ホンダの独立独歩は続く? “選択と集中”の難しさ

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第408回)

ホンダと日産自動車の経営統合協議の打ち切りが発表されて1カ月が過ぎました。日産は内田誠社長の退任を発表、4月から新体制となります。

小欄では日産の行く末について、これまで様々な視点から考察してきましたが、一方でホンダも単独での生き残りが難しいことは三部敏宏社長自身が認めています。

東京・青山のホンダ本社

東京・青山のホンダ本社

「電動化、知能化という領域においては、新興勢力含めてかなりわれわれの想定を超える以上のスピードで変化している。個社の中でそれをやると、いまのままでは彼らの背中を捉えることはできない」(2024年8月1日 日産との共同会見で)

ホンダの今後の行方も気になるところです。2月13日、三部社長の会見に先立ち、ホンダでは決算会見がオンラインで開かれました。

二輪事業に支えられる四輪事業

「二輪事業はアジアなどの増加で好調に推移。四輪は中国と中心としたアジアでの減少」

ホンダの2025年3月期の連結見通しは、二輪販売は過去最高の2060万台に上方修正する一方、四輪販売は375万台に下方修正しました。営業利益率は二輪事業が20%近くという驚異的な数字なのに対し、四輪事業は4%程度。数字自体は決して悪くはないものの、物足りない状況であることは確かです。

ホンダは二輪車が稼ぎ頭

ホンダは二輪車が稼ぎ頭

四輪についてはEV(電気自動車)の開発費用を除けば、ハイブリッドを含むガソリン車で利益率は8%ほどで、会見した青山信二副社長は「稼ぐ力はかなり改善している」と話します。利益率を下げているEVについては“仕込みの状況”。さらに2027年に予定している次世代ハイブリッド車の投入で、利益率は10%を超えるという見通しを示しています。

一方、EVについては2026年度に自社開発車種を投入するということですが、今後が見通せないのが実情。青山副社長は「状況に応じて柔軟な対応ができるような取り組みをしていきたい」と話します。

以前、インタビューした自動車専門誌「マガジンX」の神領貢編集長は、実際には行動に起こしていないものの、ホンダの軽自動車(国内市場)撤退検討の話はくすぶり続けていると話していました。「N-BOX」が2024年度の国内車種別自動車販売台数で1位を独走している中、意外ではありますが、二輪との収益の比較でみれば、そういう話が出てくるのもうなずけます。

いずれにしても、ホンダでは二輪が稼ぎ頭であることは疑いなく、ほかの乗用車メーカーと大きく違うところです。二輪は新興国を中心に「まだまだ伸びしろはある」(青山副社長)と意気込みます。二輪主導の体質の中、四輪をどう巻き返すかが注目されます。

ソニー・ホンダモビリティのEV「アフィーラ」(2023年10月 ジャパンモビリティショーで)

ソニー・ホンダモビリティのEV「アフィーラ」(2023年10月 ジャパンモビリティショーで)

ホンダは、トヨタとは違う“全方位戦略”を目指す?

ホンダと日産の経営統合協議が打ち切りになった理由の一つに、スピード感における両社の認識の違いがありました。ホンダのあるOBは「担当者任せのことが多く、いいとなったらどんどん進む」と、意思決定の速い体質を認めます。「個性を大切にしている。評価会でも思うようなことが発言できた」とも振り返っていました。

もはや売上高20兆円にならんとする大企業ですが、DNAであるベンチャー気質は健在。それは“100年に一度の大変革”と言われる自動車業界では強力な“武器”となり得ますが、世界の自動車業界を見渡すと、そうした気質はむしろ“少数派”なのかもしれません。

ホンダはこれまでも部分的な提携はありましたし、現に異業種であり、体質が似ているとされるソニーとはEVの分野で提携、共同出資の「ソニー・ホンダモビリティ」で開発を行っています。

ただ、それ以外に大きな資本提携はありません。“破談”となった日産との再協議の話も取り沙汰されていますが、資本関係で大きなグループを形成するより、独立独歩で技術資産をEV以外の領域へ展開する方向がホンダという会社に合っているのかもしれません。

「どことも組まない方がいい。クルマにこだわらずいろんな機種をやっている。飛行機、耕運機、船外機……、クルマは空を飛ぶかもしれない。乗り遅れないよう技術開発をすべき」

電動垂直離着陸機「Honda eVTOL」のモックアップ(2023年10月 ジャパンモビリティショーで)

電動垂直離着陸機「Honda eVTOL」のモックアップ(2023年10月 ジャパンモビリティショーで)

前出のホンダOBはこう語ります。ホンダの正式な社名は本田技研工業で、「自動車」の文字は入っていません。電動化分野では、ジェット機の電動化や、ロボットの自立自動稼働、二輪の強みを生かし、電動バイクで知見を蓄積するという手もあります。すでに販売している電動スクーターは着脱式のリチウムイオンバッテリーを採用しています。トヨタ自動車の動力源における「マルチパスウェイ」とは違う意味での“全方位戦略”もあり得るのではないでしょうか。

一方、「SDV」(Software Defined Vehicle)に代表される知能化では、ホンダには“次の一手”が見えてきません。三部社長の危機感も実はここにあるようで、この分野でどんな動きを見せるのか。独自開発か? 連携か? 今後の手腕が問われるところです。

生き残りをめぐる“選択と集中”の難しさ

全方位戦略と言えば、日産もかつてはマリーン部門、宇宙航空部門、フォークリフトなど様々な事業を展開していました。かつて放送されていた「新車情報」という番組で、司会で自動車ジャーナリストの三本和彦さんが、“スカイラインの生みの親”と言われた開発責任者の桜井真一郎さんに、「こうするともっとよくなるのでは」と、ある注文を付ける場面がありました。

出たばかりの新型車について指摘されるのは、エンジニアにとっては決して心地いいものではなく、「いや、これは◎◎だから」と反論や言い訳をすることが少なくないのですが、桜井さんはこう答えました。

「当然ですね。日産自動車ですから、何でもやっています」

東京・青山のホンダ本社

東京・青山のホンダ本社

改良すべき点があるのは当然のこと、考えられることはすべてトライしている……。発言からは、より良いものを探求する謙虚さ、技術の日産(あるいはプリンス自動車の魂?)の懐の深さを子供心に感じたものです。

ゴーン時代に断行した「日産リバイバルプラン」を機に、日産は様々な部門を手放しました。マリーン部門が分社化された日産マリーンもいまは消滅しています。

経営再建のためにはやむを得ない措置でしたが、あれから四半世紀あまり。“何でもやっている”会社ではなくなりました。リストラとして資産を売る余裕も乏しいのが現状です。「あの時に、全部売ってしまったからなあ」……日産関係者が寂しそうにつぶやいていました。

自動車産業のみならず、企業は10年先、20年先を見据えるビジョンを策定します。その中で企業は生き残りをかけて“選択と集中”を行います。極めて高度な経営判断が求められますが、それが必ずしもうまくいくとは限らない、ビジネスの難しさ、厳しさと言えます。

(了)

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