ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第449回)
■トランプ関税、半導体問題が話題の中心だった自動車各社の決算
ジャパンモビリティショーのもようを前回お伝えしましたが、その最中、自動車各社は2025年度の中間決算を相次いで発表しました。経営再建中の日産自動車については小欄でもお伝えしましたが、各社はトランプ関税、半導体問題の影響が話題の中心でした。

東京都内で行われたトヨタ自動車の決算発表
国内最大手のトヨタ自動車。2025年度の業績予想を純利益2兆9300億円に上方修正しました。近健太執行役員は「強い需要」「高い商品力」を理由に挙げます。様々な課題があっても、これだけの数字をたたき出すのは恐れ入るばかりです。とは言え、今年4月から9月期の中間連結決算は純利益1兆7734億円で去年の同じ時期より7.0%減少しました。関税の影響も営業利益をベースにして、1兆4500億円と拡大しています。
こうした中で、関税対策としてアメリカで生産したトヨタ車を「逆輸入」するアイデアが浮上しています。近執行役員は、日本で販売していない新たな商品を提供できるメリットはあるとした上で、「どういうビジネスができるのか、検討・準備をしている」と話しています。
関税の影響は他社にも及んでいます。
「関税措置については、ある意味ニューノーマル(新しい標準)、今後も当面続くのではないか」(ホンダ・貝原典也副社長)
「(利益の)半分ぐらいを主に関税影響で失っている、何としても失った2000億円を打ち返していくことが、最初の一歩」(SUBARU・大崎篤社長)
中間連結決算はホンダが3118億円、SUBARUは904億円の黒字をそれぞれ確保したものの、ホンダは四輪事業、SUBARUは日本事業で営業赤字でした。さらに、日本からの輸出に依存するマツダは452億円の最終赤字となりました。
「上期は赤字の決算。大変真剣に受け止めている」(ジェフリー・ガイトン専務)
続いて、ここへきてまたぞろ出てきたのが、半導体問題。オランダの中国系半導体メーカー「ネクスペリア」が米中対立のあおりを受けて、一時出荷停止に追い込まれました。中でもホンダは多くの半導体調達をネクスペリアに依存していたこともあり、決算でも少なくない影響が明らかにされました。
「現時点でわかる範囲で11万台、影響としては1500億円を計上している」(貝原副社長)
その後、オランダ政府はネクスペリアに対する管理措置を停止したことで、事態は収束に向かう見込みですが、自動車産業がグローバルな展開をしている限り、こうした部品調達の問題は今後も噴き出してくる可能性があります。

