ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第446回)
■自動車メーカーのわきにたたずむ未来への意気込み
東京・江東区の東京ビッグサイトで開催中のジャパンモビリティショー。大手自動車メーカーのブースのわきにたたずむソフトウェア企業のブースがあります。青いベールが解かれるとSUVタイプの車両が姿を見せました。

SCSKのブースに現れた1台のSUV 右は當麻隆昭社長
「この1台は確かな出発点であり、社会との共創が動き出した証だ。ここから日本のモビリティ産業が新しい時代へと進化していく、その始まりを象徴している」
「SCSK」が開発したEVのコンセプトカーです。スピーチするのは當麻隆昭社長、室内は運転席から助手席の前方いっぱいに広がるディスプレイが目をひきます。SCSKは新興企業ではなく、コンピューターサービス(CSK)と住商コンピューターサービスが2011年に合併したソフトウェア企業で、前身を含めると半世紀以上の歴史があります。SDV=Software Defined Vehicleという概念があります。経済産業省の定義では、「クラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来の車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車」とあります。

室内に入ると、横いっぱいに広がるディスプレイが目を引く
「日本の自動車会社はピラミッド型の構造だが、世界を見渡すと、いわゆる水平分業型に変わってきている。いろいろ実験をして、こうすればうまくいくという実例をどんどんつくって提案していきたい」
開発担当者のSCSKモビリティ事業グループ・白木世友さんはこのように話します。
SCSKの開発手法はハードウェアのメーカーに要求を出し、開発するというもので、いわゆる「ファブレス(自社で製造設備を持たず、外部に委託する手法)」。今回の車体は中国メーカーのもので、まさにiPhoneのような開発・製造の分担を実行しているといえます。

モビリティショー会場には至る所にSCSKの広告が
ターゲットにしているのは「Z世代」。機能については、現状は車室内に限りますがAIも活用。アプリの更新で最新の状態を保つほか、走ることで蓄積されたクラウド上のデータを分析し、乗員に合ったサービスを提供するということです。クルマに乗ることで機能が更新され、より快適な空間に変えていくことを目指しています。現代のスマホがアプリを駆使し、様々な用途に応えていることを考えると、まさに無限の可能性が広がっていると言えます。
開発のスピードが大幅に早くなる可能性も秘めています。SCSKによると、クルマの開発期間は通常数年かかるところ、ハードウェアとソフトウェアの設計・開発を同時進行で行うことで、9カ月に短縮できたということです。
「水平分業により、自動車のつくり方もいままでとは違うものになっていく」(白木さん)

「タイムスリップ・ガレージ」に展示された「FFジェミニ」。いすゞはかつて乗用車を製造していた
SDVの分野はアメリカIT企業での開発が聞こえてきますが、日本国内でも自動車メーカー以外にこうした芽が育っていることに感慨を覚えます。今回はコンセプトカーであり、すぐに公道を走るというものではありませんが、開発期間9カ月で完成させたことは注目に値します。
「私たちは、完成車メーカーではない」「このクルマは“製品”ではない」……、SCSKのプレス資料にはこう記されています。今後、SDVをめぐる自動車とIT各社の主導権争いはますます激しくなることでしょう。その先にクルマの形はどう変わっているのか?クルマの作り方はどう変わっていくのか?未来の一端をみる思いがしました。モビリティショーの入口にはSCSKの広告が至る所に並び、意気込みの高さもうかがえます。

「モビショー」の一般公開は11月9日まで
今回のジャパンモビリティショーを振り返りましたが、お伝えしたことはごく一部だと思います。このほか、モビリティの未来を紹介する「東京ヒューチャーツアー」が2年前から継続、新たに「タイムスリップ・ガレージ」が設けられ、かつての名車も展示されています。目をひいたのは「FFジェミニ」。当時「街の遊撃手」というコピーで、片側二輪で走るCMが印象的でした。現在はトラック専業メーカーのいすゞ自動車がかつて製造していた乗用車で、いすゞの片山正則会長は現在の日本自動車工業会の会長です。感慨深いものがあります。
「現在・過去・未来」を一望することで、クルマ、モビリティが置かれているいまの立ち位置を知ることができるショーという印象を受けました。一般公開は11月9日までです。
(了)





