トランプ関税 中国からはどう見えているのか?

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第414回)

5月に入りましたが、4月は世界的にアメリカ・トランプ政権の関税政策に振り回される1カ月でした。4月2日にはすべての輸入品に一律10%の基本関税を課すと発表し、トランプ大統領はこの日を「解放の日」と名付けました。

富坂聰さん

富坂聰さん

同じ日には貿易収支などを踏まえて、特定の国に追加関税を課す「相互関税」の導入が発表されました。同盟を組む日本も例外ではなく24%の関税が課されます。ただ、この相互関税に関しては4月9日、報復措置を取らない国に対して90日間の停止期間が設けられました。

さらに、相互関税のうち、スマートフォンについては除外されました。スマホに関して、中国からの輸入に大きく依存しており、アメリカでの価格高騰が懸念されたためです。ただ、安堵もつかの間、スマホについては、これとは別の「半導体関税」に組み込むことをにおわせています。こうした一連の動きに対して、世界の株式市場は乱高下し、大混乱をきたしました。

一方で、中国に対する容赦ない姿勢は一貫しています。中国も追加関税を繰り出すなど、関税の応酬となっています。互いの関税率は100%を超え、このところ、引き下げの観測も出ていますが、まだまだ予断を許しません。「トランプ関税」は自国アメリカの利益、とりわけ産業保護という目的が建前のようですが、本心がどこにあるのか、日本政府も読み切れていないのが実情です。

日本への影響、我々にとっては当然、最大の関心ごとではありますが、最もターゲットにされている中国からこの「トランプ関税」はどのように見えているのか? 中国と言えばこの人、ジャーナリストで拓殖大学教授の富坂聰さんに聞きました。

トランプ関税は習近平政権への大きな“プレゼント”だった?

畑中:トランプ関税には中国も振り回されたのでは?

富坂さん:振り回された以上のことだと思います。ただ、皆さん感じていると思いますが、割と落ち着いていますね、中国は。

畑中:……ねえ。(同意)

富坂さん:そこのところ、不思議だと思っている人が多いと思いますが、割と腹をくくっていた感じがありますね。中国の場合は、トランプ2.0(二期目)になってトランプ氏の姿勢を見極めてから対策をとるというよりも、トランプ1.0(一期目)の時から、それありきで組み込んできた。こういうことをやるという前提で7年、8年を過ごしてきた。そして、(関税政策は)やはり続かないだろうとみていると思います。

今回の戦いで、中国有利だと思われる要素がいくつかあります。トランプ政権が習近平にプレゼントを渡してしまったんです。

畑中:ほう、それは?

富坂さん:これまで中国は景気が良くなかった。特に消費が湿っていた。人々の先行き不透感がすごかったので、おカネを使わない。それで中国の特に都市住民、お金持ちは「習近平大嫌い」だった。不満がすごいなと思っていたが、この不満が吹き飛んでしまった。逆に「習近平がんばれ」になってしまったんです。

畑中:国が一つにまとまってしまったと。

富坂さん:そうなんです。私が最大のプレゼントと言ったのは、内政を気にしなくてよくなっちゃったことなんです。

アメリカに「クリスマス不況」が来る?

富坂さん:翻って、アメリカの方はどうかというと、消費者は耐えられるのか。物価は上がらざるを得ない、ひょっとしたらモノが不足する可能性が出てくる。特にアメリカのGDPの70%以上は個人消費で成り立っている。冷え冷えになっちゃうんですよ、消費が滞ると。

中国がアメリカに輸出しているものは、一部のこういうものだというものではなくて、生活全般に関わっています。いままさにクリスマス商戦で使うものを、中国から買い付ける時期。サンタの形をしたもの、イルミネーション、小さなグッズまですべて、いま商談している時なんです。

畑中:それは12月に向けて……

富坂さん:それがなくなる可能性があるんです。特に業界でビビっているのは子供のおもちゃ。これは今のままでいったら倍ぐらい(の価格)にならざるを得ない。

畑中:それをアメリカで買う……、スマホどころの話ではない?

