ジャパンモビリティショー2025取材記【2】EV一辺倒からの転換

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第445回)

ジャパンモビリティショー、前身の東京モーターショーを含めて、ここ数回を振り返ると全体的に「EV百花繚乱」「次世代EV」という雰囲気でした。今回も電動化、知能化の流れが基本にはありますが、世界的なEVの伸び悩みを反映し、EV一辺倒ではない姿勢も目立ちます。「敵は炭素」……、こう主張してしたのはトヨタ自動車の豊田章男会長ですが、カーボンニュートラルを目指しながらも、電動化だけではない“違う登山口”からのアプローチがより鮮明になったのも今回の特徴といえます。

ジャパンモビリティショー2025取材記【2】EV一辺倒からの転換

マツダのコンセプトカー「ビジョンXクーペ」 手前にあるのは二酸化炭素回収装置

■敵の炭素を“味方”にする技術、そして、AI、ロケット……

「私たちが目指すのは走るほどにCO₂(二酸化炭素)を減らす未来。マツダが着目したのはクルマを走らせる燃料と、排出されるCO₂だ」(毛籠勝弘社長)

マツダはステージ中央にコンセプトカー「ビジョンX(クロス)クーペ」を出展しました。見た目はスタイリッシュなロングノーズの2ドアクーペですが、動力源はロータリーエンジンのHV(ハイブリッド車)。2年前もHVのスポーツカーを展示しましたが、エンジンをカーボンニュートラル燃料で駆動すれば、二酸化炭素の排出量という点ではEVと遜色ない効果が得られるのがウリでした。

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ロータリーHVの燃料には藻類由来を想定しているという

さらに今回は一歩先を行きます。車両の脇に「CO₂TANK」と書かれたタンクと複数の管などで構成された装置が展示されていました。これが二酸化炭素吸収装置、吸着剤を使って二酸化炭素を分離し、タンクに貯蔵する技術です。貯めた二酸化炭素は農作物の栽培やカーボン素材への活用が可能だということです。さらに藻類由来の燃料によって、カーボンニュートラルを超えた「カーボンネガティブ」を目指します。コンセプトカーにも搭載されているということです。

「内燃機関の自動車メーカーが世界で1つだけになってもつくり続ける。それがロードスターやロータリーエンジンを作ってきたメーカーの使命だ」

かつてのマツダ幹部が話していた言葉を思い出します。

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EV「0シリーズ」が勢揃いのホンダのブース

「ホンダは陸・海・空にわたる多様なモビリティを提供する総合モビリティカンパニー。ホンダの挑戦は宇宙へと広がっている」

こう話すのはホンダの三部敏宏社長。ホンダは0(ゼロ)シリーズと称したEVを展示する傍ら、今年、北海道で実証実験を行ったロケットも展示。稼ぎ頭の二輪ももちろん健在、そして、ホンダジェット……、本当の意味での“マルチパスウェイ”を実践しているのはホンダなのかもしれません。

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陸・海・空…ホンダはロケットも展示

そして、三菱自動車はAIを搭載したPHEV(プラグインハイブリッド車)「エレバンスコンセプト」を展示。加藤隆雄社長は「技術革新を積極的に取り入れながらも、運転する人、乗る人すべての走る喜びを大切にしていきたい」と話していました。

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三菱自動車はAIを搭載したPHEVのコンセプトカーを出展

■軽自動車にも訪れるか?EV化の波

EV伸び悩みの中でも、この分野においてはにぎやかになってきました。

「電気自動車による、皆さんが慣れた軽自動車を提供させていただく。日本の消費者に専用開発させていただいたラッコで、日本にフルコミット(全力で臨む)する!」

劉学亮社長(BYDジャパン)のスピーチにもひときわ力がこもっていました。中国のBYDは2年前に続いての出展。今回は乗用車・商用車で展開するという力の入れようです。そして、いよいよ軽自動車を形にしてきました。軽EVでは初のスーパーハイトワゴン、車名は「RACCO(ラッコ)」。来年夏に市場に投入するということです。

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力が入る中国・BYDのブース

「中国のテストコースで乗ってみたが、びっくりするぐらいよくできている」

自信を持って語るのがBYDオートジャパン・商品企画部担当部長の田川博英さん。ボディ剛性が高いことが乗り心地のすばらしさにつながっているということです。レーザー溶接などの技術も剛性に寄与していると話していました。一般にEVは重いバッテリーの影響で、どっしりと安定した乗り心地に定評がありますが、それだけではないことを強調します。「そもそもEVは軽自動車にとって相性がいいと思う。(日本勢と)対抗云々というより、一緒に盛り上げていければいい」と田川さんは話しています。このほかBYDは、PHEVの「SEALION(シーライオン)6」も出展。EVだけでないエンジン技術もアピールしていました。

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BYDが初めて軽のEVに参入 車名は「RACCO」

一方、日本のスズキも軽のEVのコンセプトカー「Visione-Sky(ビジョンイースカイ)を世界初公開。電動小型モビリティや二輪車を従え、ステージの中央を陣取りました。「地域の事情に合わせたマルチパスウェイの選択肢の一つ」と話すのは鈴木俊宏社長です。

日本の自動車市場で4割近くのシェアを持つ軽自動車、まさに「国民車」とも言っていい分野に訪れた電動化の波、海外勢のチャレンジ…迎え撃つ形の日本勢ですが、鈴木社長は記者団に対し、「生活に密着して使っていただけるクルマ、その道を究めていきたい。勝算どうのこうのいうよりも、やっぱり注目していただいて、(市場を)拡大していくのが重要」と、軽のEV化そのものは歓迎します。ただ、「利益なき繁栄はない」と、価格競争の過熱だけは避けたいと話していました。

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スズキも軽EVのコンセプトカーを展示 来年度の量産化を目指す

すでに軽のEV は日産サクラ、ホンダN-ONE e:(エヌワンイー)などが市場に投入されていますが、BYD、スズキの参入で一気に活性化することが予想されます。

これまで、自動車メーカーの動きをお伝えしましたが、クルマの産業構造そのものに大きな革新をもたらすかもしれない、そんな取り組みが自動車メーカーの外にありました。

(【3】に続く)

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