ジャパンモビリティショー2025取材記【1】ブランド戦略

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第444回)

ジャパンモビリティショーが始まりました。東京モーターショーから名称を変更したのが2年前。略称として「モビショー」の定着を目指します。日本自動車工業会によりますと、参加企業は2年前よりさらに増えて500社以上、今回のテーマは「ワクワクする未来を、探しに行こう!」で、前回の「乗りたい未来」から「ワクワクする未来」となりました。限られた時間ではありましたが、報道公開日の取材、自動車各社トップの発言も交えながらお伝えしていきます。

今回のショーもEV=電気自動車をはじめとする電動化、知能化が基本の流れではありますが、各社それぞれの趣を変えたアプローチもありました。

ジャパンモビリティショー2025取材記【1】ブランド戦略

トヨタ自動車のブース、入口ではトヨタの原点、自動織機が出迎える

■技術研鑽の中で……、政治情勢にも動じない一つの回答

「私自身の使命だと思った。センチュリーブランドを立ち上げることを決意した」

豊田章男会長は力強く宣言しました。国内最大手のトヨタ自動車は子会社のダイハツを含めた4つのブランドを一体として展開しました。その中で高級車「センチュリー」が一つのブランドとして独立、「トヨタブランドの最高級車」から「トヨタグループの最上級ブランド」への転換です。会場にはこれまでのイメージを覆すオレンジ(トヨタでは「緋色」と表現)のクーペが出現しました。

ジャパンモビリティショー2025取材記【1】ブランド戦略

「緋色」と呼ばれるセンチュリーの”クーペ” 左は豊田章男会長

「センチュリーは単なる車名ではない。日本から次の100年をつくる挑戦だ。日本の心、ジャパン・プライド(日本の誇り)を世界に発信していくブランドに育てていきたい」

センチュリーはトヨタの中でも特別な存在と言われ、スピーチでは豊田会長が感極まる一幕もありました。

このほかのブランドも「攻めた」展開で、レクサスでは何と六輪、6つのタイヤがついたミニバンがお目見えしました。これは、将来の月面探査に向けて開発中の六輪車「ルナ・クルーザー」もヒントになったと言います。後輪の「四輪」は前輪より小さく、広い室内を実現、ホイールハウスも小さくなることで、後部座席から「素敵な形で乗り降りできる」(自社メディア「トヨタイムズ」)ということです。

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レクサスの新型「LSコンセプト」は何と六輪のミニバン!

また、ダイハツはかつてのオート三輪の名車を四輪のEV「ミゼットX」として出展。そして、“本家”トヨタのブースは、カローラのコンセプトカーを中心に据えました。

「動力が何であれ、みんなが乗りたくなるかっこいいクルマを実現する」(佐藤恒治社長)

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ダイハツは往年の名車をEVに 「ミゼットX」

EVをはじめ、様々なパワートレーン(動力源)を想定しているようです。そのカローラの両脇には、前回のショーでも出展したワンボックス「KAYOIBAKO(カヨイバコ)」、小型電動モビリティ…まさにマルチパスウェイ、何でもござれ。トヨタの隙のなさには「王者の貫禄」さえ感じます。

さて、この「ブランド戦略」を強調するのはトヨタだけではありません。

「不透明な市場環境にあっても、SUBARUには誰にも真似できない強みがある。それがブランドだ」

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”本家”トヨタのブースはカローラのコンセプトカーを中心に「何でもござれ」

「STIコンセプト」と称する青いEVのコンセプトカーを前に、SUBARUの大崎篤社長は力を込めました。同時にエンジン車のコンセプトカーも展示。流行りの言葉で言えば「二刀流」の構えです。

「多様な客のニーズにこたえていくために2つのコンセプトカーを用意した」(大崎社長)

思えば、EV戦略にしても、トランプ関税にしても、多分に政治的な事情がからんでいます。自動車産業は国内外問わず、政治に振り回された歴史だと言って過言ではありません。技術を磨きながらも、そうした事情に動じないために必要なものは何か…そのキーワードが「ブランド構築」なのだと思います。

SUBARUの「STIコンセプト」EV 右は大崎篤社長

SUBARUの「STIコンセプト」EV 右は大崎篤社長

■ブランド「立て直し」……、復活を期す日産のブース

経営再建中の日産自動車、こちらは「ブランド構築」というより「ブランドの立て直し」になります。ステージは来年夏に発売を予定している高級ミニバン、新型エルグランドを中心に据えていました。イヴァン・エスピノーサ社長は「厳しい状況の中でも、日産は大胆に、より良い未来をつくるべくまい進している。国内市場で成果を出すことが肝心だ」と決意を見せました。

エルグランドはEVではなく、パワートレーンは第三世代のePOWER、日産独自のハイブリッドです。また、電動化と四輪駆動を融合させた「e-4ORCE(イーフォース)」、電子制御のサスペンションを採用し、技術力をアピールします。堂々としたスタイルながら押し出しは控えめ、派手さより、中身で勝負の趣です。

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日産の新型エルグランド 右はイヴァン・エスピノーサ社長

「第二世代に比べて燃費の向上を図っている。アクセルを踏んでトルクがピークに達する時間が長いため、感覚的に“スッと”出て息の長い加速が続くのが大きな強み」

開発担当者の一野健人さんは胸を張りました。長距離を大切な家族や友人と旅行しても快適で疲れない車を目指したということです。

一方で、日産のブース、例年繰り出していた先鋭的なコンセプトカーはなく、全体の演出も派手さは影を潜めました。経営再建中の現状から、「5年先より、まずは地に足をつけて」と、関係者は話していました。

(【2】へ続く)

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