医師として……、古川聡宇宙飛行士、新天地へ

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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第463回)

医師として……、古川聡宇宙飛行士、新天地へ

古川宇宙飛行士

■27年間を振り返って……「全力で走ってきた」

新年度が始まりました。国会では当初予算案が年度内に間に合わず、11年ぶりの暫定予算が組まれましたが、それでも世の中は流れていきます。新生活を始めた人もいるでしょう。宇宙開発の分野でもこの人が新たな道を踏み出しました。

「27年間勤務したJAXAから卒業することにした。多くの方と知り合い、力を合わせて働けたことを幸せに感じている」

宇宙飛行士の古川聡さんがJAXA(宇宙航空研究開発機構)を先月末で退職しました。それに先立つ3月30日に東京・御茶ノ水で記者会見が開かれました。

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記者会見場に現れた古川さん

古川さんは医師出身で1999年、当時のNASDA(宇宙開発事業団)から宇宙飛行士候補者として選定されました。2001年に宇宙飛行士に認定された後、2011年からと、2023年からの2回、国際宇宙ステーションで長期滞在を担いました。宇宙滞在期間は飛行中を含めて366日に上ります。JAXAの定年は古川さんの学年では62歳ですが、古川さんは現在61歳、定年まであと1年を残しての“卒業”となります。理由については2度目の宇宙滞在から帰還後、データ収集が一段落したこと、飛行経験のない諏訪理さんと米田あゆさんに対し、経験の継承がひと区切りしたことを挙げました。帰還後のニッポン放送のインタビューでは「今後続く日本人宇宙飛行士にしっかりバトンをつないで貴重な経験を伝え、彼ら彼女らの飛行がスムーズにいくように支援したい」と話していたことを思い出します。

「全力で走ってきた。自分でできることはやり切ったと思う。先が見えない大変なこともあったが、自分がコントロールできることを1日1日積み重ねれば、明日は今日よりよくなると思って走ってきた」

古川さんは27年間をこのように振り返りました。

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会見にはJAXA松浦真弓理事も同席した(写真左)

■苦い経験も今後の糧に

会見には一度目の長期滞在でフライトディレクターを務めた松浦真弓理事も同席しました。古川さんについては「医学と宇宙をつなぐ橋渡し」的な存在。そして何といっても印象的だったのが笑顔。「この“恵比須顔”にどれだけ救われただろう」と松浦理事は話していました。取材する側も、緊張した環境の中できりっとした表情の宇宙飛行士が多い中で、古川さんの笑顔は一つの個性と感じていました。

ただ、古川さんには苦い経験もありました。2度目の宇宙滞在を前にした2022年秋、閉鎖環境実験でデータ不正が発覚、当時の実施責任者が古川さんでした。謝罪会見ではトレードマークの「恵比須顔」は影を潜め、痛々しい表情だったことを思い出します。今回の会見でもこれに関する質問も飛び出しましたが、「真摯に受け止めている」とした上で、「日常感覚でもしつこく確認する人になってしまった。時々嫌がられる」と話していました。

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”恵比須顔”が素敵だった古川さん(2023年7月26日 オンライン記者会見の画面から)

今後は杏林大学医学部特任教授として、人材育成などにあたるということです。「“宇宙出張”という特殊な経験をしっかり若い世代に伝え、社会に恩返し、貢献をしていくべき」と古川さんは話します。帰還後のインタビューで今後について尋ねたところ「医師を背景にして貴重な経験をさせていただいた。何らかの形でそれが生かせるような道だとありがたいと思っている」と答えていましたが、そうした思いがずっとあったと今回の会見でも明かしていました。様々な模索の上、自分のイメージに一番近かったのが杏林大学特任教授という職だったということになります。コンプライアンスは大学の研究でも礎と言える部分、前述の苦い経験も今後の糧となることは間違いないでしょう。

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帰国報告会で宇宙食を紹介「ウナギがおいしかった」と語っていた

■新天地と宇宙開発がつながる未来は?

「宇宙航空業界から離れることになるが、一宇宙ファンとして応援していきたい」

このように話す古川さんですが、宇宙滞在の貴重な経験は今後も活かされることでしょう。むしろ活用されなければもったいない気がします。大学という角度から宇宙開発、とりわけ月面探査に関わることになるのか、そして、JAXAと何らかの形で手を携えていくことになるのか……、私が質問したところ、古川さんは「具体的な計画はないが、将来はありうるかもしれない」と語っていました。

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花束を受け取る古川さん

JAXAでは月面探査に向けた研究が始まっています。古川さんと松浦理事によると、地上、国際宇宙ステーションなどの宇宙低軌道、月には1G、0G、1/6Gと重力に大きな違いがあります。医学チームが今後の研究課題としているのは、そうした重力の変化に人間がどう対応できるのか、また、肺の奥に入る可能性のある月のレゴリス=細かい岩の粒や、放射線のリスクにどう対応していくのかということです。JAXAと大学が連携すれば、そうした研究に新たな“化学変化”が生まれるのでないかと期待します。

還暦を過ぎた古川さんですが、自身の理想については「永遠の29歳」と語っていました。「体はきついかもしれないが、がんばって29歳を目指したい」……、本当は「20代」としたいところ、それは無理があるということで、ギリギリの29歳。「新しい挑戦」を象徴するフレーズで締めた古川さんでした。

(了)

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