「台風一過」は死語になるのか?【畑中デスクの独り言】

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「台風一過」は死語になるのか?【畑中デスクの独り言】

画像1 甚大な被害となった福岡県朝倉市内 おびただしい数の流木で埋め尽くされた。ニッポン放送・後藤誠一郎記者撮影

今月5日、台風3号通過後、日本列島に停滞した梅雨前線の影響で、中国・九州地方では記録的な豪雨となりました。島根県に続いて福岡県・大分県にも大雨特別警報が発表され、30人(7月13日現在)の尊い命が失われたほか、1週間以上が経った現在も行方不明者の救助活動、復旧作業が行われています。ニッポン放送でも後藤誠一郎記者が現地を取材しました。流木の多さが大きな特徴であるというレポートには、その光景が思い浮かぶとともに、なぜこうした現象が起きたのか、今後検証が必要という思いを強くしました。

「台風一過」は死語になるのか?【畑中デスクの独り言】

画増2 7月5日に行われた気象庁の記者会見 福岡県の大雨特別警報発表を伝える

「台風一過」は死語になるのか?【畑中デスクの独り言】

画像3 7月5日午後6時の地上天気図 気象庁資料を基に作成 空気が梅雨前線に向かって収束し、日本海と太平洋にある2つの高気圧に挟まれて前線が停滞している

 

甚大な被害は様々な悪条件が重なる…起きるたびに言われることですが、今回もそうでした。線状降水帯という言葉が今回注目されていますが、これは積乱雲が一つの場所で次々とでき、ある方向に進むことで帯状の雲域をつくるというものです。しかし、これはいつどこでできるのか…予測する技術は残念ながら確立されていません。

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画像4 湿った空気が山の斜面に吹き付けた図 空気は斜面を駆け上り、強制的な上昇流を形成する

一方、この線状降水帯を形成する積乱雲はどのようにできるのか…その条件は「湿った空気が強い上昇流で強制的に上空に持ち上げられる」ことにあります。今回は太平洋高気圧の縁を回るように入ってきた南からの湿った空気(「縁辺流」といいます)がありました。加えてその湿った空気が北西の風とぶつかりました(この現象を「収束」といいます)。集まった空気は満員電車のごとく身動きが取れなくなり、楽になるために上に逃げようとします。まさに強制的に上昇流が発生し雲ができやすい状態となりました。さらに北と南の高気圧に挟まれて梅雨前線も身動きが取れなくなり、長い間同じ領域に停滞するという不運もありました。

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画像5 山を上からみた図 空気が集まる点線の範囲で上昇流が起きやすく、雲ができやすい 今回の豪雨はこのパターンに近い

さらに今回は山の影響もありました。山が天気に影響を及ぼす要素は2つあります。1つは、湿った空気が山の斜面に吹き付ける場合。空気は斜面を駆け上るため強制的な上昇流になります。紀伊半島南部や四国山地南部でよく大雨が降るのはこのためです。もう1つは空気の流れが山によって分断された後、風下で合流=収束する場合です。空気が一気に一つの場所に集まるためこれまた上昇流が起きやすくなります。今回の豪雨は背振山地という福岡・佐賀の県境の山の東側で風が収束して起きたものでした。
日本は3分の2が山地と言われます。そう考えると、やはり今回の豪雨のような現象はひとたび条件が重なれば、どこででも起きる可能性があると言わざるを得ません。起伏のあるくぼ地で湿った空気が集まれば起きうるからです。そしてそれは山に限らず、「超局地的現象」として、例えば高層ビルと高層ビルの間でも起きる可能性も指摘されています。そうした"都市災害"に関する研究も行われています。大都市では高層ビルが林立した影響で空気の流れが変わったという説もあるのです。
そして、長い目で見れば、地球温暖化の影響も見逃すことはできません。科学的に確立した研究はないのですが、温暖化によって北極・南極の氷が溶けやすくなり、海の水は蒸発しやすくなる。水蒸気はいずれ雲になって、大量に地上のどこかに落っこちてくる…そんな現象が増えてきている…容易に想像できる話ではあります。
様々な可能性についてお話ししましたが、最後に一つ…今回は台風の影響はゼロではなかったものの、台風が日本列島を通過してから起きた現象でした。2015年の茨城県常総市で起きた豪雨もそうでしたが、もはや「台風一過」=「台風が通り過ぎた後、空が晴れ渡る」という言葉は「死語」になっていく可能性があります。こうした現象は決して珍しくないという認識を基に、災害を最小限に、減災のために何ができるのか、何を伝えていくべきか…気象関係者や自治体だけでなく、私ども報道機関も改めて考えるべき時期が来ているのは間違いありません。

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