韓国大統領選挙取材を終えて(1)【報道部畑中デスクの独り言】
「ムンジェーイーン!」「トンデームン!」
演説会場にどこからともなくこの声が響き、それが波のように広がり、親指を立てながら両手を挙げる候補者が現れる。
群衆からの大歓声…韓国大統領選挙は革新系「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェ・イン)氏の勝利で幕を閉じた。
韓国大統領選挙、一言で言ってそれは「お祭り騒ぎ」であった。
国会議事堂の敷地内、議員会館の中に設けられた共に民主党の「開票状況室」。
ステージには大小11台のモニターがずらりと並べられ、各局の開票特番の状況が一覧できる。
その後ろにはカメラマンが堆い山をつくった。
投票締切の午後8時、カウントダウンがされ、一瞬の沈黙、その後、出口調査の結果で文氏の優勢が報じられ、大歓声が上がった。
所属議員、支援者が続々と入り、もはや場内は満杯の状態に。
現地のテレビ各局は隙間を埋めるように設けられた速報ブースから刻々と最新情報を伝えていた。
午後8時半過ぎ、文氏が現れた。紺色のスーツ、ネクタイ、胸には「セウォル号」のバッチ。
にこやかながら落ち着いた表情であいさつをした。
出口調査の結果と断りながらも「大きな差で圧倒的に勝利しました」と「事実上」の勝利宣言。
「今回の勝利は切実さの勝利」「国民の念願である改革の統合を成し遂げる」と言い切った。
当選確実は出ていないものの、「勝負あった」の空気がすでに開票状況室には流れていた。
その後私は、朴槿恵前大統領の弾劾要求の「ろうそくデモ」が行われたソウル中心部の光化門広場に移動。
日本でいうと名古屋のテレビ塔付近、栄広場に雰囲気や規模が似ている気がする。
午後11時過ぎ、あるテレビ局はサテライトスタジオをつくり、開票特番を生放送していた。
そして文氏が現れるのではないかという情報が流れる中、文氏勝利を祝うステージがいくつも存在し、どこでやるのか最初はわからないぐらいであった。
ステージでは文在寅氏の「応援歌」が流れる。
文氏を迎える準備は整っていた。
午後11時40分過ぎ、文氏の乗る車の列が広場脇の世宗道路に到着。
実は自宅からの移動の間、TVカメラが執拗に追うカーチェイスが生中継で繰り広げてられていた。
やはりただの選挙ではない。
「愛する国民の皆さま」、第一声でステージのボルテージは最高潮に。
「国民すべての大統領になる」「統合の大統領になる」…北朝鮮問題や雇用問題など、政策には触れず、5分程度の短い「勝利宣言」を行った。
その後は日付が変わっても、ステージには文氏のVTRが流れ、それを見て若者たちが歓声を挙げる…花火も挙がる、その雰囲気はライブコンサートそのものであった。
前日はやはりこの広場に「大統領になってあすここに戻ってくる」と最後の演説を行った文氏、そこにはスパイダーカムと呼ばれる、カメラの位置が「蜘蛛の巣」のように張りめぐらされたレールを自由自在に動き、上からの映像が撮影できる設備もついていた。
その映像では観衆が万単位はいたかと思われる。
終了後、客が家路を急ぐ風景は、横浜アリーナの帰りのようだった。
なお、冒頭にあった「トンデームン」という言葉、漢字で書くと「投・大・文」となる。
「投票は大統領に文在寅を」という略語らしい。韓国は「三文字文化」と呼ばれ、このようになんでもかんでも三文字で表すことが多い。
その文化は中国から伝来したなど諸説あるが、本当のところは不明だ。対する日本は「四文字文化」、四字熟語が多かったり、長い言葉を四文字に略すことが多い。
例えばラジオ・テレビの番組でも「あさラジ」「ハッピー」「ビバリー」「とくモリ」「あさイチ」「ビビット」「スッキリ」「ひるおび」「サラメシ」「ミヤネ屋」「ごごスマ」…日本人は四文字が語感やリズムが合うのだろうか。
ちなみに韓国には東大門と書いてやはりトンデムンと読む場所がある。
市場があることで有名な場所だ。
私が同行のコーディネーターに「文候補はこれから東大門に行くのか?」と聞いてみると、すかさず「それはオヤジギャグですか?」と返ってきた。
うーん、コーディネーターさん、日本語を良く知っている。