左:ホンダ決算発表(オンライン画面から)、右:マツダ決算発表(オンライン画面から)
■中古車市場から見た自動車業界の“景色”
中間決算は7社中、日産、マツダ、三菱自動車の3社が最終赤字という結果になった自動車業界ですが、クルマは新車だけはありません。中古車市場の視点からは全く違う“景色”が見えてきます。久々に中古車情報メディア「カーセンサー」統括編集長、西村泰宏さんにききました。
「台数はそんなに伸びていないが、単価は着々と上がり、ここ10年でちょっとずつ成長している」
西村さんによれば、中古車のイメージは10年から15年前は平均100万円以内だったのが、今年あたりには170万円ほどに上昇してきているということです。さらに、中古車ユーザーの約4分の1が、初年度登録から3年未満の高年式のクルマを買っているといいます。このゾーンは中古車としては結構高いのですが、こうしたクルマを購入する層が増えていて、平均値を押し上げていると、西村さんは分析します。
■「残クレ」と新車納期までの「長期化」が生んだ流通形態の変化
中古車の値段が新車と歩調を合わせるかのように上がる一方、その購入手段、流通形態には大きな変化がみられます。背景の一つは残価設定型クレジットや残価設定ローン、いわゆる「残クレ」の影響です。
「残クレ」とは車両価格の一部をあらかじめ残価として設定し、残りの金額をローンで払うというもの。金利が高い、使用期間が限られる、事故を起こすと価値が下がるという面はありますが、高いクルマを安く所有できるプランでもあります。
例えば、1000万円の新車を一括または分割購入するのではなく、ある期間で800万円の残価を設定すれば、差し引き200万円=目減りする分だけをローンで払い込めばいいということになります。特に人気のクルマであれば、中古になっても値段が下がらず、高く売れるため、こうしたことが可能になります。
「売り方の市場変化が大きい、残価設定ローンといった売り方がディーラーで増えている。初回車検を通すか、通さないような車が、ボンボン市場に中古車として、セカンドオーナーの元に届いていくというのが仕組み上、生まれやすくなっている。しかも、残価を設定する場合、残価を減らしたくないので、距離は何万キロぐらいで抑える。買ったから汚れてもこすってもいいやじゃなくて、残価を気にする使い方をしている。そこからすごく程度のいい中古車が生まれやすくなっている」
もう一つは新車納期までの長期化。昨今は人気モデルの「半年~1年待ち」は当たり前。受注ストップにより、注文すらできないというクルマもニュースになりました。「欲しい物だったら、中古でもいいからあるうちに買っておかないと、手元にすぐ入らないという購買の常識変換がコロナ以降、激しく起きている」と西村さんは話します。
■クルマも「スマホ感覚」、購買心理の大きな変化
若年層の購買心理も大きく変化していると西村さんは話します。
「若者は短いサイクルで乗り換えている。クルマ離れというが、クルマの知識を蓄えたり、買い方を能動的に自分で理解しながら買いたいというわけではない、ただ、クルマには乗っているということ。ならば、壊れなさそうな高年式の低走行の新しいクルマを買っておいた方が無難という感じになってくる、若い方のほうが意外と高い商材を買っている」
こうした層は、早い年数で乗り換え、残価が残っている状態で降りる。それは月額でスマホの代金を払いながら、自分のスマホとして使っている感覚に近いようです。
「新しいクルマとの付き合い方になってくる。逆にそういう考え方をしないと、今後、世界的にみて値段がどんどん上がり、価値があると評価されればされるほど、日本人は自分たち(の国)がつくっているのに乗りづらいという世界になっていく」
西村さんはこのように話します。
■「いつかはクラウン」から「いきなりクラウン」「残クレ・アルファード」へ…
かつて「いつかはクラウン」というフレーズがありました。生活が豊かになるにつれ、上級指向が進む……、そこには右肩上がりの世相が映し出されていましたが、最近は「いきなりクラウン」もあり得ます。また、「残クレ」を活用して、若い人が高級ミニバンに乗る「残クレ・アルファード」なる言葉もトレンドになりました。そうした現象からは、収益化を図るメーカーのしたたかさも見えてきます。西村さんは、第三者として見る限り、明らかにトヨタが上手と指摘。そうした「バリューチェーンビジネス」の利益が「今後、めちゃくちゃ伸びる」と話します。
人気のある新車は中古車になってからも欲しがる人がたくさんいるため、中古車の値段が下がりません。リセールも高いので新車としても安心して買える。そうなると「あのクルマ最高」と評価も高まります。
こうなると、メーカーや系列のディーラーなど「同一のグループ」でサイクルを回すことができます。初回で新車を売る時に儲けられる、2回目、3回目、4回目も次のオーナーたちが満足しながら買っていく、もちろん、この過程でメンテナンスの費用も吸収できます。こうして利益率はどんどん上がっていくわけです。
「長く乗りたい、長く売れるいいクルマをつくるというのは自動車業界においては盤石で、一番みんなが目指すべきこと、それが実現できているのが、圧倒的に強いポイントだ」
言い方を変えれば、これこそが「ブランド戦略」なのだと思います。思えば、ジャパンモビリティショーでトヨタは「ブランド戦略」を前面に押し出していました。トヨタの強固な経営基盤がこうしたところからも垣間見えます。

カーセンサー統括編集長の西村泰宏さん
■EV伸び悩み、中古車市場への影響
西村さんには世界に伸び悩むEV=電気自動車についても聞きました。中古車市場には現在影響が出るほどシェアを持っていないとしながら、今後、ある分野では期待が持てると言います。
「シティコミュータ側の方にEV化がようやく追いついてきた、日本のエリアでは本来フィットする環境にある。家族で2台、3台とクルマがあるのであれば、1台、2台はEV化していくことはやぶさかではないという未来が中古車市場でも来るのではないか」
軽自動車のEVは来年、スズキや中国・BYDが参入する予定で、競争も激しくなることが予想されます。一方、西村さんは日本で主導権を握るには、EVでも寒冷地向けに4輪駆動があるかどうかがカギを握るのではないかと分析していました。
■中古車販売業者の倒産増加、その背景は?
昨今目立っているのが中古車販売業者の倒産です、帝国データバンクによりますと、今年1月から5月までの件数が13年ぶりに50件を超えました。仕入れ価格の高騰、利益率の低下が指摘されていますが、この背景についても西村さんから興味深い話がありました。
中古車販売業者は「ユーザー買取」と呼ばれる自分の所で直接買い取るというものと、オークションで落札したものを商品化して売るのが標準的な流れです。
例えば、メーカーAからメーカーBのクルマに乗り換えた場合、BはAのクルマを下取り車として引き取りますが、他社A のクルマはBでは売りにくく、これらがオークション市場に流通するというわけです。
一方で、例えば残クレで所有した後、ユーザーが手放したクルマは、自社が引き取り、状態のいいものは、もう1度自社で「認定中古車」として販売されます。引き取ったクルマがもう一度商品化されて売られる……、こうしたサイクルが生まれると、オークションに一つも“タマ”が流れてこないということになります。
「より利益率の上がる商売ができるか、商品を確実に自分の所で仕入れられる術をもっていない限り、基本的に薄利多売は成り立たない。商売スタイル、流通構造が変わっているのに、うまく対応できない所は当然、売り物もなくてつぶれる」
中古車業者の倒産について、西村さんはこのように分析していました。
自動車業界で言われて久しい「100年に一度の大変革」ですが、西村さんの話を聞いて感じるのは、変革の波は中古車市場にも押し寄せているということです。いや、実はこの分野の方が活発なのかもしれません。クルマは「上流」から「下流」までをたどることで、初めて全体像が見えてくると改めて感じます。
(了)





