日本人宇宙飛行士、宇宙でのつかの間のツーショット!
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「報道部畑中デスクの独り言」(第430回)
■“宇宙飛行士同期”のツーショット
JAXA宇宙飛行士の油井亀美也さんがISS=国際宇宙ステーションに向かいました。悪天候のため、当初の打ち上げから1日延期され、7月中の打ち上げはなりませんでしたが、日本時間の8月2日未明、宇宙船「クルードラゴン」は危なげなくロケットから分離され軌道投入、直後に油井さんは日本語でメッセージを寄せます。

2人の絆を感じる記者会見だった(記者会見場の画面から)
「10年ぶりに宇宙に帰ってきました。ISSでしっかりと任務を果たして、一等星のように輝いて、日本のすばらしいところを世界中の人に知っていただきたい」
約15時間後にはISSに到着、まさに「弾丸フライト」。入室の際、船長として滞在中の大西卓哉さんとハイタッチする光景が印象的でした。メンバーが一堂に会するウェルカムセレモニーで大西さんは「KIMIYA Welcome back(おかえりなさい)!」、油井さんは「国際宇宙ステーションに来られて光栄です。皆さんと一緒に働くのが楽しみですし、この長期滞在でベストを尽くしたい」と英語で話しました。
その2日後、“宇宙飛行士同期”の2人が引継式、記者会見に臨みました。油井さんはリラックスした表情、大西さんは船長の風格か、きりっとした表情に見えました。

ウェルカムセレモニー(NASA提供)
「国際宇宙ステーションで“同期”の2人がこうして滞在できることを心うれしく思っている。新しい宇宙飛行士の方々の道を切り開くことにつながったと信じて、ここを去りたい」
大西さんは引継式でこのように話し、油井さんにタスキを手渡しました。受け取った油井さんはその場から降下するような素振りを見せます。
「重いっすね。これ(笑)。重力ないけど重いです。大西さんが素晴らしい任務を果たし、ハードルを上げてきた。このタスキには日本がこれまで積み上げてきた有人宇宙開発の歴史が詰まっている」
ユーモアを交えながらも任務の重さをかみしめているようでした。そして、油井さんは意気込みを語ります。
「日本は素晴らしい、すごい力を持っていると、自分たちの未来は明るいと思えるような明るい話題をたくさん届けられるようにしたい」

大西さん、油井さんの再会でハイタッチ(NASA提供)
引継式では2人がざっくばらんにかけあう一幕もありました。
「やり残したことは?」(油井さん)
「いくつかやり残したことがないわけではない。(自らが)船外活動をやりたいという目標は達成できなかった。とは言え、船長という大役をいただき、滞在期間中に船外活動を行った。仲間のNASAの宇宙飛行士はしっかりと任務を遂行し、チーム一丸となって成功させた。心残りはもう一つ、HTV-X(新型補給船)がもしかしたら来るかなと思ったら来なくて。油井さんの滞在期間中に来るかもしれない。来た場合どんな気持ちで?」(大西さん)
「もし来ることになったら、しっかりとキャプチャー(把持)できるように、アサイン(任命)してもらえるよう頑張りたい。本当に素晴らしいタイミングだと思う」(油井さん)

ISSとJAXA東京事務所を結んだ記者会見(8月4日撮影)
油井さんは1回目の滞在でHTV5号機(こうのとり)をキャプチャーした実績を持ちます。そういえば帰還後の記者会見で、油井さんがこうのとりの模型に頬ずりするようなポーズをしていたことを思い出しました。
■宇宙開発の足元を見つめる2人 そして、サプライズも
引継式の後に始まった記者会見。油井さんはほぼ10年ぶりの宇宙滞在で「いやあ、帰ってきたという感じがあった」と語ります。大西さんは油井さんとの再会の瞬間について「お互い抱き合って『ようこそ』ぐらいしか言った記憶がない。お互い万感の思いでその瞬間を迎えたと思う」と振り返りました。
滞在中、2人で何か企画しているのか注目されましたが、業務引き継ぎでかなり忙しいとのこと。合い間に可能であれば、2人で日本の写真を撮りあい、SNSで評価してもらう「写真コンテスト」を油井さんは提案していました。以前“検討”されていたお互いの髪を切りあうことについては、2人もすでに散髪を終え、断念したようです。「お互い予防線を張り過ぎた」とは油井さんの言です。

油井亀美也宇宙飛行士搭乗の「クルードラゴン」打ち上げ(NASA提供)
一方、2030年で任務を終える予定の国際宇宙ステーションについて、2人は様々な感慨を持ちながら、現実を見据えていました。「私の宇宙飛行士としての青春をかけた場所。個人的にはまだ全然使えると思うが、民間の宇宙産業をもっと活性化させるという社会的な流れを見た時、宇宙ステーションとしての社会的な役割は終わりに近づいてきたととらえている」(大西さん)
「国際宇宙ステーションも、(日本の実験棟)きぼう自体が私自身の心の希望だった。日本の方々にとっても希望であってほしい。今回は多分最後の滞在になるが、私が感じたきぼうを皆さんにも感じてほしい」(油井さん)

大西さんから油井さんにサプライズプレゼント(記者会見場の画面から)
会見を終えて、大西さんから油井さんに、HTV-Xの管制チームのジャケットが手渡されました。関係者によりますと、サプライズのプレゼントだったようで、油井さんは目の前で着用し、「大西さんからの思い、HTV-Xチームからの思いもしっかり受け取った」と応じました。
大西さんは油井さんを到着した時、「ウェルカムベジタブル」で迎えたと言います。野菜が苦手な油井さんは「野菜の件はスルーしたが、それ以外はとてもうれしかった」と話しました。こんな冗談を言い合えるのも“宇宙飛行士同期”ならではと思います。夢に向かって数多の訓練をともにし、時間を共有してきた者同士の絆と言えます。同時に、宇宙開発の分野において、ISSに日本人2人が滞在していることの意義を感じる記者会見でもありました。
宇宙のツーショットもつかの間、大西さんは早ければ、日本時間の7日にもISSから離脱、地球に帰還します。
(了)