公務の都合により、会見は午後4時までとさせていただきます。
市場移転問題に関する東京都の小池知事の臨時記者会見の取材。
開始前の事務方の一言に嫌な予感がしました。
6月20日午後3時半、おびただしいフラッシュを浴びた小池知事はおなじみ「勝負服の百合子グリーン」それも一段と深い緑色のスーツで会見に臨み、まさに「決断の濃密さ」をアピールしているかのようでした。
「市場のあり方戦略本部」「専門者会議」などで様々な判断材料が出揃い、先週は都民に向けた豊洲の見学会、築地市場の関係者への陳謝、そして、都議選告示を3日後に控えたタイミングでの発表…すべては決断への「地ならし」だったと言えるかもしれません。
会見冒頭、小池知事は「築地市場の再開発を含む市場の新たなプランについて、都の職員にまとめるよう指示した」と発言。
発表された方針は「築地を守る、豊洲を生かす」=豊洲移転・築地再開発…豊洲には追加の安全対策を施した上で「総合物流拠点」としての移転。
一方、築地の跡地は売却せず「食のテーマパーク」のような施設、市場機能も持たせる再開発を行って築地ブランドを生かす…というものでした。
加えて豊洲市場については2020年からのHCFCフロン規制に備えた冷凍冷蔵庫更新に言及するなど、最新設備のショールームとして「豊洲ブランド」を構築する意図も見て取れました。
一見「いいとこどり」…幅広い意見を聞いた上での「最大公約数」的な決断は苦心の跡がみられ、それ自体は多とするところだと思います。
しかし、豊洲への移転はそもそも築地の土地売却ということを前提としたものです。
売却で目論んでいた4,300億円あまりの「皮算用」はどうなるのか?
民間からの賃貸料などでまかないきれるのか?
「ビジネスモデルの転換」による「制度設計」は?…私ども報道陣が一番知りたいことでした。
知事は「税金を新たに投入することないような方策を検討している」としながら、詳細は「精査中」と明言を避けました。
配布された資料には「豊洲への過剰投資という過去の失敗は都民資産の築地市場の『売却』に充当すべきではない」と記され「売却によって一時的に金は入ってくるが、"ハコモノ"をつくったら終わりではない。
将来世代にツケを残してはいけない」と小池知事は"築地維持"の正当性を主張します。
"ウィンウィン"に見える決着ですが、先立つものはお金…一歩間違うと、財政という別の意味での「安心」が脅かされる可能性があります。
それこそ将来にツケを残すことになりはしないか…?
また市場機能を豊洲と築地でどう両立していくのか?
それにも明確な回答はありませんでした。
何よりも記者会見の時間はわずか31分。
しかも前半26分は知事のスピーチに費やされ「まさか"独演会"か?」という空気さえ流れました。
記者の質問はわずか5分ほど、質問できたのは3人だけで、前述の疑問の払拭には程遠いものとなり、記者からは「大事な問題ですから、もうちょっとやりませんか」…記者からはそんな声が挙がりました。
冒頭の嫌な予感が当たってしまった形です。
今回の「生煮え的」な発表は「八方美人的な選挙対策」という批判も招きかねない「両刃の剣」となりそうです。
さらなる説明は求められるのは言うまでもありません。
ただ、興味深かったのは都議会各会派の反応でした。
自民党は「実体の経済を理解しているのが疑問。夢物語だ」と厳しい声。
民進党は「お金がはっきりしないのが心配。選挙の争点にするには複雑でわかりにくい」
共産党は「この問題はますます最大の争点」と鼻息は荒いものの「築地を守ることは大事。ならば豊洲移転は考え直すべき。」と"築地維持"は評価。
「いいとこどり」の決断に皆、困惑した表情でした。
こうした反応も計算づくだったとすれば、皮肉な表現ではありますが、なるほど「見事な選挙戦略」と言えるのかもしれません。