらの車種が高い商品力をもってユーザーに迎えられるかどうかが注目されます。

横浜の日産本社
さらに、別の意味での「売るもの」が乏しいということ。NRPでは前出の系列企業保有株のほか、宇宙開発など様々な部門を手放しました。痛みを伴いましたが、逆に言えばまだ“資産”を売る余裕があったことになります。「あの時に、全部売ってしまったからなあ」……、最近の日産関係者のつぶやきです。「下請けいじめご法度」の中、工場閉鎖しか大きな手がないとすれば、四半世紀前より状況は厳しいと言えます。
さらに、アメリカの関税措置という先行き不透明な状況が襲います。2025年度の業績見通しは見送り、関税による営業利益の減少が最大で4500億円に上る可能性があるとしました。その上で、2025年4~6月期は関税の影響を加味して2000億円の営業赤字になる見通しを示しています。
当時、ルノーが支えた経営面のパートナーが今回ないことも影を落とします。立ち消えになったホンダとの経営統合について、ホンダの三部敏宏社長は決算会見で「当分ないと理解してもらっていい」と明言しています。様々な協業で乗り切れるのか、新たなパートナー探しを強いられるのか、難しい判断を迫られます。
350万台体制から250万台体制に……、日産はどこを目指すのか?
このほかにもいくつか注目すべき事項があります。工場閉鎖により、2027年度には中国を除く生産体制を350万台から250万台に削減することが示されました。協業による生産もあるため、これがそのまま販売台数に直結するものではありませんが、2024年の日産の世界販売は335万台、これが250万台前後になれば、日本のスズキを下回り、ドイツのBMWグループ、メルセデス・ベンツグループと同レベルになります。
これが何を意味するのか……、規模がモノを言う自動車業界で、250万台規模で経営を維持するには、純然たるプレミアムブランドになるか、新たな企業連合を組んで現状を維持するかの選択を迫られる可能性があります。前出の工場閉鎖についても工場それぞれに役割があります。日産がどんなメーカーを目指すのか、その理念が問われることになります。

入口には「グローバル本社」の文字が躍る
また、決算会見では日本市場について「ラインナップの平均価格の向上」とありました。エスピノーサ社長からは「国内の既存車種より大きな車両に関して、人気のある車種を日本市場に導入し、商品の範囲を広げる」という意向が示されました。これは海外の大型・高価格帯の車種を日本にも導入するという意味にとれます。はたしてここが日産に顧客のボリュームゾーンがあるのかは疑問です。
「目標は達成する。関税の影響がなければ、25年度は損益分岐点を目指す」
エスピノーサ社長はここ1年が勝負であるという認識を示しています。100年に一度の大変革、関税措置、電気自動車の販売停滞……、日産にとって向かい風の要素が多い中、正念場の1年になります。
最後に一つだけ視点を変えて。日産は横浜の本社を「グローバル本社」と名付けていますが、体制はどうであれ「グローバル」という名称は取り下げるべきでしょう。業種は違いますが、シャープは三重県の亀山工場第二工場を親会社である台湾・鴻海精密工業に売却することを発表しました。亀山工場ではかつて「世界の亀山モデル」と呼ばれた液晶テレビを生産していました。グローバル企業を志向したパナソニックも1万人の人員削減を断行します。
「グローバル」「世界」という響きは壮大ですが、同時に「尊大」でもあります。日産の従業員にそのような感覚があるとすれば、捨てるべきです。折りしも世界がグローバリズムからの転換の兆しが見える中、時代にそぐわないとも思います。グループで世界販売首位を走るトヨタ自動車が「町いちばんの存在でありたい」としているあたり、やはり対照的と言えます。
(了)