ロケット打ち上げであなたのスマホの●●●がより正確に!【報道部畑中デスクの独り言】

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6/1(木)鹿児島県の種子島宇宙センターから準天頂衛星「みちびき」2号機をのせたH2Aロケットが打ち上げられました。

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ロケット打ち上げの瞬間はいつも緊張。三菱重工・JAXA提供

この日、東京では未明に雨が降るなど天候が心配されましたが、種子島は何とか大丈夫だったようで、三菱重工の責任者も安堵の表情を見せていました。ロケットの打ち上げはそれ自体華やかでも、いわゆる「生活感に乏しい」というイメージがありますが、今回のロケットは日常生活や経済効果に大きな影響を及ぼすものです。

準天頂衛星とは文字通り「天頂」に準ずる…「ほぼ天頂…日本の真上に近い」ところに見える衛星のことをいいます。

それに対して、常に上空のある一点に止まっているように見える衛星は「静止衛星」と呼ばれ、地球の自転周期と同じ周期で公転している関係上、必ず赤道上空に打ち上げる必要があり、日本からは見えない時間が出てきます。
この「静止衛星」が居るのが、赤道上空約36,000キロ(国際的に決められている静止軌道)で、ここは衛星の「過密地帯」と言われます。

対する準天頂衛星は赤道上空ではなく、日本の上空を通る軌道の衛星を複数打ち上げることによって、あたかも日本のほぼ真上にずっと見えるようにする衛星(群)です。
この準天頂衛星は静止衛星に比べて軌道面は40~50度傾き、地球の自転の影響を除くと「8の字」を描くように回ります。
1つの衛星で上空に見え続ける時間は約8時間、よって24時間をカバーするには3基、これに時刻を合わせるための1基を加えて最低4基打ち上げることになります。

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みちびき(これは初号機です)JAXA提供

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みちびきが通る軌道イメージ 日本周辺に「8の字」が見える JAXA提供

「みちびき」はすでに2010年9月に1号機が打ち上げられ、試験的な運用されていますが、今後、年内に3~4号機を打ち上げる予定で、本格運用に入ります。

この衛星が我々の生活に及ぼす秘めた可能性は様々で、すでに実証実験が行われているものもあります。

まずは測位システム。これはモノの場所、位置を測定することのできる仕掛けです。これを使った最も身近なものはご存知、カーナビゲーション=「カーナビ」です。
もはや自動車には不可欠と言っていいアイテムですが、その基本はGPS(Global Positioning System)。
運営はアメリカ国防総省、1970年代に開発された本来は軍事用のもので、約30基が地球の周りを回っています。
カーナビはGPSが民間用に開放した部分の情報を活用し、この情報を基に車の加速度や傾き具合を測るセンサーなどで位置を補正し、車内の画面に映し出しているわけです。
補正自体はGPSとは異なる個々の技術であり、その進歩も目を見張るものがありますが、基本はアメリカ用に作られた衛星ですので、所によってカーナビの精度が落ちる…日本では位置のずれや、ビルの陰や山間部では衛星が見えない場所があると言われます。
今回の準天頂衛星でこうした問題が解決されるのではないかと期待されているのです。

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おなじみカーナビゲーションの画面

位置の精度は例えばGPS単体の場合は10m、これをみちびき1基の運用で数mになり、4基体制になれば1mと、誤差を補正すれば6㎝まで縮まるということです。カーナビやスマホに映し出される地図と自分の位置にわずか6㎝のずれしかないというのは驚異的です。日本はさらに2023年度にはみちびきは7基体制にしGPSなしで精度を6㎝としたい計画です。

みちびきの応用はナビゲーションだけにとどまりません。

例えば「精密農業」。田畑に無人のトラクターを走らせ、きめ細かく田植えなどの農作業をするというものです。トラクターが狭い間隔で植えられた苗を踏むことなく、正確に作業を行うことができるということで、高齢化が進む農家の人手不足の解消にもつながると期待されています。

このほか、きめ細かい位置情報を活用して車線を認識する自動運転への活用、いま注目される無人機「ドローン」に位置情報を送信することによる離島への荷物運搬なども考えられます。
なお、年内に打ち上げるみちびきのうち、3号機は静止軌道に投入し、災害時の安否情報、避難情報への活用が検討されています。そして日本国内にとどまらず、東南アジアやオセアニアへの需要も期待されており、その経済効果は2020年には2兆円を超えるという試算もあります。「21世紀の社会インフラ」とも言われる所以です。

さらに測位システムが整備されれば、他国への利用を有料化するなど、外貨を稼ぐ力になります。
また、受信機はそれぞれの衛星に対応させる必要があることから、その部品に対する利権を握る可能性もあります…そんな事情から、実は国際的にも競争の激しい分野なのです。
ヨーロッパでは「ガリレオ」、ロシアは「グロナス」…2011年に全世界で実用可能になりました。
そして中国は「北斗」…すでに東南アジアで運用を開始し、全球システムの完成が間近と言われています。
このように世界各国がこのインフラの構築に血道をあげています。

一方、この技術はアメリカのGPSを例に出すまでもなく、「軍事」と表裏一体でもあります。
戦時には軍事情報が優先されてカーナビの精度が落ちたり、ダミー情報が流されたり…そんな可能性もあります。
また、北朝鮮の相次ぐミサイル発射など国際社会の緊張で、安全保障上の活用も無視できない検討課題となってきました。
打ち上げ後の記者会見で鶴保庸介宇宙政策担当大臣は現状、具体的な検討はされていないとした上で、「宇宙基本計画では安全保障上の有効活用についても検討を行うとされており、可能性はないとは言えない」と述べ、安全保障分野への将来的な活用に含みを残しました。
このあたりは今後、議論となってくるでしょう。

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打ち上げ成功後の記者会見 種子島宇宙センターの記者会見場とJAXA東京事務所とテレビ会議システムを結んで行われた

まさに「国のカタチ」をも左右するプロジェクトと言っても過言ではなく、日本の今後の取り組みが注目されるところです。

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