参院選、物価高対策に経済の専門家の見方は?
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「報道部畑中デスクの独り言」(第427回)
参議院選挙が今月3日に公示されました。主な争点は物価高対策と「政治とカネ」。とりわけ、物価高対策=「生活とカネ」の問題は文字通り生活に直結するだけに、各党の遊説では多くの時間が割かれている印象があります。物価高対策について主要政党の主張をまとめます。

参院選中盤、投開票は7月20日
★自民党
・生活支援で一律2万円給付。子供や住民税非課税世帯の大人1人4万円を給付
・ガソリン価格の定額引き下げ
・国が率先して「賃上げ」に取り組み、2030年度に賃金約100万円増加目指す
★立憲民主党
・食料品の消費税率を時限的に0%に
・当面は国民1人当たり2万円程度の「食卓おうえん給付金」
・中・低所得者への「給付付き税額控除」ガソリン暫定税率廃止
★公明党
・「生活応援給付」(国民1人2万円、18歳以下の子供と住民税非課税世帯の大人は1人4万円)
・ガソリン暫定税率廃止時期を年末に協議
・所得税減税(さらなる控除引き上げ)
★日本維新の会
・社会保険料引き下げ
・食料品の消費税率を2年間0%に。現役世代を対象に「勤労税額控除」
・最低賃金引き上げ。ガソリン暫定税率廃止
★共産党
・消費税5%に緊急減税、将来的に廃止へ
・インボイス廃止
・最低賃金引き上げ
★国民民主党
・「年収の壁」178万円に引き上げ
・消費税率は実質賃金が持続的にプラスになるまで一律5%に
・ガソリン暫定税率廃止。インボイス廃止
★れいわ新選組
・消費税廃止。廃止までの間「つなぎ」として10万円一律給付
・ガソリン税ゼロに。インボイス廃止
・社会保険料引き下げ
★参政党
・消費税段階的廃止
・所得に占める税金と社会保険料を合わせた割合を上限35%に
・0~15歳のすべての子供に毎月10万円給付
減税か給付か、あるいはその組み合わせか……、様々な主張がありますが、こうした議論は経済の専門家からはどのように映っているのでしょうか? 7月4日に開かれた東京商工会議所の夏期セミナー。講演した第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生さんは次のように話していました。
「政治の世界では給付金・減税のオンパレード。基本は賃金を上げて物価上昇の痛みを吸収する、生産性上げて物価の上昇率以上の賃上げの分配を達成することが企業としてミッション。しかし、政治の世界では選挙前になるとややバラマキ志向に傾いていく。やはり賃上げの恩恵にあずかれない人たちがかなり増えている。民意として反射して野党などの消費税減税に出てくるのではないか」
訳あって賃上げに関われない人々に給付や減税の恩恵が与えられるのであれば、セーフティネットという考え方もでき、一つの見識ではあります。同時に、こうした主張で各党がどこの“支持層”、“票田”を狙っているのかという選挙戦略もうっすら見えてきます。物価高対策なのか、選挙対策なのか。有権者は見極めが必要でしょう。
一方で、給付や減税の話になると、必ず出てくるのが財源の問題です。各党からは「税収の上振れ分」「国の基金」「国債発行」「法人税率引き上げ」「富裕層増税」などが挙げられていますが、注目したいのが「税収の上振れ分」。「取り過ぎた税金を返す」という持論を展開している政党もある中、経済同友会統合政策委員長でデロイトトーマツの松江英夫執行役は次のように指摘します。
「問題は誰に返すかということ。返すというと収めた人が多くいて、そこに返すのが正当化されがちだが、国債の貸し手に返すという優先順位も本来ある。国債比率が高いということは格付けのリスクもある。そのリスクを軽減するには貸し手に返すというのも大事。“返す”という議論があまりにも単純化され過ぎているのではないか」
企業、とりわけメーカーでは株主のほか、意味を広げれば従業員、製品を購入する消費者もステークホルダー(利害関係者)となります。税収に関してもステークホルダーがあるのならば、国債保有者にも税収増の恩恵が与えられるべき…そんな考え方も成り立つかもしれません。
国民感情とは必ずしも一致するものではありませんが、経済の専門家の指摘は選挙戦を多面的に見渡す上で、一聴の価値はあると思います。街頭演説では直感的にわかりやすく伝わる表現が求められますが、こうした指摘に対し、より深堀りした議論となるかどうか、注目していきたいと思います。選挙戦も中盤、投開票日は7月20日です。
(了)