大西卓哉宇宙飛行士単独インタビュー HTV-X打ち上げ目前「ポストISS」に向けて…【前編】

By -  公開:  更新:

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第440回)

今年8月、約5カ月の宇宙長期滞在を終えて、JAXA宇宙飛行士の大西卓哉さんが帰還しました。今月に日本に一時帰国し、記者会見では「日本のプレゼンス向上に貢献できたのではないか」と振り返りました。その後、大西さんはニッポン放送の単独インタビューに応じました。

大西卓哉宇宙飛行士単独インタビュー HTV-X打ち上げ目前「ポストISS」に向けて…【前編】

帰国後開かれた記者会見

宇宙長期滞在中、大西さんはISS=国際宇宙ステーションの船長を担いました。軌道上にいる飛行士を束ねるという、日本人では3人目の重責でした。

畑中:今回ISSの船長として学んだこと、今後の活動に向けて得たものは?

大西:大きな国際的なチームのリーダーを務めるのは初めてでしたが、それをちゃんと最後までこなして、自分の中で大きな自信になったのが一番得られたものですかね

畑中:「これが船長なんだ」と思った瞬間は?

大西:自分が最終的に決めることが多かったですね、大なり小なり。バシッと明確な、これがいいと思えるようなものがないことの方が難しかったです。同じようなA、B、Cという案があって、どれかに決めなければいけない、でもみんなどれでもいいんじゃないと言っている状況でも最後に自分が決めるしかないので。そういったところは「ああ、船長ってそういう立場なんだ」と思ったところですね

畑中:具体的に難しい判断はありましたか?

大西:難しい判断はなかったように思います。安全に関する部分はある意味シンプル、自分たちがいかにやりやすく、より安全に作業できるかみたいなところはシンプルな判断なので。どちらかというと小さな判断の方が難しかったですかね

畑中:迷ったことは?

大西:迷ったこともいっぱいあります

畑中:具体的には?

大西:具体例は難しい…

畑中:逆にその連続だったということか?

大西:そう、日々細かい判断の積み重ねという感じ。それこそ、休みをどういうふうにとるかとか。途中で1回、商業ミッション飛行士の「アクシオム」のクルー4名が来た時、彼らはそれこそ“短期スプリント”で宇宙ステーションにやってくる。僕らが半年間というマラソンを走っている環境の中にそういうスプリントの人たちが入ってきた時、休みのサイクルもズレてくる。そこで自分たちが休んでいる時に、仕事をしている人がいると休んだ気にならないんですよね。普段の土日の休みからちょっと離れて、彼らと僕らの休みをできれば合わせるようにしてほしいというリクエストをしたりとか、そういう細かい所ですかね(笑)

大西さんは笑って振り返っていましたが、スケジュール調整からまとめ役、何よりも飛行士の命を預かる、その責任、心の砕き方は並大抵のものではなかったと察します。

続いて、大切にしていた宇宙での実験、そして、今後についても聞きました。

畑中:実験の話です。出発前に「わが子のようだ」と話していた静電浮遊炉、調子はどうでしたか?

大西:調子は良かったですよ。10年前とは全然比べ物にならなくて、すごく細かなアップデートを積み重ねてきた結果、作業もしやすかったですね。作業する機会自体も減っていた。基本的には実験自体は地上から完全に遠隔なので、実験1回のシリーズが終わった後にサンプルのホルダーだけの交換と掃除だけやるみたいな感じでした

畑中:わが子よ、ここまで成長したかという感じ…

大西:すごく頼もしかったです

畑中:一方で二酸化炭素除去装置については(設置の機会がなく)残念でした

大西:残念とはいってもそれが打ち上がらないわけじゃなくて、油井さんがしっかり設置してくれると思うので。自分ができなかったのは心残りですが

畑中:これはいずれポストISSに向けて、大西さんもおそらくどこかで恩恵を受ける装置ですよね?

大西:だと思っています

畑中:この装置にかける期待は?

大西:ものすごい期待してます。いかにこれから先、月に行くにしても火星に行くにしても、いかに省スペースで効率よくいままでと同じことをやれるかというのがものすごく重要になってくる。既存の技術をどんどん発展させていくのはすごく期待しています

大西卓哉宇宙飛行士単独インタビュー HTV-X打ち上げ目前「ポストISS」に向けて…【前編】

単独インタビューに応じた大西さん

畑中:5年後にはISSも引退ということですが、今後の宇宙開発はどうなっていくと思いますか?

大西:ここから先は多様化していくと思いますね。宇宙探査と、地球低軌道がこれまでと同様に研究活動とか、あとは一般の方々がそれこそ旅行先としていくような経済活動の場になっていくと思うので、確実に多様化はしていくと思います

畑中:5年後、大西さんはどうなっていますか?

大西:5年後ですか…希望だけで言うとアルテミス計画に向けて訓練をしていると思いたいですけどね

畑中:じゃ、やはり月への…

大西:はい、月へは行きたいです

畑中:出発前は「月への挑戦権を持っている数少ない一人だ」と話していましたが、月への「切符」は近づいた?

大西:近づいたと思いますけどね。2回目のフライトをしっかり終えて、あとはISS船長という役目もしっかりと果たすことができたので。前よりは着実に近づいていると思います

畑中:イメージトレーニングみたいなことはするんですか?月の…

大西:いや、まだそこまではしていないですね。ただ、どんな能力が必要かというのはぼんやり考えることはあって、それこそアポロのころの飛行士がヘリコプターみたいな訓練をされていたのと同じように、今後はそういう実際のテクニカルな訓練というのが……。どうしても、月の着陸船とかの操縦を自分ともう1人のパートナーでやることになるので。私のバックグラウンドであるパイロット的な訓練をもう1回しっかりと取り組む必要があるだろうなと思っています

畑中:先ほど多様化していくという話もありましたが、それは楽しみですか? ちょっと寂しいという感じは?

大西:寂しくはないですね。楽しみではあります。一方ですごくチャレンジングな状況だろうなとも思っていて。特にJAXAの置かれている立場というのは、これから先すごく選択と集中を迫られるんだろうなと思います。どうしても、無尽蔵に予算を持っているわけではないので、必要なものだけを選択して、そこに必要なリソースを集中的に投下していくみたいなそういった戦略性がすごく求められていくような気がします

話に出てきた静電浮遊炉は出発前のインタビューでもお伝えしましたが、微小重力の空間で材料サンプルを高温で浮遊させることのできる装置です。新材料の開発につながることが期待されています。

一方で、二酸化炭素除去装置は呼吸とともに居住空間にたまる二酸化炭素を取り除くというもの。まさに「命綱」とも言えるこの装置で、日本が自前で開発しました。様々な事情で大西さん滞在の時には間に合いませんでしたが、今月下旬に打ち上げ予定の新型補給機「HTV-X」に搭載される予定です。

その、HTV-Xの打ち上げが目前に迫っています。大西さんにはHTV-Xについての思いもききました。これについては次回に譲ります。

(後編に続く)

Page top