ISS船長、気候変動、トランプ政権……、今月の宇宙トピック

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第413回)

大西宇宙飛行士 ISS船長に就任

「日本の有人宇宙開発における貢献が国際社会の中で認められ、未来に対して期待されている証だと思う。期待に応えられるようがんばっていきたい」

ISS船長のシンボル「鍵」を受け取る大西卓哉宇宙飛行士(写真右 NASAテレビから)

ISS船長のシンボル「鍵」を受け取る大西卓哉宇宙飛行士(写真右 NASAテレビから)

ISS=国際宇宙ステーションに滞在中のJAXA宇宙飛行士、大西卓哉さんが日本時間の4月19日午前3時40分ごろ、ISSの船長に就任しました。3月中旬に大西さんがISSに到着して約1か月、ISSでは交代のセレモニーが行われ、ロシアのアレクセイ・オプニチン宇宙飛行士から船長のシンボルである「鍵」が手渡されました。大西さんはその後あいさつ、日本語も交え、冒頭のコメントを寄せました。

日本人宇宙飛行士がISSの船長を務めるのは2014年の若田光一さん、2021年の星出彰彦さんに次いで3人目。大西さんのコメントは、先人が積み上げてきた実績をかみしめているようでした。

星出さんによれば、船長は「中間管理職」のようなもの。「クルーの総意と地上とのチームとのコミュニケーションを図ることを意識して行った」と以前話していました。また、星出さんは独自の方策として、日直を決めて朝礼夕礼の担当を毎日変えたそうです。とにもかくにも「コミュニケーション」が重要のようです。

JAXA山川宏理事長記者会見(4月18日撮影)

JAXA山川宏理事長記者会見(4月18日撮影)

気候変動、トランプ関税……、多岐にわたった理事長会見

このほか、4月にはJAXA山川宏理事長の定例の記者会見がありました。新年度に入ったこともあり、話題の多い会見でした。大西さんのISS船長就任のほか、今年7月以降の油井亀美也宇宙飛行士の宇宙滞在、13日に開幕した大阪・関西万博で常設展示が行われていることにも触れました。万博会場には小惑星「イトカワ」「リュウグウ」から採取した粒子サンプルも展示されているということです。

会見では地球環境において気になる報告がありました。水循環変動観測衛星「しずく」などによる観測で、北極域の冬の海氷面積(年間最大面積)が47年間の各種衛星観測史上、最も小さくなったことが明らかになりました。北極の海氷面積は毎年冬になると拡大し、晩冬の3月には極大となりますが、JAXAと国立極地研究所によると、その面積は1379万平方kmにとどまりました。

昨年12月から今年2月にかけて北極海周辺の気温が平年より高かったことが理由として挙げられていますが、データの残る1979年と比べると、15%ほどの海氷域が失われた計算になります。47年を通じて面積は明らかに減少傾向をたどっており、やはり、地球温暖化の影響を疑う必要があるでしょう。

北極の海氷域面積は減少傾向にある(国立極地研究所・JAXA提供)

北極の海氷域面積は減少傾向にある(国立極地研究所・JAXA提供)

「地球規模の気候変動と関連する現象で、今後の気象や海洋環境への影響が懸念される」

山川理事長は今後の継続的な観測や解析の必要性を強調しました。今年度には新たな衛星「GOSAT-GW」の打ち上げが予定されています。

リュウグウから粒子を採取する“偉業”を成し遂げた探査機「はやぶさ2」は、2031年夏に別の小惑星到着を目指す拡張プロジェクトが進行中ですが、先日、何らかの異常を感知し、「セーフホールドモード」に入っています。会見では現状についての質問も出ましたが、山川理事長は「何らかの状況を感知して安全な状況にある」としながら、「どういう運用をしたらいいか、真剣に検討している」と明言を避けました。“目的地到着”はまだまだ先の6年後、「第二の旅」の行方が気になるところです。

北極域の海氷密接度を示す画面(JAXA理事長会見で)

北極域の海氷密接度を示す画面(JAXA理事長会見で)

一方、アメリカ・トランプ政権は世界に混乱をもたらしています。宇宙開発についても、政権が2026年度のNASA=アメリカ航空宇宙局の科学予算の半減を検討していると複数のメディアが報じました。スペースX創業者のイーロン・マスク氏がSNSで「困った」とも。マーケットと同様、宇宙開発分野も政権に翻弄されることになるのでしょうか。

山川理事長は予算については「決まるまでの長いプロセスの最初の段階であり、最終的には議会が決めるもの」という認識を示しました。その上で、NASAとの連携については、「国際的な科学コミュニティにも多大な貢献をしていると自負している」と、その意義を強調しています。また、宇宙産業や各種プロジェクトへの影響は現時点ではないとしながら、今後については「わからない」と回答。その上で「(影響を見定めるには)もう少し時間が必要ではないか、いろんな対応を想定して準備する必要がある」と述べました。

万博、気候変動、トランプ関税……、様々な産業とつながっており、宇宙開発の分野も無縁ではありません。宇宙の「夢」を実現するには、地上の「現実」をクリアしていかなくてはいけない。動向に注視する必要がありそうです。

(了)

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