富坂さん:スマホどころじゃないんです。それで買い付けのキャンセルも出ているんです。高いモノを買うしかなくなるんです、クリスマスプレゼントから何から何まで。年末にかけて、相当アメリカの方にダメージ来るだろうなと。

畑中:クリスマス不況みたいなものが来る?

富坂さん:何から何まで値段が上がるということになった時に、本当にこれでよかったと言えるのか?

世界の「貿易地図」が変わってしまう? 中国のスタンスは?

畑中:トランプ関税をきっかけに、東南アジアやグローバスサウスと呼ばれる国々が、中国に目を向き始め、貿易地図がガラっと変わってしまう可能性はありますか?

富坂さん:ものすごくありますね。習近平がトランプに“ゼロ回答”のまま、ベトナムとマレーシアとカンボジアに4月中旬ぐらいに行ったのだが、まあ、両国で盛り上がっている。

中国はオバマ政権末期から、相当アメリカの貿易依存はまずいと思い、変えてきている。大体19%ぐらいの依存から、14%ぐらいまで落としている。(今後は)多分もっと落ちますから。いま1位はASEAN、2位はEU、3位がアメリカですよ。これまでアメリカの1位から3位に下がってきたそのトレンドのまま進んでいますから、もっと進むんですよ。

今回のことで多分EUもアメリカとの通商というものにすごく疑問を持ったと思う。保険をかける意味でも中国ともちゃんとうまくやっていかなくてはいけないという方向になっていますから。そうなってくると、(中国経済が)干上がってさあ大変だと駆けつけてくるような話には全くならないんですよね。逆にそれをやって、本当にアメリカに利益になるのかどうか、何でそんなことやるのか、一つ一つ考えていくと、よくわからないわけですよね。だから、それというのをよく知ってもらうためにも、一気に長期戦で血を流してもらって、われわれも流すけど、ちゃんと現実を見てくれと。そんなことになってないでしょと。一方的に中国が得していると、そんなわけないでしょうと。

机上の空論も結構ですが、やれるところまでやってみたらどうですかというのが、いまの中国の姿勢ですよね。

日本は“セカンドチャンス”を模索すべし?

畑中:中国の姿勢に、あえて日本が参考にすべきことはありますか?

富坂さん:あると思います。中国と違って、アメリカへの依存度も相当違いますので、正面からアメリカと対立するということは非現実的。そういう対立ではないが、いわゆる「セカンドチョイス」をどこかで見せていく。つまり、中国のやっていることを参考にするならば、例えばアメリカ以外の市場を考える、そういう動きをできてもできなくても少しやってみるとか。

畑中:どういうところが考えられますか?

富坂さん:やっぱり、いま経済が良くなってだんだん上がってきているところが一番いい。となると、東南アジアを圧倒的に狙っていって。日本はこの何十年間、経済はトップを走ってきた国ですから、ポテンシャルは高いと思います。だから、日本がつくるものというのはブランドだし、実際にモノがいいのもたくさんある。売り先という意味では、どんどん貪欲にやっていくと、案外、開けるんじゃないかと思います。

――赤澤亮正経済再生担当相が訪米し、2回目の日米交渉に臨みます。日米同盟の中、どこまでの結果を勝ち取れるかが注目ですが、同時に日米交渉の結果が、各国が今後控えるディール(取引)の「前例」となる可能性もあるだけに、石破政権は重大な責任を負っていると言えます。

そうした中で、中国は「ボールはアメリカにある、誰が仕掛けたんですか?」と鷹揚な姿勢を崩しておらず、ある種のしたたかさも感じます。いずれにせよ、トランプ政権の関税政策は、世界の市場に混乱をもたらしてはいますが、その景色は国によって、見る角度によって全く違うと言ってよく、日本も複眼的な見方で事に臨んでいく必要があるでしょう。

(了)

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