モビリティショー、日産決算から頭に浮かんだある妄想
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第447回)

日産グローバル本社 土地と建物の売却が発表された
■「一蓮托生」か?「水平分業」か?
東京・江東区の東京ビッグサイトで開催されたジャパンモビリティショー。日本自動車工業会の集計では、期間中101万人が訪れたということです。様々な見どころがありましたが、国内のソフトウェア企業「SCSK」がEV(電気自動車)のコンセプトカーを出展していたのは大変印象的でした。前回の小欄でお伝えした通りです。

SCSKが出展したEVのコンセプトカー
このSCSKのすぐ隣にあったのが日産自動車のブース。ステージ上の「新型エルグランド」と、2027年度に国内への投入が発表された大型SUV「パトロール」をメインとしていました。奇しくも両車は日産本体の工場ではなく、グループ企業の日産車体九州で生産されています(エルグランドは現行)。
モビリティショー報道公開日の10月29日、日産車体九州の親会社、日産車体から一通のプレスリリースがありました。内容は、湘南工場をサービス部品生産工場として活用していくというものでした。従業員の技術・技能・知見や保有する設備を活かせること、海外を含めた日産本体の工場や他社のサービス部品生産など、事業の拡張性・継続性が期待できるというのがその理由です。湘南工場は日産の経営再建に伴い、日産車の委託生産を2026年度末で終了する方針が示されたことで、その活用方法が検討されてきました。

モビリティショーのSCSKのブース
部品生産は確かに長くクルマに乗るためには欠かせないものです。ユーザーにとっては「命綱」のような存在です。特に日産には旧車ファンも多く、こうした取り組みは意義あることだと思います。
一方、日産車体はゴーン時代の再建策「日産リバイバルプラン」で京都工場の量産ラインを閉鎖(現在は「オートワークス京都」として特装車などを製造)、そして今回、湘南工場も車両生産を終了し、残る車両組立工場は福岡県の日産車体九州のみとなります。日産との提携開始から実に70年以上が経ちますが、「親」の事情に翻弄された歴史でもあります。

日産のブースの中心だった「新型エルグランド」
日産車体は自社のホームページで、「商用車・プレミアムカーを中心に、開発から生産までを担う完成車メーカー」と謳っています。今後も日産と「一蓮托生」でいくのか、ハードルは高いながら、新たなビジネスとして「水平分業」の輪に入っていくのもアリなのか、モビリティショーの風景を見て、そんな「未来予想図」を考えていました。もちろん無責任な妄想ですが、一般論としてIT企業がこれからのクルマのカギを握ることになれば、自動車業界のさらなる再編も現実味を帯びてくるでしょう。

国内投入方針が発表されたSUV「パトロール」にも多くの関心が集まった
■本体が再建半ばの中、気を吐く日産車体の決算
モビリティショーの最中、自動車各社は2025年度の中間決算を相次いで発表しました。トランプ関税、中国資本の半導体メーカー「ネクスペリア」の影響が話題の中心でしたが、その中で、日産自動車の2025年4月~9月の連結決算は2219億円の最終赤字、横浜市にある本社の土地と建物を売却することも明らかにされました。決算会見でイヴァン・エスピノーサ社長は経営再建について、「まだまだやるべきことがあるが、計画は順調に推移している」と強調。2026年度末までに目標としている固定費・変動費の5000億円削減については「勢いをつけている」と自信を見せました。

モビリティショー期間中に行われた日産の決算会見
進捗状況ではこれまでにコスト削減に関する4500件のアイデアが出され、2000億円の改善効果を特定したといいます。具体的にはヘッドランプ設計変更による効率化や、シートの設計見直しによる材料費削減を挙げました。エスピノーサ社長の発言からは、現場からの意見を吸い上げ、寄り添おうという姿勢は確かに感じます。記者からの「暗黒時代」という指摘に対し、「どういう意味か?大事なのはイメージを変えるということ。お客様から日産は素晴らしい会社と言ってもらうことだ」と反論する一幕もありました。
一方、日産車体の2025年4月~9月の連結決算は約37億円の最終黒字でした。SUVの生産が好調で、生産委託する日産からは日産車体九州の「三直化」(24時間操業)に向けた準備を進めていることも明らかにされました。中でも大型SUVの「パトロール」は、中東を中心に販売が好調。発表された国内投入について、「台数は出ないかもしれないが、利幅は大きい」と日産関係者は話します。日産本体が再建道半ばの中、日産車体が気を吐いているのは光明と言えます。

日産車体
私は日産の決算会見で日産車体湘南工場の活用方法決定に関し、日産の関与があったかどうか質しましたが、エスピノーサ社長は「コメントする立場にない」と明言を避けました。その上で、日産車体九州で生産しているエルグランドとパトロールの今後については、両車とも「生産移管は考えていない」と述べた上で、海外で販売好調なパトロールについては、他工場での増産も視野に検討する考えを示しました。ちなみに今年7月の追浜・湘南両工場の車両生産終了の方針が発表された時、エスピノーサ社長は湘南工場の処遇について、「日産ファミリーの一員として責任を持って対応する」としながらも、決めるのは日産車体としていました。
「日産」の名を冠したグループの中核企業に対し、日産本体は「深謀遠慮」なのか、単なる委託先としてしか捉えていないのか……、その姿勢がいささか冷淡に感じられるのは気になるところです。
(掲載の写真は一部加工しています)
(了)





